「フィンランドには人口550万人に対し、サウナが330万基ある」。この数字を、一度は目にしたことがあるかもしれません。私たちも長く、そう紹介してきました。ですが出典を一つずつ辿っていくと、最後に行き着くのは統計局の一通のメールでした。そこに書かれていたのは「正確な数字は存在しない」という言葉です。今日は、数える難しさの話をします。
雪の朝、隣の家の煙突を数える
盛岡の冬、雪かきをしながらふと近所の煙突を見上げることがあります。今朝は何軒、煙が立っているだろうか。数えようとしても、屋根に隠れた煙突や、薪を使わない電気式は見分けがつきません。フィンランドのサウナの数を数えようとした人たちも、同じ壁にぶつかっていました。

330万基の出所をたどる
「人口550万人に対しサウナ330万基」という数字は、ユネスコの無形文化遺産の決議文書(2020年、第15回政府間委員会、決議番号15.COM 8.b.27、無形文化遺産登録No.01596)に載っています。世界中のサウナ紹介記事がこの数字を引用してきました。ただし、この文書自体が独自の調査をしたわけではありません。どこかで作られた推計を、そのまま引き継いだ形です。
研究者が統計局に直接聞いた話
サウナ研究を専門とするJack Tsonisは、論文"Sauna Studies as an Academic Field"(Literature & Aesthetics 26, 2016)の中で、この数字の出所をフィンランド統計局に直接問い合わせています。返ってきた答えはこうでした。2015年に住宅として登録されているサウナは1,607,279基。ただしこの数字には、統計局が同じ回答の中で示したサマーコテージのサウナ(推定約50万基)や、集合住宅・ジム・プールなどの共用サウナは含まれていません。そのうえで統計局は「200万基超と推計はできるが、正確な数字は存在しない」と回答しています。この回答は、Tsonisの論文に2016年7月15日付の統計局からのメールとして記録されています。つまり330万基という数字は、統計局の公式な集計ではなく、そこから先の推測の産物だということです。
研究者による幅のある推計
サウナ研究者のLassi Liikkanen(saunologia.fi)は、総数を250万から300万基という幅で示しています。Liikkanenの推計によれば、内訳としては電気式が全体の約60%を占め、残りが薪式です。伝統的な煙サウナ(savusauna、煙突がなく煙で室内を温める形式)は、Liikkanenの推計で全体の中でも最大1%ほどにすぎないとされています。数字に幅があること自体が、正直な報告の形なのだと思います。
統計を求めたのはサウナ協会だった
興味深いのは、そもそもこの手の統計を取るよう働きかけてきたのが、1937年設立のフィンランドサウナ協会だという点です。サウナがあまりに日常に溶け込みすぎていて、行政の側からすると「わざわざ数える対象」になりにくかったのかもしれません。数えてほしいと声を上げたのは、いつも当事者の側でした。
岩手にも、同じ統計はない
実は日本にも、自宅サウナが何棟あるかという公的な統計はありません。岩手も同じです。私たちD'STYLEは盛岡を拠点に、自宅サウナやサウナ小屋KUUTAを施工してきましたが、県内全体の棟数を知る手立てはなく、フィンランドの統計局と似た立場に立たされます。だからこそ、私たちが実際に数えられる数字だけを、正直にお伝えしたいと思います。


うちで数えられる範囲の実感
これまで施工してきた自宅サウナ・サウナ小屋のうち、薪サウナストーブを選ばれた方と電気サウナストーブを選ばれた方の比率は、フィンランドの推計(Liikkanenによれば電気式が約6割)とは逆の傾向にあります。岩手は薪が身近に手に入る土地柄で、薪ストーブでの暖房に慣れているお客様も多く、薪式のサウナストーブを選ばれる方が体感として多い印象です。バレル型と箱型の内訳も、お客様の敷地や使い方によって分かれています。これはあくまで自社で施工した範囲の実感であり、統計として一般化できるものではありません。

数えられないものは、推計と書く
330万基という数字が独り歩きした背景には、誰も悪意なく、ただ便利な数字を引用し続けてきた事情があるのだと思います。私たちも、この記事を書くまで疑いなく使っていました。大切なのは、数えた数字と、推計した数字を混ぜないこと。そして推計には、必ず「誰の推計か」と「推計です」と書き添えることです。盛岡でサウナの設置を考えるお客様に何かをお伝えするときも、私たちが実際に見て、施工して、確かめたことだけを話すようにしています。
サウナの数を正確に数えることは、フィンランドでも、岩手でも、実はとても難しいことです。だからこそ私たちは、統計や推計を紹介するときに「何が実測で、何が推計か、誰による推計か」を分けて書くことを大切にしています。岩手・盛岡で自宅サウナやサウナ小屋KUUTAの設置をお考えの方には、こうした数字の話も含めて、実際に施工してきた立場から正直にお話しできればと思っています。薪サウナストーブと電気サウナストーブ、どちらが合うかも、敷地やご家族の使い方に合わせてご相談いただけます。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- UNESCO Intangible Cultural Heritage, Decision of the Intergovernmental Committee 15.COM 8.b.27, Inscribed element No.01596 (2020) https://ich.unesco.org/en/Decisions/15.COM/8.b.27
- Jack Tsonis, "Sauna Studies as an Academic Field", Literature & Aesthetics 26 (2016), pp.41-82 https://openjournals.library.sydney.edu.au/index.php/LA/article/view/11424
- Lassi Liikkanen, saunologia.fi, "Finnish Sauna Essentials Part 2 – Variety and History of Finnish saunas" https://saunologia.fi/in-english/finnish-sauna-essentials-part-2/
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



