薪の世界には、根強い通説があります。「薪は広葉樹。スギやマツの針葉樹はダメ」。庭木や建築端材のスギをもらったのに、この通説のせいで持て余している方も多いはずです。今日は、針葉樹の名誉回復の話。針葉樹は、広葉樹とは役割の違う、頼れる選手です。焚き付けにも、朝いちばんの火にも、針葉樹はいい仕事をします。
通説の中身を、分解する
「針葉樹はダメ」の根拠は、だいたい三つ。火持ちが悪い、ヤニで煙突が詰まる、パチパチ爆ぜる。一つずつ見ていきましょう。火持ちについては、たしかに針葉樹は軽く、同じ体積なら広葉樹より早く燃え尽きます。ただしそれは「性格」です。早く強く燃える性質は、立ち上げには最高の長所になります。ヤニと煤は、樹種より乾燥で決まります。しっかり乾かした(含水率20%以下。こちら)針葉樹は、きれいに燃えます。現にフィンランドやスウェーデンでは、マツやトウヒの針葉樹薪がごく普通に主流です。サウナの国の薪は、針葉樹なのです。
北欧では、針葉樹が当たり前
そもそも針葉樹を薪の主役にしている国は、少なくありません。針葉樹の森が広がる北欧や北米の寒冷地では、マツ・トウヒ・カラマツが、暖房と、そしてサウナの薪の中心です。フィンランドの湖畔のサウナ小屋で焚かれているのも、多くは地元の針葉樹。日本で「薪=ナラ・クヌギ」の常識が根づいたのは、里山にたまたま広葉樹が豊富だったから、という土地の事情が大きいのです。樹種の優劣ではなく、その土地で手に入る木を上手に焚く。それが世界共通の、薪との付き合い方です。厳しい冬を、身近な森の木で越えてきた知恵が、そこにはあります。
使い分けの、正解
賢い家の薪棚は、二軍制です。針葉樹は、焚き付けと朝晩の立ち上げ担当。細く割ってよく乾かせば、着火が早く、炉と煙突を素早く温めてくれる(立ち上げ全開の相棒です。空気調整の話)。広葉樹は、巡航と夜の主役。ナラの火持ちで長い夜を支える。爆ぜやすさも、扉を閉めて焚く薪ストーブなら、いつもの作法のままで安心して付き合えます。針葉樹で勢いよく火を起こし、熾ができたら広葉樹にバトンを渡す。このリレーが、一日の火をいちばん楽に回してくれます。細割りの針葉樹をひと束、いつも手前に置いておく。それだけで、忙しい朝の一本目に迷わなくなります。
細く割って、長く乾かす
針葉樹を気持ちよく焚くコツは、ただ一つ、乾燥です。もともと軽く水を含みやすいぶん、割って風に当てればよく乾きます。焚き付け用は特に細く、鉛筆から親指ほどの太さに割ると、着火の一本目がぐっと楽になります。雨の当たらない風通しのよい場所で、井桁に積んで一年から一年半。手に持って軽く、ぶつけあわせてカンと高い音がすれば、よく乾いた合図です。太いままだと芯まで乾きにくいので、面倒でも細く割るのが、遠回りに見えて近道です。乾いた針葉樹の、あの松ヤニと森を思わせる匂いは、火を焚く人だけが知る、ささやかなごほうびです。
もらい物のスギは、宝の山
というわけで、庭木の伐採や建築端材のスギ・マツをもらえる機会は、ぜひ受け取ってください。細割りにして一年半、雨の当たらない風通しで乾かせば、焚き付け在庫の山になります。買えば意外と高い焚き付けが、無料で手に入る。気をつけるのは一点だけ、塗装や防腐処理された建材は薪にしないこと。こちらは樹種ではなく、薬剤の問題です(異色の炎の話)。
二軍制の薪棚、始めませんか
岩手・盛岡のD'STYLEは、樹種の使い分けから薪棚の運用まで、薪の実務をまるごとご相談いただけます。針葉樹の山を前に悩んだら、店へどうぞ。それ、宝の山です。



