青森県の津軽半島を走る津軽鉄道に、冬だけの名物があります。ストーブ列車。客車の真ん中に、昔ながらのだるまストーブを据えて走る列車です。石炭がはぜる音を聞きながら、雪の津軽平野をゆく。今日は北東北・青森編、火を囲む冬の旅の話です。
客車に、火が乗っている
ストーブ列車が走り始めるのは、毎年12月から翌年の3月ごろ。津軽五所川原駅と津軽中里駅のあいだ、およそ20キロを結びます。古い木造の客車の中央通路に、ずんぐりした丸いだるまストーブが据えられ、車掌さんが石炭をくべて燃やす。窓の外は一面の雪、車内はストーブの炎で暖かい。この対比が、なんとも旅情をそそります。冷え切った体で乗り込み、ストーブのそばに陣取れば、じんわりと温まる。移動の手段というより、火を囲む時間そのものが目的の列車です。昭和の初めから続く、津軽の冬の風物詩です。
スルメを焼く、車内の名物
ストーブ列車のもうひとつの名物が、スルメです。車内販売で買ったスルメを、だるまストーブの上で炙る。香ばしい匂いが車内に広がり、焼き上がったスルメを裂いて食べる。石炭ストーブの熱で炙るからこその、独特の味わいです。熱いお酒を傾けながら、雪景色を眺め、スルメを噛む。見知らぬ乗客どうしが、火を囲んで自然と言葉を交わす。火には、人を寄せ集め、打ち解けさせる力があります。薪ストーブの前に家族が集まるのと、同じ力です。
火のある移動が、旅を変える
現代の列車は、ボタンひとつで暖房が効き、速く、快適です。ストーブ列車は、その正反対をいきます。手間のかかる石炭の火、遅い速度、すきま風。それでも、いや、だからこそ、この列車は人を惹きつけます。効率のために切り捨てられたもの、火のぬくもりと、それを囲む時間の豊かさが、ここには残っています。目的地へ急ぐのではなく、火のそばで過ごす時間を味わう。薪ストーブのある暮らしが教えてくれる豊かさと、まったく同じものが、この小さな列車に乗っています。
冬の津軽への、火の旅
ストーブ列車に乗るなら、真冬がおすすめです。雪が深いほど、車内の火のありがたさが身にしみます。太宰治の故郷でもある津軽の、素朴で温かい人情に触れる旅。乗車には別途ストーブ列車料金がかかりますが、その価値は十分にあります。盛岡からは少し遠いですが、火を囲む旅の情緒を求めるなら、行くかいのある一本です。
昭和のはじめから、走り続けて
津軽鉄道が開業したのは、1930年、昭和のはじめのことです。地元の人々が資金を出し合って敷いた小さな私鉄で、雪深い津軽平野の暮らしを、長く支えてきました。ストーブ列車は、その開業まもないころから走り始めたと伝えられ、九十年を超えて冬の名物であり続けています。車内に据えられるだるまストーブは、ずんぐりと丸い鋳物のストーブで、真っ赤に熱した鉄の胴から、車内いっぱいにやわらかな熱を放ちます。石炭をくべ、火を絶やさぬよう世話をする車掌の手つきには、火とともに旅を守ってきた長い年月がにじみます。豪雪と厳しい寒さの土地だからこそ、人々は車内に火を持ちこみ、その温もりを分かち合う知恵を、こうして今日まで受け継いできたのです。鉄の胴に燃える火は、雪の津軽を走る、動く囲炉裏そのものです。
火を囲む時間を、わが家にも
ストーブ列車が教えてくれるのは、火を囲む時間そのものが、何よりのごちそうだということです。岩手・盛岡のD'STYLEは、その火を毎日の暮らしに置く、薪ストーブやハルビアのサウナヒーターを商う店です。火のそばに人が集まる暮らしの話を、店でどうぞ。
写真: あおもりくま,Aomorikuma (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



