冬の朝、車で郊外を走っていて、ふと目が留まる家があります。屋根から、一筋の煙がまっすぐ立ちのぼっている家です。ああ、あの家は薪ストーブだな。今ごろ朝の火を起こして、やかんでもかけているのかな。見ず知らずの家なのに、なんだか少し、あたたかい気持ちになる。今日は、煙突のある風景の話です。

煙は、暮らしの旗
電気もガスも、使っていることは外から見えません。でも、薪の火だけは、煙突の煙として空に見える。屋根の上の煙は、「この家には火が入っていて、人が起きて暮らしています」という、静かな旗です。昔の集落では、朝、隣の家の煙が立たないと、様子を見に行ったといいます。煙は、暮らしの気配そのものだったのです。クリスマスの絵本にも、昔話の挿絵にも、家には必ず煙突と煙が描かれます。人類にとって「家」の絵とは、屋根と、窓と、煙突の煙なのでしょう。
いい煙は、ほとんど見えない
ここで、薪ストーブ屋らしい話をひとつ。よく乾いた薪を、いい温度で焚いているときの煙は、実はほとんど見えません。見えるのは、寒い朝に白くたなびく湯気まじりのゆらぎくらい。もくもくと濃い煙が出るのは、湿った薪やくすぶり燃焼のサインです。つまり、うっすらとした煙の家ほど、上手に焚いている家。屋根の煙は、焚き手の腕前の看板でもあるのです。ご近所への心配りとしても、ここは大事なところ。(煙を減らす焚き方はこちら、ご近所と煙の話はこちら。)
煙突は、いつからあるのか
そもそも煙突は、いつからあるのでしょう。じつは、そう古くはありません。中世の前半まで、ヨーロッパでも家の真ん中で火を焚き、煙は屋根に開けた穴から逃がしていました。壁ぎわに暖炉を寄せ、煙突で煙を屋根の上へ導く形が広まったのは、中世の後期のこと。この工夫のおかげで、煙たくない部屋、二階建て、そして個室が生まれ、暮らしは一気に快適になりました。イギリスでは、暖炉の数に応じて税をかける「暖炉税」がしかれた時代もあったほど。煙突は、住まいの歴史を静かに変えた、大きな一歩だったのです。
サンタが、煙突から来る理由
もうひとつ、煙突の物語を。サンタクロースは、なぜ玄関ではなく、煙突から来るのでしょう。ひとつには、煙突が、家の内と外をつなぐ特別な通り道と考えられてきたからです。北欧の言い伝えでは、家を守る妖精トントゥも、幸運も、煙突を通って出入りするとされました。煙突は、ただ煙を出す筒ではなく、外の世界と家の温もりが行き来する、物語の入口だったのです。子どもが煙突の先に贈り物を夢見るのも、その古い記憶のかけらなのでしょう。火のある家には、そんな物語まで、ちゃんとついてきます。
フィンランドの町の、煙の時間
サウナの国フィンランドでは、週末の夕方になると、湖畔の集落のあちこちから煙が立ちのぼります。各家がサウナを焚きはじめる合図です。「あの家も今夜はサウナだな」と、煙で分かる。町ぐるみの、なんとも豊かな夕景です。岩手の冬の夕暮れにも、薪ストーブの煙の立つ家が、少しずつ増えてきました。私たちはその景色を、車の中から、いつも嬉しく眺めています。あの一本一本の煙突に、私たちの仕事が少しずつ関わっているのだと思うと、なおさらです。
あなたの屋根にも、旗を
家を建てるとき、外観の絵に煙突を描き足してみてください。それだけで、家の絵が、急に「暮らしの絵」になります。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブと煙突の設置を、新築にもリフォームにもお手伝いしています。冬の朝、あなたの屋根に、暮らしの旗を。おすすめの計画のご相談、いつでもどうぞ。
写真: Chris Hunkeler from Carlsbad, California, USA (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)




