薪ストーブの「煙突の中の火事」、煙道火災。その主犯はタール(クレオソート)です。3mm積もれば発火リスクあり。さらに煙突まわりの木部がじわじわ炭化する「低温炭化」という現象も、長い年月をかけて火事の下地をつくります。タールの正体から、仲間の職人と実物大で検証した煙突まわりの熱の話、そして予防策までをまとめました。
ススとタールは別物です
煙突の中に付く汚れは2種類あります。ひとつはスス。木が燃えたあとに残る乾いた黒い粉で、ブラシで払えばサラサラと落ちます。もうひとつがタール(クレオソート)です。煙に含まれる水分と可燃性ガスが、冷えた煙突の内壁で固まったもので、ベタベタの液状から、焼き付いてカチカチの層になったものまであります。
厄介なのはタールです。正体は燃え残った可燃成分そのものですから、条件がそろえば煙突の中で燃え出します。煙突掃除の世界では、タールが3mm積もれば発火リスクありと判断します。3mmは、焚き方を誤ればワンシーズンで十分に到達する厚さです。
タールを増やす焚き方
タールの原因は「低温の煙」です。代表格が生乾きの薪。水分の多い薪は燃焼温度が上がらず、煙の温度も下がるため、煙突内でタールが一気に増えます。しかも水分の蒸発に熱を奪われるので、部屋は暖まらないのに薪の消費だけが増える、いちばん損な焚き方です。
もうひとつが、空気を絞りすぎたくすぶり燃焼です。火持ちを狙って空気レバーを閉じ切ると、炎が消えて煙だけが立ちのぼる状態になります。この煙こそタールの原料です。ガラスが真っ黒になる焚き方は、煙突の中でも同じことが起きているサインです。
煙道火災とは「煙突の中の火事」です
煙道火災とは、煙突内に積もったタールに火がついて燃え上がる火事です。タールは一度着火すると勢いよく燃え広がり、煙突内は1,000℃級の高温に達します。シングル煙突なら赤熱し、壁や屋根の木材を発火させる危険があります。
怖いのは、外から気づきにくいことです。煙突はもともと高温に耐える構造ですから、初期は室内から異変が見えません。「ゴー」というジェット機のような吸い込み音、そして煙突トップから吹き上がる火の粉や炎。この2つが代表的な兆候です。
※ 燃焼中に「ゴー」という聞き慣れない吸い込み音がしたら、煙道火災の可能性があります。ストーブの空気調整をすべて閉じ、迷わず119番通報してください。煙突に水を掛けるのは厳禁です。
低温でも、木は炭になる
火事と聞くと、真っ赤に燃える炎を思い浮かべます。煙突まわりで本当に怖いのは、もっと地味な現象です。木材は、発火する温度よりずっと低い熱でも、長い年月くり返し受け続けると、少しずつ炭のように変質していきます。低温炭化と呼ばれる、この静かな進行が曲者です。炭に近づいた木は、もとの木より低い温度で火がつくようになる。何年も問題なく使えていた家で、ある日ふいに火が出る背景には、この長い蓄積があることが多いのです。
煙突まわりの熱は、どこに籠るのか
煙突の熱は、まっすぐ上に抜けるだけでは済みません。貫通部の金物や周囲の木部へ、じわじわと伝わっていきます。仲間の職人たちと、実物大のモックアップ(壁と屋根の一部を実物と同じように組んだ試験体)を足場の上に立ち上げ、煙突が屋根を貫く部分の熱を手を動かして確かめました。カタログの数字だけでは見えないことが、実物で組むと浮かび上がります。
二重断熱煙突と適切な離隔があれば、木部の温度は安全な範囲に収まります。逆にそこが甘いと、長い年月のあいだに木がゆっくり炭化し、ある日の一度の高温で火がつく。目に見える炎よりも、目に見えない「じわじわ」のほうを先回りして確かめておきたいのです。
二重断熱煙突と、離隔という知恵
煙突を二重にして、あいだに断熱の層をはさむと、内側は高温を保って引きを強くしつつ、外側の表面は触れられるほどに温度が下がります。煙道の中はしっかり熱く、まわりの木部には熱を移さない。この構造が二重断熱煙突です。あわせて、煙突と木部のあいだに適切な距離をとり、遮熱の板をはさむ。「離す」という古くからの知恵が、屋根裏の木を静かに守り続けます。
予防は3つだけ。難しいことはありません
煙道火災は、原因がタールとはっきりしている火事です。だから予防もはっきりしています。第一に、含水率20%以下までしっかり乾かした薪を使うこと。第二に、空気を絞りすぎず、炎のある燃焼を保つこと。第三に、年1回の煙突掃除でタールとススをリセットすることです。
盛岡や岩手のように焚く期間が長い東北では、ワンシーズンでたまる汚れの量も多くなります。シーズンオフに煙突の中を毎年ゼロへ戻す習慣が、燃費にも安全にも効く最良の保険です。そして煙突まわりの施工が適切かどうかの確認も、年に一度の点検で一緒にやる価値があります。
この記事のポイント
- スス=乾いた粉、タール=煙が冷えて固まった可燃物。危険なのはタール
- タールは3mm積もると発火リスク。煙道火災では煙突内が1,000℃級になる
- 生乾きの薪と空気の絞りすぎがタールを増やし、薪の消費も増やす
- 低温炭化:発火温度より低い熱でも、長年受け続けると木は炭化し、燃えやすくなる
- 二重断熱煙突と適切な離隔が、煙突まわりの木部を低温炭化から守る
- 兆候は「ゴー」という吸い込み音と、煙突トップからの火の粉
- 予防は乾いた薪・炎のある燃焼・年1回の煙突掃除の3つ
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写真: Jarkko Iso-Heiko (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.5), Timo Newton-Syms (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)

