薪ストーブの点火でいちばん大事なのは、最初の一分です。ここで小さな火がしっかり立てば、あとは焚き付けから細薪、中薪へと、火は階段を勝手にのぼっていきます(焚き付けの話)。逆にここでもたつくと、煙ばかりが立ちのぼって、部屋に匂いが残ります。今日は、その最初の一分を支える名脇役、着火剤と新聞紙の話です。
着火剤は、天然系を選ぶ
市販の着火剤は、大きく二系統に分かれます。おすすめは、木毛(もくもう)と呼ばれる細い木の削り屑にロウ(パラフィンや木ロウ)を染み込ませたものや、おがくずを固めたブロック状のもの。マッチ一本で数分間、安定した炎を出し続け、匂いも煙もおだやかです。北欧ではこの木毛の着火剤が定番で、薪籠のそばに常備されています。一方、灯油や石油系の液体・ゼリー状のものは、薪ストーブでは出番なしと覚えてください。炎が急に立って危なく、匂いが炉に残ります。とりわけ、燃えている火への追加投入は厳禁です。これは銘柄の良し悪しではなく、使い方の鉄則になります。
新聞紙は、ふんわり玉が正解
昔ながらの新聞紙も、正しく使えば立派な着火剤です。コツは、ぎゅっと固く丸めないこと。固い玉は中に空気が入らず、表面だけ焦げて芯が残ります。片手で軽くくしゃっと握った、ふんわり玉。これを二つ三つ、焚き付けの下か脇に忍ばせます。細長くねじって輪に結ぶ、昔の人の「新聞紙ドーナツ」も、ゆっくり燃えて優秀です。避けたいのは、カラーの折り込み広告と、つるつるした光沢紙。色インクとコーティングは、炉にもご近所の空気にも良いものを残しません。白黒の本紙だけを使うのが安心です。
なぜ「ふんわり」が燃えるのか
ここで、ひとつ得をする豆知識を。火が燃えるのに要るのは、燃えるもの、熱、そして酸素の三つです。ふんわり玉が固い玉に勝つのは、紙と紙のすきまに酸素をたっぷり抱え込み、しかも火の触れる表面積が広いから。焚き付けを井桁や斜めに組んで空気の道を作るのも、まったく同じ理屈です。上手な焚き手は、薪を「積む」のではなく「空気を挟んで置く」と言います。最初の一分は、着火剤の質そのものより、この空気の設計で決まると言っても大げさではありません。
いつか、着火剤いらずになる
腕が上がると、着火剤の出番はだんだん減っていきます。極細に割った、よく乾いたスギ(針葉樹の話)を鉛筆ほどの太さまで細くすれば、新聞紙一枚で火は立ちます。さらにナイフで薪の表面を薄く削り、羽根のように毛羽立たせるフェザースティックまで進めば、もう職人の域です。北欧やアウトドアの愛好家が腕を競う、あの美しい削り薪です。マッチ一本で火を起こせた朝の、静かな達成感はなかなかのものです。
朝と休日で、使い分ける
とはいえ、毎回ストイックにやる必要はありません。時間のない平日の朝は、天然系の着火剤でさっと時短。ゆとりのある休日は、新聞紙とナイフでじっくり。この使い分けが、いちばん現実的で楽しい運用です。着火剤は箱で買って乾いた場所に常備し、新聞は白黒面だけをためておく。小さな支度をしておくと、寒い朝に慌てません。火のつけ方に唯一の正解があるわけではなく、その日の気分で選べることこそ、薪ストーブの豊かさです。慣れてくれば、着火剤の量も減り、新聞紙の丸め方も手が覚えます。最初はぎこちなかった火起こしが、やがて考えなくてもできる朝の所作になる。その上達の実感こそ、薪の火と長く付き合う醍醐味のひとつです。
最初の一分から、お手伝いします
岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブの設置のあと、火入れ式で着火のコツまで一緒に練習しています。着火剤の銘柄選びも、店の得意分野です。最初の一分の相談、どうぞ店へ。



