ノルウェーには約50万棟のヒュッテ(hytte)がある。人口約550万人の国で、4世帯に1世帯が山や海辺に小屋を持っている計算になる。金曜の午後、オスロの高速道路は山へ向かう車で混む。
ヒュッテは別荘とは違う。豪華さは求めない。むしろ、なるべく簡素であることに意味がある。
電気のない週末
古いヒュッテの多くには電気が来ていない。水は近くの川から汲む。暖房は薪ストーブだけ。到着したらまず薪を焚いて、部屋を暖めるところから始まる。
金曜の夜、マイナス10度の山小屋に入る。息が白い。ストーブに火を入れて30分もすると、小屋の空気がゆるやかに変わる。1時間後には上着を脱げる。この「自分で暖かさを作る」という感覚が、ヒュッテの核心にある。
フリルフツリフとの関係
ノルウェーには「フリルフツリフ(friluftsliv)」という言葉がある。「自由な空気の中の暮らし」という意味で、自然の中で過ごすことそのものに価値を見出す考え方だ。ヒュッテはフリルフツリフの拠点になる。
冬はクロスカントリースキーで山を歩き、帰ってストーブの前でココアを飲む。夏はハイキングや釣り。季節ごとに山が違う顔を見せ、その全部をヒュッテから見ている。
自分の手で火をつけること
日常ではスイッチ一つで暖房がつく。ヒュッテではそうはいかない。薪を割り、焚き付けを組み、マッチで火をつける。失敗すれば寒いまま過ごすことになる。その不便さの中に、自分の手で暮らしを動かしている実感がある。
岩手で薪ストーブを入れたお客様から「面倒なのがいい」と言われることがある。スイッチ一つでは得られないものが、火をつける行為の中にある。ノルウェー人がヒュッテに通う理由と、根は同じだと思う。
