薪ストーブのカタログには、必ず出力がkW(キロワット)で書かれています。8kW、10kW、12kW。数字が大きいほど暖かいストーブだと考えたくなりますし、それは半分まで正しい見方です。
kWが示すのは、燃えているあいだに一秒あたりどれだけの熱を出せるかという、熱の勢いです。ところが、火が落ちたあとに暖かさがどれだけ残るのか、その熱がどのような形で体に届くのかは、カタログのどこにも書かれていません。この読みものでは、カタログの数字が語らない暖かさの中身を物理の式からたどり、当社が独自に定めたATK指数がそれをどのように数字にしているのかをご紹介します。
kWは、燃えているあいだの数字です
1kWは、一秒あたり1キロジュールの熱を出す勢いを表します。この勢いで一時間出し続けた熱の量が1kWh(キロワット時)です。kWは蛇口から出るお湯の勢い、kWhは湯船にたまったお湯の量にたとえると分かりやすくなります。
たとえば、当社が基準機としているヨツール F 500 ECO は、定格出力10.5kW、最小6.4kWから最大13.9kW、燃焼効率86%、本体重量200kgの鋳鉄製ストーブです。この10.5kWは、薪が燃えている状態での熱の出方を示しています。夜に火を落とし、朝を迎えるまでの数時間について、この数字は何も語りません。
出力の表記には、定格出力と最大出力の二通りがあり、国やメーカーによって載せ方が異なります。その違いは「出力表記のカラクリ」で詳しく取り上げていますので、ここでは表記をそろえたうえで、その先にある暖かさの話を進めます。
ストーブの本体は、熱をためる器です
薪が燃えているあいだ、ストーブの本体は熱を受け取って温まり、火が弱まったあとも、ためた熱を部屋へ返し続けます。どれだけの熱をためられるかは、中学校の理科で習う式で求められます。ためられる熱の量は、本体の重さ、材料の比熱、温度の上がり幅の三つを掛け合わせたものです。
比熱は、1kgの材料を1℃温めるのに必要な熱の量です。工学向けの物性表では、鉄はおよそ0.46kJ/kg・K、鋼はおよそ0.49kJ/kg・Kとされています。ソープストーン(滑石を主成分とする石)はおよそ0.98kJ/kg・Kで、鉄の約2倍の熱をため込むことができます。
当社の技術ページでは、室温20℃から本体300℃まで温めた場合を試算しています。鋳鉄200kgのヨツール F 500 ECO は約7.2kWh。ソープストーンを用いたハースストーン ヘリテイジ(メーカー公表の重量は535ポンド、約242kg)は、本体をすべて石とみなす単純化をしたうえで約18.4kWhとなり、鋳鉄機の約2.6倍です。18.4kWhは、1,000Wの電気ストーブを18時間あまり運転し続けた熱量にあたります。カタログに並ぶkWの数字が近い機種どうしでも、火を落としたあとに部屋へ返せる熱の量は、これほど違うことがあります。
冷め方と、四乗で効く輻射
ためた熱が出ていく速さも、式で表せます。温かい物体は、まわりとの温度差に比例した速さで冷めていくと近似でき、その冷め方の目安になるのが時定数です。当社の試算では、ソープストーン242kgの時定数は約1.8時間、鋳鉄200kgは約0.7時間でした。計算を簡単にするために熱の逃げやすさを一定とみなしているため実際の値とは差がありますが、石の本体が鋳鉄の2倍以上ゆっくり冷めるという順序は変わりません。
もう一つ大切なのが、体に直接届く輻射熱です。物体の表面から出る輻射の強さは、ステファン・ボルツマンの法則により、表面の絶対温度の四乗に比例します。表面積1.5平方メートル、放射率0.9、室温20℃の条件で計算すると、表面温度300℃のときの輻射は約7.70kW、250℃では約5.17kW、200℃では約3.27kWになります。
表面温度が50℃下がるだけで輻射はおよそ3分の1減り、100℃下がると半分以下になります。火が弱まった途端に部屋が急に寒く感じられるのは、気のせいとは言えません。本体の温度が下がりにくいことには、温度の数字以上の意味があるのです。
表面の凹凸と、体感で決めている部分
輻射の式には、表面積も掛け算で入っています。温度が同じなら、表面積が2割増えれば輻射も2割増えます。先の条件で表面積を1.8平方メートルにすると、300℃での輻射は約9.23kWとなり、1.5平方メートルのときより約1.5kW多くなります。
表面に深い凹凸を刻んだ薪ストーブでは、その凹凸が放熱のひれのように働き、熱を広く届けます。凹凸は、見た目を整えると同時に、暖かさを生む形でもあるのです。ただし、本体の表面積を実測した値は、どのメーカーのカタログにも載っていません。そこで当社は、火を入れた実機の前に立ち、凹凸の深さと数、熱がどこまで届くかを確かめて、表面の係数を1.0、1.1、1.2の三段階に振り分けています。ATK指数の中でここだけは体感による判断であることを、技術ページでも明記しています。体感が結果を左右しすぎないよう、段階を三つに絞り、配点にも上限を設けています。
ATK指数の四つの軸と、その配分
こうしたカタログに表れない暖かさを数字にしたのが、ATK指数です。名前は、雪の中を帰ってきて玄関を開けたときに思わず口をつく東北の言葉「あったけー」から取りました。ATK指数は、立ち上がり、蓄熱・持続、輻射の質、パワーの四つの軸で暖かさを見て、独自の単位「ATK」で表します。業界の公式な規格とは別に、当社が設置とメンテナンスの現場から定めた独自の評価基準です。
四つの軸の配分は、立ち上がり20、蓄熱・持続40、輻射の質25、パワー15です。蓄熱・持続を最も重くしているのは、火を落としたあとの時間のほうが焚いている時間より長く、材料によって2倍以上の差がつく部分だからです。輻射の質は、同じ室温でも体感を大きく変えるため二番目に重くしています。カタログの数値から点がつくのはパワーの15だけで、出力の大きさだけで順位が上がらないよう意図して抑えています。
出力と重量は、暖房面積一坪あたりの密度に直して比べています。基準はヨツール F 500 ECO で、77 ATKです。坪あたりで見ることで、小さなストーブが大型機より不当に低く出ることを防いでいます。実際に、出力4.5kWのヨツール F 105 も、F 500 ECO と同じ77 ATKになります。ソープストーンのハースストーン ヘリテイジは88 ATKです。計算式と係数は、すべてATK指数のページで公開しています。
暮らし方から、数字を読む
ATK指数は、暮らし方に合う一台を探すための物差しです。順位をつけることを目的にはしていません。四つの軸のどこが高く、どこが控えめなのかを見ることで、ストーブの性格が見えてきます。
夜中に薪を足すのが難しく、朝まで暖かさを残したい家庭なら、蓄熱・持続の高い機種が向いています。共働きで夕方に帰宅してから火を入れる家庭なら、立ち上がりの速さが大切になります。ソープストーンの機種は朝まで暖かさが残る一方で、立ち上がりはゆっくりです。鋳鉄の機種は温まるのが早く、焚いているあいだの暖かさは十分です。どの時間帯に暖かさが欲しいかによって、選ぶべき機種が変わります。
この数字が、測らないもの
ATK指数が測っているのは、暖かさの質だけです。炎の美しさ、扉の開け閉めのしやすさ、薪の入れやすさ、灰の始末の手間、料理への使いやすさ、置いたときの佇まい。ストーブを選ぶ理由は、暖かさのほかにもたくさんあります。900件を超える薪ストーブの設置に携わってきた経験から、私たちはそのことをよく知っています。
ストーブの性格をより多くの面から見たい方のために、当社は十五の項目でストーブを見るATK PROFILEも公開しています。数字で分かることと、火の前に立って体で感じることを並べて、ご自分の暮らしに合う一台を一緒に探していきましょう。
参考:蓄熱量・時定数・輻射・表面係数・配点の計算は当社の技術ページ(ATK指数の深いところ)による。比熱は Engineering ToolBox の物性表(英語)による。ヨツール F 500 ECO の仕様は当社の機種ページ、ハースストーン ヘリテイジの重量はメーカー公式サイト(英語)による。