白夜の反対に、フィンランドには極夜があります。カーモスと呼ばれるこの季節、北極圏では太陽が一度も地平線の上に顔を出さない日が、何週間も続きます。とはいえ、一日じゅう真っ暗というわけではありません。昼の数時間、空は深い青やすみれ色にほのかに染まり、雪がその光をやわらかく照り返す。今日は、闇の季節にこそ現れる、フィンランドの光の話をします。

太陽が昇らない、数週間
カーモスが訪れるのは、北緯六十六度より北の土地です。ラップランドの北の町では、十二月から一月にかけて、太陽が地平線の上に出ない日が続きます。緯度が高いほどその期間は長く、最北端では二か月近くにおよぶこともあります。それでも真夜中のような闇ではなく、昼ごろには空が青くかげり、遠くの山や雪原がぼんやりと見える。太陽のない昼という、日本ではなかなか体験できない時間が、静かに流れていきます。
青い時間、シニネン・ヘトキ
極夜のいちばん美しい瞬間は、昼の短いひとときに訪れます。空も雪も、あたり一面が深く澄んだ青に染まる時間。フィンランドの人はこれをシニネン・ヘトキ、青い時間と呼びます。太陽は地平線の下にあるのに、その光が空気を通してやわらかく回り込み、世界を青一色に沈める。写真では写しきれない、静けさそのもののような色です。この青の時間を目当てに、冬のラップランドをたずねる旅人も少なくありません。
夜空にゆらめく、オーロラ
太陽の出ない極夜の空は、別の光の舞台にもなります。オーロラです。フィンランド語ではレヴォントゥリ、狐火と呼ばれ、雪原を走る狐の尾が雪をはね上げて夜空を光らせる、という古い言い伝えから名づけられました。空の晴れた寒い夜、北の低い空に淡い緑の帯があらわれ、ゆっくりとゆらめき、ときに紫や赤みをおびて流れていく。極夜のラップランドは、長い闇があるからこそ、この光をもっとも美しく見られる土地です。オーロラをながめるためのガラス張りの小屋に泊まる旅もあり、世界中から人が訪れます。暗さを嘆くのではなく、闇の中にあらわれる光を待ち、めでる。カーモスの季節は、そんな北の楽しみに満ちています。
闇を、光でもてなす
長く暗い季節を、フィンランドの人はただ耐えるのではなく、光でやさしく満たして過ごします。窓辺にはキャンドルや電気の灯りをともし、街路や家々はあたたかな明かりで飾られる。もうすぐクリスマスという時期でもあり、雪の町はやわらかな光にあふれます。暗さを嘆くのではなく、小さな光を一つずつ増やして、心をあたためる。この暮らし方は、暗い冬を持つ土地に生きる人々の、静かな知恵そのものです。
岩手の冬の、日の短さと
岩手の冬は、極夜ほど極端ではありませんが、それでも日の入りは早く、四時をまわると空は暗くなりはじめます。長い夜の時間をどう過ごすかは、雪国に生きる私たちにとっても、大切なテーマです。暗くなったら灯りをともし、火をたき、あたたかい室内でゆっくり過ごす。フィンランドのカーモスの暮らしは、東北の長い冬の夜を心地よく過ごすための、たくさんのヒントを教えてくれます。灯りと火をうまく使いこなせば、長い夜はむしろ、一日でもっとも心の落ち着く、あたたかな時間へと変わっていきます。
長い夜を、炎の明かりで
暗い季節を、小さな炎の明かりであたためて過ごす。この北欧の知恵は、岩手の冬にとてもよく似合います。岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブの炎やハルビアのサウナヒーターで、長い夜をあたたかく満たす暮らしをお手伝いしています。冬の夜の過ごし方の話も、店でどうぞ。
写真: Ninara (Wikimedia Commons, CC BY 2.0)



