ペレットストーブを迎えたご家庭から、エアコンはもう要らないのかと尋ねられることがあります。冷房の季節があり、短い時間だけ部屋を暖めたい日もある以上、エアコンを手放す理由はあまりありません。考えるべきは、どちらを残すかより、どの場面でどちらに任せるかです。
使い分けを感覚だけで決めていると、寒い朝にエアコンが力不足になったり、暖かい午後にストーブを焚き続けたりと、手間と費用の両方で損をしがちです。この読みものでは、盛岡の気温の平年値、外気温によって変わるエアコンの効率、ペレットの熱量といった数字を手がかりに、二つの暖房の受け持ちを季節と時間帯ごとに組み立ててみます。
二つの暖房は、熱の出どころが違います
エアコンの暖房は、屋外の空気から熱を汲み上げて室内へ運ぶヒートポンプです。消費した電気の何倍もの熱を運べるのが長所で、その倍率を成績係数(COP)と呼びます。ただし汲み上げる相手が外気である以上、外が冷えるほど運べる熱は減り、COPも下がります。室外機に霜が付けば、それを取り除くために暖房を一時止める霜取り運転も入ります。
ペレットストーブは、木質ペレットを燃やして熱をつくります。出力を決めるのは燃料を送る量と燃焼の空気で、外気温の影響を受けません。電気は点火と燃料の送り、ファンの運転に使います。外気に頼るか、燃料に頼るか。この違いが、使い分けを考えるときの軸になります。
エアコンのカタログにある暖房能力は、日本産業規格に基づき外気7℃の条件で測った値で、低温暖房能力は外気2℃での値です。外気がこの範囲にあるあいだはカタログに近い働きが期待でき、下回るほど実力との差が開きます。どのくらい落ちるかは「エアコン暖房の実力」で機種ごとに示しています。
盛岡の一年を、平年値で眺める
気象庁が公表している盛岡の平年値(1991〜2020年)を見ると、月平均気温は10月が12.6℃、11月が6.2℃、12月が0.8℃、1月が-1.6℃、2月が-0.9℃、3月が2.6℃、4月が8.7℃です。朝の冷え込みを表す日最低気温の平年値は、12月が-2.5℃、1月が-5.2℃、2月が-4.8℃、3月が-1.8℃と、4か月続けて氷点下になります。
この数字を、先ほどの試験条件と重ねてみます。10月と4月は、日最低気温の平年値でも3℃から8℃ほどあり、エアコンが試験条件に近い環境で働ける季節です。11月は平均気温が6℃台で、日中はエアコンで足りても、朝晩は2℃を割り込む日が増えてきます。12月から3月にかけては、平均気温そのものが試験条件の2℃前後かそれ以下で、朝は氷点下が当たり前になります。
暖房の季節をひとまとめに考えず、「エアコンが本来の力を出せる月」「朝晩だけ苦しくなる月」「一日を通して苦しい月」の三つに分けてみると、使い分けの輪郭がはっきりしてきます。
熱1キロワット時の値段を比べる
費用の面からも見てみます。比べやすくするため、部屋に届ける熱1キロワット時(kWh)あたりの値段に揃えます。
エアコンの場合は、電気の単価をCOPで割れば求められます。家電製品の電気代表示に使われる目安単価は、全国家庭電気製品公正取引協議会が2022年に改定した1kWhあたり31円です。COPが3なら約10円、2なら約16円、1.5なら約21円になります。英国オックスフォード大学の研究者らが2023年に各国の実測データをまとめた報告では、外気5℃から-10℃の範囲で測られたCOPの平均は2.74でした。一方、米国ミネソタ州の現地試験では、-12℃を下回る条件でCOPが1から2にとどまった地点が多かったと紹介されています。
ペレットの場合は、燃料の熱量と機器の熱効率から求めます。日本木質ペレット協会の品質規格では、上位の区分のペレットの低位発熱量を1kgあたり16.5メガジュール以上と定めています。これは約4.6kWhに当たります。熱効率は機種によって異なりますが、住宅の省エネルギー性能を評価する国の計算方法では、機種ごとの試験値を使わない場合のペレットストーブの定格熱効率を63.7%としています。この値で計算すると、ペレット1kgから部屋に届く熱は約2.9kWhです。ペレットの価格を当サイトで目安としている1kgあたり50〜70円とすれば、熱1kWhあたりはおよそ17〜24円になります。熱効率がより高い機種なら、この値は下がります。
二つを並べると、外気が穏やかでCOPが高いあいだは、エアコンのほうが熱の単価は低くなります。外気が氷点下に下がってCOPが2を割り込むと差は縮まり、条件によっては入れ替わります。費用の面から見ても、使い分けの境目は外気温にあります。
晩秋と早春は、エアコンに任せる
10月から11月にかけてと、3月下旬から4月にかけての時期は、エアコンが得意とする季節です。外気温が試験条件に近くCOPも高いので、熱の単価が低いうえに、リモコンひとつですぐに暖まり、すぐに止められます。朝晩に少し冷えるだけの日に、ペレットストーブへ燃料を入れて点火し、火が落ちるまで付き合うのは、手間の割に得るものが多くありません。
この時期は、ペレットストーブの準備に充てるのにも向いています。シーズン前に排気筒や燃焼部の点検を済ませ、ペレットを湿気の少ない場所に積んでおけば、本格的な寒さが来た日に慌てずに済みます。
真冬の朝と夜は、ペレットストーブを主役に
12月から3月にかけては、ペレットストーブが主役になります。とくに外気が最も冷える早朝は、エアコンにとって最も条件の悪い時間帯です。能力が落ち、COPが下がり、霜取り運転で暖房が途切れることもあります。外気温に左右されないペレットストーブをタイマーで点火し、起床前に部屋を暖めておけば、一日の始まりが楽になります。霜取り運転の仕組みは「エアコンの風が止まる朝」で詳しく書いています。
夕方から夜にかけて家族が居間に集まる時間も、ペレットストーブに任せたい時間帯です。腰を据えて過ごす時間は運転を安定させやすく、炎の見える暖房のよさも生きてきます。一方、晴れて気温が上がる日の昼間や、居間から離れた個室を短い時間だけ暖めたいときは、エアコンを補助に使うと効率よく過ごせます。
同じ12月でも、日中に気温が上がる日と、一日中氷点下の真冬日とでは事情が違います。月で区切るより、その日の外気温を目安に判断するほうが実情に合います。目安としては、外気が低温暖房能力の試験条件である2℃を下回る時間はペレットストーブ、上回る時間はエアコン、と考えておくと迷いが減ります。
点けたり消したりの回数を減らす
ペレットストーブを上手に使ううえで意識したいのが、点火の回数です。ペレットストーブは点火のたびに電熱のヒーターで燃料に火を付けるため、点火の間は通常の運転より多くの電気を使います。先に触れた国の計算方法でも、試験値を使わない場合の既定値として、1回の点火に155Wh、定常の運転に134Wを見込んでいます。また、運転を止めても燃焼皿にはしばらく火が残り、燃え尽きて本体が冷めるまでには時間がかかります。
そのため、30分だけ暖めたいという使い方はエアコンに任せ、ペレットストーブは一度点けたら数時間まとめて焚く、という受け持ちにすると、電気の無駄も手間も減ります。外出時や就寝時の扱いは、機種ごとの取扱説明書に従ってください。
二つの暖房を、ひとつの暦にまとめる
ここまでを暦の形にまとめると、次のようになります。10月から11月中旬と4月はエアコンを中心に。11月下旬と3月は、朝晩をペレットストーブ、日中をエアコンに。12月から2月は、朝と夕方以降をペレットストーブで通し、昼の補助や個室にエアコンを使います。夏の冷房はエアコンの受け持ちです。
もっとも、最適な受け持ちは住まいの断熱性能や間取り、家族の在宅時間によって変わります。断熱性能の高い住宅ならエアコンの受け持ちはもう少し長くなり、在宅時間の長いご家庭ではペレットストーブの出番が増えるでしょう。ひと冬使ってみて、電気の検針票とペレットの購入量を記録しておくと、翌年の使い分けを自分の家に合わせて調整できます。
当社では、ペレットストーブの機種選びの段階から、すでにお使いのエアコンとの組み合わせを前提にご提案しています。設置する部屋の広さやエアコンの能力、ご家族の暮らし方をお聞かせいただければ、どちらにどの時間帯を任せるのがよいかを一緒に考えます。
ペレットストーブのページ 取扱い機種と価格・性能。 エアコン暖房の実力 外気温ごとの能力低下と電気代。 ペレットストーブの費用と相場 本体・排気筒・ペレット代のめやす。参考:盛岡の気温は気象庁の平年値(気象庁)、電気の目安単価は全国家庭電気製品公正取引協議会(家電公取協)、低温時のCOPはGibbらの報告(Joule、2023年)の紹介記事(英語)、ペレットの発熱量は日本木質ペレット協会の品質規格の解説(ユーロフィン)、熱効率と消費電力の既定値は建築研究所「エネルギー消費性能の計算方法」第四章第十節(PDF)による。
