薪ストーブの家を訪ねると、私たちはつい、庭の薪棚に目が行きます。びっしりと整然と積まれた、薪の壁。木口が揃って、こんがりと日に焼けて、上には雪よけの板。ああ、いい薪棚だなあ、と、しばらく眺めてしまう。薪棚は、燃料置き場である前に、庭でいちばん人柄の出る場所です。今日は、薪棚の美学の話をさせてください。

積まれた薪は、なぜ美しいのか
薪の壁が美しいのは、そこに、秩序と手間が見えるからだと思います。一本ずつ形の違う薪が、人の手で、崩れないように、風が通るように、考えて積まれている。同じものがひとつもないのに、全体としては整っている。自然の不揃いと、人の丁寧さの、静かな合作です。木口の色も、表情豊かです。割りたての白、ひと夏越したベージュ、二年ものの銀灰色。棚の列ごとに色が違うのは、そのまま時間の地層。薪棚は、来年と再来年の暖かさが、目に見える形で貯金されている場所なのです。そして、薪を積む人の性格は、驚くほど棚に出ます。几帳面な人の棚は定規で引いたようにまっすぐ、おおらかな人の棚は、どこか楽しげに揺れている。庭先の薪棚をひとつ見れば、その家の暮らしぶりまで、なんとなく分かってしまうから、面白いのです。(薪の乾燥の話は、こちら。)
世界の薪積みは、面白い
薪の積み方には、お国柄が出ます。ドイツやスイスには、薪を大きな円形に積み上げる「ホルツハウゼン(薪の家)」という伝統があり、庭に薪の塔がそびえる景色は、壮観です。木口を外へ、少し内側に傾けて円く積み、真ん中に端材を立てて詰めていく。崩れにくく、雨を弾き、乾きもよく、何より美しい。ノルウェーの作家ラーシュ・ミッティングが2011年に著した薪の本は、積み方や乾かし方を語り尽くして、北欧で記録的なベストセラーになりました。雪国の民は、薪を積むという地味な仕事に、誇りと遊び心を、注いできたのです。岩手の庭にも、この文化はよく似合うはずです。
実用の作法も、少しだけ
美学と実用は、薪棚では、同じ方を向いています。地面から少し浮かせて湿気を絶ち、雨と雪は上だけ防いで、横は風を通す。南向きの壁際なら、日差しが乾燥を進めてくれます。家の壁にぴったり付けすぎないこと、崩れやすい高さまで欲張らないことは、安全と通気のための作法です。木口を風上に向けると、乾きがさらに早まります。整然と積まれた薪棚は、結局のところ、いちばんよく乾く薪棚でもあるのです。美しく積もうとすると、自然と、風の通る積み方になっている。手は、頭より正直なものです。美しさと実用が一致するところが、薪棚のいいところです。
雪の朝の、薪棚
そして、薪棚がいちばん美しいのは、雪の朝です。白い帽子をかぶった薪の壁から、今日の分を数本抜いて、雪を払い、家へ運ぶ。棚に空いた小さな穴は、今日も火を焚いた印。春までに、穴は少しずつ横へ広がって、やがて空になった棚に、また新しい薪が積まれる。この繰り返しが、薪のある暮らしの一年です。木を割り、積み、乾かし、燃やし、また積む。薪棚は、その一年の、静かな時計でもあります。薪を運ぶ腕に、ずしりとくる重み。それは、そのまま、今夜の暖かさの重さです。雪をかぶった木口から立ちのぼる、かすかな木の匂いも、冬の朝の、ささやかなごちそうです。(薪割りの楽しみは、こちら。)
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写真: daryl_mitchell from Saskatoon, Saskatchewan, Canada (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)



