家の性能が上がるほど、
煙突のまわりは熱くなる。
煙突を包む「囲い」の中は、できてしまえば外から見えません。 その見えないところの温度が、住宅の高断熱化とともに上がっています。 日本暖炉ストーブ協会が実際に測った数字を、そのまま並べます。
木は、何度で燃えるのか
木が燃え上がる温度は250℃くらい、とよく言われます。 けれど、住宅の火事で問題になるのはその温度ではありません。
低い温度で、長く熱され続けたとき。 木はゆっくり変質して炭に近づき、やがて、はじめなら何ともなかった温度で火がつくようになります。 何年もかけて進みます。だから、建てた年に何もなかったことは、安全の証明になりません。
これは推測ではなく、実際に起きた火事を集めた研究があります。 加熱源が何度だったかを並べた表です。
| 建物 | 出火場所 | 着火物 | 加熱源 | 加熱源の温度 |
|---|---|---|---|---|
| 公衆浴場 | 元湯槽下部 | 木材 | 元湯槽 | 80〜85℃ |
| 官庁 | 床裏空間 | 床垂木 | 蒸気パイプ | 107℃ |
| 雑居ビル | サウナ浴場 | 下壁 | ヒーター | 120℃ |
| 工場 | 作業場 | 鴨居 | ガス湯沸器 | 120〜150℃ |
| 食堂 | 調理場 | 側壁 | ガス調理器 | 170〜180℃ |
| 雑居ビル | 地下店舗 | 木製台 | ガスコンロ | 180〜250℃ |
いちばん低いところで80〜85℃。 107℃、120℃という例が続きます。 どれも、触れば熱いけれど手をやけどするほどではない温度です。 それが、何年もかけて木を燃やしました。
平成3年4月23日、北海道のベニア合板製造工場で、壁を貫通するスチームパイプ(直径3.5cm・表面150℃)から出火した事例もある(日本火災学会誌「火災」Vol.42 No.3・1992)。
国立研究開発法人建築研究所 防火研究グループ 成瀬友宏氏の講義(日本暖炉ストーブ協会 2022年度 安全講習会)で紹介されたもの。
法令は、何度までと言っているか
では、どこまでなら許されるのか。 これは気持ちの問題ではなく、数字で決まっています。
| 根拠 | 定めていること | 数字 |
|---|---|---|
| 平成14年 消防庁告示第1号 | 許容最高温度は100度。基準周囲温度は35度なので、許されるのは温度上昇65℃まで。 | 100℃ |
| 昭和56年 建設省告示第1098号 第3第2号 | 廃ガス等が火粉を含まず、かつ廃ガス等の温度が100度以下であること。 | 100℃ |
| 建築基準法施行令 第115条第1項第3号イ(2) | 煙突は、建築物の部分である木材その他の可燃材料から15センチメートル以上離して設けること。ただし、厚さが10センチメートル以上の金属以外の不燃材料で造り、又は覆う部分は、この限りでない。 | 15cm/不燃材料10cm |
つまり法令は、煙突まわりの温度の上限を100℃に置いている。高気密の囲いの中で測られた110.5℃は、この線を超えている。
建築基準法のただし書きも、覚えておく価値があります。 煙突は可燃材料から15cm以上離す。ただし厚さ10cm以上の金属以外の不燃材料で覆えば、この限りでない。 メガネ石が分厚いのは、ここに理由があります。
囲いの中を測った
煙突が屋根を抜けるところには、たいてい「囲い」があります。 チムニーチェイスとも呼ぶ、煙突を包む箱です。 この中がいま何度になっているのかを、協会が実際に作って測りました。
条件は煙突の口元を500℃に保つこと。 囲いを2通り作り、同じ熱をかけて比べています。
| 口元を500℃に保ったとき | A / 従来の囲い 低気密・断熱なし。囲いの中の空気が流れる | B / 高気密の囲い 高気密・高断熱。囲いの中の空気が流れない |
|---|---|---|
| 煙突の最高温度 | 136.2℃ | 170.0℃ |
| ケイカル板の上部 | 77.0℃ | 138.8℃ |
| 囲いの中の空気(雰囲気温度) | 46.6℃ | 110.5℃ |
従来の囲いでは46.6℃だったところです。 家の性能を上げたことで、線を越えました。
部材が悪いわけではありません。資料にもはっきり書かれています。
この事象は、各メーカーの煙突部材の性能差によって起こるものではない。日本において住宅性能の高性能化が進んだことにより、こうした事象が起きている、あるいは起こりうるため、実験が行われた。
建築研究所の研究者は、2022年の講習でこう説明しています。
煙突からの熱は、室内へ伝われば暖房として働く。問題は床・壁・小屋裏へ伝わる分で、ここは遮熱が要る。温度が下がれば問題にならないが、高気密・高断熱化により温度が下がりにくくなっている。温度が高いのは煙突の貫通部で、二重煙突と眼鏡石部分の断熱が重要になる。
なぜ熱がこもるのか
昔の囲いは、隙間だらけでした。 断熱材も入っていません。だから囲いの中の空気は、勝手に動いていました。 煙突が熱を出しても、その熱は空気と一緒に上へ抜けていきます。
いまの囲いは違います。 気密防湿シートを張り、断熱材を入れ、隅までコーキングで塞ぐ。 家の性能を上げるための、正しい作り方です。 ただしその結果、囲いの中の空気は動かなくなります。 煙突が出した熱は、逃げ場を失って、そこに溜まります。
協会はこれを、目でも確かめています。 スモークマシンで煙を流し込んで、囲いの中の空気がどう動くかを見る実験です。
答えは、上で通気を取ること
温度を測った実験と、煙で空気の動きを見た実験。 どちらも同じところに行き着きました。
- 煙突囲いの上部で通気を取った場合、囲いの中の空気は動くことが実証された。
- 煙突囲い上部の通気部分から、空気が出入りしていることも実証された。
- 煙突囲いを設計するとき、囲いの上部で通気を取ることは、温度を測った実験からも、煙で空気の動きを見た実験からも有効である。
囲いの上部に通気の口を設ければ、中の空気は動き出します。 入って、出ていく。それが実際に見えた、ということです。
では、雨は入らないのか
通気の口を開ければ、次に心配になるのは雨です。 屋根の上に穴を開けることになるからです。ここも実験で確かめられています。
通気部材の取り付け方を2通り作り、 風速14〜16m/s(台風を想定)で水をかけました。
- 囲いの天端に付ける(水平仕様)
施工性が高い。囲いの外寸・仕上がり寸法の変更影響を受けにくい。 - 囲いの上端側面に付ける(鉛直仕様)
鉛直に取り付けるため雨水の侵入が起きにくい。一方でチムニーカバーと囲いの外寸・仕上がり寸法の影響を受けやすく、外壁の仕上げ材(ガルスパンサイディング・レンガ調タイル・天然石など)によっては防虫が難しい。
水平仕様には水返し部材とシーリングを足して、追加の散水実験を行った。
通気を取ることと、雨を入れないこと。 どちらかを諦める話ではありません。納め方で両立します。
壁を抜けるところ
囲いの中と並んで見えないのが、煙突が壁を抜けるところです。 ここも協会が実験しています。
150mm厚・450角のメガネ石に二重煙突を通し、 12か所に熱電対を付けて、 500℃を3時間キープしました。実験開始(15時04分)から500℃到達まで約5分。
| 測ったところ | 上 | 中 | 下 |
|---|---|---|---|
| 煙突の表面 | 327.0℃ | 313.6℃ | 322.5℃ |
| メガネ石の表面(メガネ石とケイカル板の間) | 43.2℃ | 44.8℃ | 39.6℃ |
| ケイカル板と木下地の表面 | 41.8℃ | 41.9℃ | 37.0℃ |
| 木下地の裏側 | 24.2℃ | 36.7℃ | 33.6℃ |
躯体部分(煙突以外の9か所)の温度上昇は、開始から1時間は煙突以外は動かず、その後じわじわと微増していった。
正しい部材を、正しく納めれば、熱は躯体まで届かない。
実験した人の言葉も、資料にそのまま残っています。
- 煙突を貫通する位置が低く、熱源の口元に近かったため、メガネ石の中の二重煙突の表面温度が300℃を越えていた。
- 実験後にメガネ石を外すと、煙突に触れていたロックウールに変色が見られた。後日調べたところ、これはロックウールの製造段階で混ぜるフェノール樹脂の変色で、断熱性能と安全には問題がないとのことだった。
- メガネ石に触れていたケイカル板と木部には、変色は見られなかった。
メガネ石は何をしているか
メガネ石はケイ酸カルシウム板です。 不燃認定NM-8578、最高使用温度1000℃、 熱伝導率は0.061 W/(m·K)。 この数字が何を意味するのかを、他の材料と並べると分かります。
| 材料 | 熱伝導率 W/(m·K) | 同じ断熱になる厚み |
|---|---|---|
| メガネ石(ケイ酸カルシウム板) | 0.061 | 100mm |
| ケイ酸カルシウム板(JIS A5430) | 0.18〜0.24 | 290〜390mm |
| 普通レンガ | 0.62 | 1,033mm |
| 耐火レンガ | 0.99 | 1,623mm |
| コンクリート | 1.4〜2.0 | 2,295〜3,279mm |
「同等になる厚み」は、煙突の表面からの距離。 つまりメガネ石100mmと同じことをコンクリートでやろうとすると、2.3〜3.3mの厚みが要る。 レンガでも1mを超えます。あの白い石は、それだけのことをしています。
裏を返せば、メガネ石を省いたり、寸法の足りないものを使ったりすると、 代わりになるものはありません。 壁の中は、できてしまえば見えません。見えないところほど、決まりどおりに納めます。
石膏ボードでは、代わりになりません
よくある思い違いに触れておきます。 石膏ボードは不燃材料ですが、煙突まわりの被覆には向きません。
せっこうボードは120〜150℃に加熱されると結晶水全体の3/4が脱水して半水石膏となるため、被覆の効果は低下する。
石膏は結晶の中に水を抱えていて、その水が蒸発するあいだ温度が上がりません。 それが石膏ボードの強みです。ところが煙突まわりのように長く熱され続ける場所では、 その水を使い切ってしまいます。使い切ったあとは、ただの板です。
建築研究所が推奨している納め方は、こうです。
眼鏡石を支える部分、特に可燃性の木材と接する部分を被覆する。けい酸カルシウム板、ロックウール・グラスウール等の断熱材を使う。
これから家はどうなるか
この話は、これから重くなっていきます。 家の断熱は、国の制度として上がっていくことが決まっているからです。
| 2025年4月 | 省エネ基準への適合が義務化された |
| 2030年度 | 省エネ基準をZEH水準(断熱等性能等級5相当)まで引き上げる予定 |
| その先 | 2050年の脱炭素社会へ向けて、さらに上がっていく |
将来的には、現在の北海道と同じような数値(断熱性能)になっていく。 岩手はもともと寒い土地です。断熱は、これからさらに厚くなります。
家が良くなることと、煙突まわりが熱くなることは、同時に起きます。 どちらかをやめる話ではなく、両方を分かったうえで納める話です。 そのために、協会は実験を続けています。
当社は、どうしているか
ここまでは、協会が確かめたことでした。 ここからは、当社が岩手の現場でどうしているかを書きます。
現場に関わる者は、認定技術者です
当社では、現場に関わる者はJFSA認定技術者の資格を取っています。 建築基準法・消防法・労働安全衛生法と、海外のガイドラインを学び、試験を受けた者だけが認定されます。 3年ごとの更新があるので、取ったら終わりにはなりません。
このページで書いてきたとおり、 囲いの中も、壁を抜けるところも、できあがってしまえば誰にも確かめられません。 確かめようのない仕事だからこそ、確かめられる形にしておきます。
2年に1度は、見せてください
2年に1度はメンテナンスをしないと、お互い不安です。 煙突の中も、囲いの中も、住んでいる方からは見えません。ご連絡いただければうかがいます。 他社で設置された機械もお引き受けしています。
それでも、の備え
資格を取り、基準どおりに据える。それでも「万が一」は残ります。火を扱う仕事だからです。
当社は独自の保険に加入しており、10年間で最大3億円の保証がかかっています。 使わずに済むのがいちばんですが、 お客様の家に火を入れさせていただく仕事なので、持っています。
この数字は、どこから来たか
このページに並べた数字は、すべて 日本暖炉ストーブ協会 の実験と講習の資料によります。当社が行った実験ではありません。 当社は平成29年9月1日に協会へ入会し(岩手県内の施工販売会社としては初の加盟です)、 以来こうした実験の結果を、岩手の現場で使ってきました。
囲いの中も、壁の中も、できてしまえば見えません。 見えないところをどう納めるかは、住むかたには確かめようがない。 だからこそ、数字を open にしておきます。 これを読んだうえで、当社にでも、他社さんにでも、聞いてみてください。
よくある質問
煙突の囲い(チムニーチェイス)の中は、何度くらいになりますか?
日本暖炉ストーブ協会の実験では、煙突の口元を500℃に保ったとき、従来の囲い(低気密・断熱なし)で囲いの中の空気が46.6℃、高気密・高断熱の囲いでは110.5℃まで上がりました。囲いの中の空気が流れるかどうかで、倍以上の差が出ます。
高気密・高断熱の家だと、薪ストーブは危ないのですか?
家の性能が上がること自体が危ないのではありません。危ないのは、囲いの中の空気が流れないまま、昔と同じ作り方で煙突を納めることです。囲いの上部で通気を取れば、中の空気は動くことが実験で確かめられています。設計の段階で分かっていれば、対処できます。
木は何度で燃えますか?
一度に燃え上がる温度は250℃前後といわれますが、火事で問題になるのはそこではありません。低い温度で長く熱され続けると、木は炭のように変質して、やがて低い温度でも火がつくようになります。壁の貫通部から出火した実際の事例では、107℃や120℃という例が多く、80〜85℃で出火した例も報告されています。
メガネ石は、どれくらい効いているのですか?
壁の貫通部の実験では、煙突の表面が327℃まで上がったときに、メガネ石を隔てた木下地の表面は41.9℃でした。メガネ石の熱伝導率は0.061W/(m·K)で、同じ断熱をコンクリートでやろうとすると2.3〜3.3mの厚みが必要になります。正しい寸法のものを、正しく納めることが前提です。
囲いの上で通気を取ると、雨は入りませんか?
そこも実験で確かめられています。通気部材の取り付け方を2通り用意し、風速14〜16m/s(台風を想定)で水をかけました。水平に付ける方法では隙間から水滴が入ることがあり、水返しの部材とシーリングを足して改めて確かめています。通気を取ることと、雨を入れないことは、両立させる作り方があります。
うちの煙突の囲いは大丈夫でしょうか?
囲いの中は、できてしまうと外から見えません。気になる場合は、いつ・どういう作り方で建てたか、囲いの上で通気を取っているかをお知らせください。図面と現場を見てお答えします。岩手・盛岡のD'STYLE、TEL 019-681-2477。他社で設置された機械もお受けします。
見えないところの話を、
ぜんぶ表に出しています。
薪ストーブで本当に怖いのは、壁の中や囲いの中など、 できてしまえば誰にも確かめられないところです。 当社は日本暖炉ストーブ協会に加盟し、現場に関わる者は認定技術者の資格を取っています。 そこで学んだことと、国の資料や研究で裏の取れたことを、そのまま公開しています。
どのページも、出どころを全部書いています。 当社が行った実験ではないものは、そう明記しています。 数字は、一次資料まで確かめたものだけを載せました。
ここまで読んだあなたと、話したい。
ここに書いたことは、全部うちが現場でやっていることです。
煙突の高さも、給気の穴も、機種の選定も、この考え方で決めています。
盛岡のショールームには、火を入れた実機があります。数字の話の続きを、炎の前でどうぞ。