薪の話というと、火持ちだ、火力だ、乾燥だと、性能の話になりがちです(その基本は薪の基礎知識に)。今日は、もっと官能的な話をします。香りです。薪の煙の香りは、樹種によって、驚くほど違う。ワインの品種を語るように、薪の香りを語る。そんな贅沢な回です。

燻製の世界が、証明している
木の香りの個性をいちばん真剣に扱ってきたのは、燻製の世界です。スモークチップの棚を見てください。サクラ、ナラ、ヒッコリー、リンゴ、クルミ。食材に合わせて木を選ぶのが常識です。サクラは香りが強く、豚肉や羊に。ナラ(オーク)は色づきよく万能。リンゴは甘くやさしく、鶏や白身魚に。つまり、木の煙には、それぞれはっきりした香りの顔がある。薪ストーブの焚き付けどきにふわりと漂う匂いや、外の煙突から流れる残り香にも、同じ個性が宿っています。
岩手の薪の、香りの顔ぶれ
岩手で手に入る薪の、香りの顔ぶれを紹介しましょう。ナラは、薪の王様らしい、どっしり落ち着いた燻香。長時間の熾火の、あの安心する匂いの主です。サクラは、ほのかに甘い上品な香り。焚きはじめの数分、家の中に漂う香りは、ちょっとしたお香のようです。リンゴやその他の果樹の剪定枝は、隠れた名品。果実を思わせるやわらかい香りで、燻製愛好家が争って集めるほどです。リンゴの産地・岩手ならではのご馳走薪と言えます。そして白樺。あの北欧めいた、少しスモーキーな香りは、フィンランドのサウナ小屋の記憶そのものです。(白樺の話は、こちら。)
針葉樹は、焚き付けの香り
本格的に燃やす薪は、火持ちのいい広葉樹が基本です。とはいえ、針葉樹には針葉樹の良さがあります。松やスギ、モミは、ヤニを多く含むぶん火つきがよく、焚き付けの主役。パチパチとよく爆ぜて、立ちのぼる香りは、森の中のように爽やかです。特に杉の焚き付けの、あのすっと鼻に抜ける香りは、木の風呂や神社の空気を思わせます。ただし針葉樹は火力が強く燃え尽きも早いので、あくまで火を起こす序盤の担当。最初の数分は針葉樹の香りで、本番はナラの落ち着いた燻香で。この香りの受け渡しも、薪焚きの小さな楽しみのひとつです。
香りを楽しむのは、焚きはじめ
正直な補足を。現代の薪ストーブは燃焼効率が高く、うまく焚けているときは、煙も香りもほとんど外に出しません。香りを楽しめるのは、主に着火のひととき、薪を足した直後、そして庭やご近所にふわりと流れる残り香です。そこで、焚き付け用に香りのいい木を取っておく。この楽しみ方が粋なのです。今夜の一本目はサクラ、週末の朝はリンゴ。香りで薪を選ぶようになったら、薪ストーブ暮らしも、いよいよ堂に入ってきた証拠です。(焚き付けの知恵は、こちら。)
サウナの薪も、香りで選ぶ
香りの話は、薪ストーブにとどまりません。薪で焚くサウナストーブなら、この香りの個性が、そのまま「ととのい」の背景になります。フィンランドで白樺の薪が愛されるのは、火持ちだけでなく、あの澄んだ香りゆえ。パチパチという薪の音、窓の奥の炎、そしてほのかに漂う木の煙。ロウリュの蒸気に、薪の香りがかすかに重なる瞬間は、電気式にはない、薪サウナだけのご馳走です。火のそばで香りを味わう感性は、そのままサウナ小屋でも生きてきます。香りで一日を選ぶ贅沢は、火と蒸気の両方に、地続きで広がっているのです。
香りまで含めて、薪です
岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブの設置とあわせて、乾燥薪の販売もしています。樹種のご相談も大歓迎。火持ちのナラを主役に、香りの果樹を少し混ぜる。そんな「香りのブレンド買い」も、おすすめです。薪棚に、香りの引き出しを。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: Acabashi (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



