先日うかがった煙突掃除の現場で、屋根の上のこんな光景に出会いました。角トップの天板が、波を打つようにグニャリと歪んでいる。板金の施工不良ではありません。過去にこの煙突で起きた「煙道火災」の熱が残した痕です。

煙道火災は、煙突の中の火事
煙道火災とは、煙突の内側に溜まったタール(クレオソート)に火がついてしまう現象です。煙突の中はいわば煙の通り道ですが、そこが燃料庫になってしまう。ひとたび着火すると、煙突内は1,000℃級の高温になると言われます。薪ストーブの通常運転では決して届かない温度です。詳しくは煙道火災はなぜ起きる?をどうぞ。
高温は、ステンレスに何をするのか
「ステンレスは丈夫」というイメージがありますが、想定を超える高温が加わると、物理と化学の両方で変化が起きます。
① 変形(熱膨張と歪み)
金属は熱で膨張し、冷えると縮みます。急激で不均一な加熱を受けると、膨張と収縮のつじつまが合わなくなり、「反り」や「波打ち」といった永久変形が残ります。冒頭の天板が、まさにこれです。

② 変色(テンパーカラー)
ステンレスの表面には、サビを防ぐごく薄い保護膜(不動態皮膜)があります。おおよそ300〜800℃の高温にさらされると、この膜が厚く成長し、光の干渉で黄色・茶・紫・青と色づきます。溶接の焼け色と同じ現象で、「そこが高温になった」という消えない記録です。
③ スケール(皮膜の剥離)
さらに800〜1,000℃級になると、厚くなった皮膜はもろい層になり、ボロボロと剥がれ落ちるようになります。
④ 鋭敏化(サビやすくなる)
約500〜800℃の帯に長くさらされると、ステンレス中のクロムが炭素と結びついて偏り、表面近くのクロムが不足します。すると本来のサビにくさが失われ、以後は腐食が進みやすい金属になってしまいます。見た目は使えそうでも、素材としてはもう別物——だから当社は、煙道火災を経験した部材は交換をおすすめしています。
火災のあとのスス、通常のスス

煙道火災の燃料は、日々の焚き方で少しずつ積もるタールとススです。つまり予防はシンプル。燃料を溜めないこと=年に1回の煙突掃除。それだけで、1,000℃の火事の種は取り除けます。回数と時期の目安は煙突掃除は、年に何回?に、タールの正体はタールとススの違いにまとめています。
煙道火災は、危険です。金属さえ曲げる熱が、屋根の中を走るのですから。でも、正しく手入れをしていれば、起こさずに済む火事でもあります。あの波打った天板を見るたびに、私たちはそれを思い出します。



