夏のフィンランドを旅すると、時計の感覚がやわらかくほどけていきます。夜の十時をまわっても空は青く明るく、真夜中でも西の低い空にオレンジの光が残る。太陽が地平線のすぐ下を転がるように動き、暗くなりきらないまま朝を迎える。これが白夜です。北へ行くほどその度合いは強まり、北極圏のラップランドでは、何週間も太陽が一度も沈まない日が続きます。今日は、夜が来ない夏という、北欧のふしぎな季節の話をします。

太陽が、沈まない
白夜が起きるのは、地球の地軸が傾いているからです。夏の北半球は太陽のほうへ大きく傾き、緯度の高い土地では、夜になっても太陽が地平線の下まで下がりきりません。首都ヘルシンキでも、夏至のころは夜が二時間ほどしかなく、その夜さえ本当の暗闇にはなりません。フィンランドの人々は、この明るい季節を心から待ちわびます。長く暗い冬を耐えたぶん、光あふれる夏は、体じゅうで浴びるように味わうごちそうなのです。
眠りと、明るさの付き合い方
夜も明るいと、体は眠るための合図を受け取りにくくなります。そこでフィンランドの家には、厚い遮光カーテンやブラインドが欠かせません。窓をしっかり暗くして、体内時計を整えてから眠る。子どもたちも、カーテンを引いた薄暗い部屋で夏の夜を過ごします。それでも、明るい夜そのものを楽しむ人は多く、真夜中に散歩をしたり、湖で泳いだり、庭で本を読んだり。夜という時間の使い方が、日本とはまるで違う、のびやかな夏がそこにあります。
ユハンヌス、夏至の祝祭
白夜の夏をいろどる最大の行事が、六月下旬のユハンヌス、夏至祭です。フィンランドの人々にとって、一年でもっとも心待ちにする祝日といってよいでしょう。この日ばかりは都会が静まりかえり、多くの人が湖畔のコテージへ出かけます。夜になっても沈まない太陽のもと、湖のほとりで大きなかがり火コッコをたき、白樺の枝で家を飾り、家族や仲間とサウナに入る。花を摘み、歌い、湖に浮かぶ光をながめながら、明るい夜がふけていきます。太陽の力がもっとも満ちるこの一日を、北の人々は古くから特別な喜びとして祝ってきました。夏至の夜に摘んだ草花には不思議な力が宿るという、古い言い伝えも残っています。
湖畔のコテージで過ごす夏
白夜の季節、フィンランドの人々はこぞって湖畔のコテージ、モッキへ向かいます。都会を離れ、森と湖に囲まれた小屋で、電気もほどほどに、自然のリズムで過ごす。夕食のあと、明るい夜の中でサウナをたき、火照った体のまま湖へ飛び込む。水面は空の光を映して銀色にゆれ、夜と昼の境目がとけあいます。白夜のサウナと湖水浴は、フィンランドの夏のいちばんの楽しみであり、この国の人が守り続けてきた、静かで豊かな時間です。
岩手の夏の夜と、重ねてみる
岩手の夏は、フィンランドほど夜が明るくはなりません。それでも、夏至のころの盛岡は朝四時前から空が白みはじめ、夜も七時すぎまで明るさが残ります。日の長い季節に、外の空気を感じながら過ごす夕方の心地よさは、北欧の白夜に通じるものがあります。庭先で火をたき、明るいうちからゆっくりと夜へ向かう。そんな時間の流れを暮らしに取り入れると、短い東北の夏が、ぐっと豊かに感じられるようになります。
明るい夜を、蒸気で締めくくる
白夜のいちばんのごちそうは、明るい夜に入るサウナと、そのあとの水風呂です。この北欧の夏の楽しみは、岩手の家でも十分に味わえます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、夏の夜をゆっくり締めくくる火と蒸気の時間をご提案しています。明るい夜のサウナの話も、店でどうぞ。
写真: Maasaak (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



