「サウナは世界遺産になった」という話を聞くたび、たいてい2020年のフィンランドだけが語られます。けれど登録文書を辿ると、先に載っていたのは2014年、エストニアの小さな地方の煙サウナでした。しかもそこに書かれていたのは、入浴の作法だけではありませんでした。
2020年より先に、2014年があった
サウナがユネスコの無形文化遺産に記載された、という話は、2020年のフィンランドの事例として広く知られています。教育文化省の発表にもある通り、これはフィンランドにとって無形文化遺産の一覧表への初めての記載でした。
ですが同じ一覧表を古い方からめくっていくと、それより6年早い2014年、エストニア南部ヴォロマー地方の「煙サウナ(savvusann)」の伝統が、すでに記載されていたことがわかります。第9回政府間委員会で審査され、一覧表に加えられました。フィンランドの記載は2020年、第15回政府間委員会での決議(15.COM 8.b.27)によるものです。ユネスコの申請ファイル番号は年ごとに振られる通し番号であり、番号の大小そのものが「どちらが早く一覧表に載ったか」を示すものではありません。ここで確かなのは、開催年と委員会の回次が示す通り、記載の年としてエストニアが2014年、フィンランドが2020年という順番だけです。
どちらが偉い、という話ではありません。無形文化遺産の記載は文化を守るための仕組みであって、優劣を決めるものでも、健康への効果を国が認めたという話でもありません。それでも、先に記載されていたのがエストニアの煙サウナだったという順番は、意外と知られていません。

登録文書に書かれていたのは、入浴の作法だけではなかった
エストニアの登録文書を読むと、扱っている範囲の広さに気づきます。書かれているのは、蒸気の浴び方や作法だけではありませんでした。
・ヴィヒタ(白樺の葉のついた枝を束ねたもの)をどう作るか ・サウナ小屋そのものをどう建て、どう直すか ・サウナの熱を使って肉をどう燻製にするか
これらが、ひとつながりの伝統として一緒に記載されていたのです。土曜日や大きな祝い事の前にサウナを温める習慣、年長者がサウナを温め、子どもがそれに付き添いながら技術を覚えていく継承の形式まで、文書には書き込まれていました。
蒸気を浴びる作法だけでなく、小屋を建てること、束を作ること、火を使って食べ物を燻すこと。生活の一部として続いてきた技術の全体が、ひとつの文化として見られていたということです。
建てること、直すこと、束を作ること
D'STYLEの代表は以前、リトアニアとエストニアで実際に煙サウナに入り、氷を割って水風呂に飛び込んだ経験を書いたことがあります。今回はその体験談ではなく、登録文書そのものを読んでみて気づいたことを書きます。
登録文書に「小屋を建てること・直すこと」が含まれている、という一点です。岩手でサウナ小屋KUUTAを建て、薪を割り、翌年また屋根と煙突を点検する。私たちが盛岡の現場で当たり前のようにやっていることが、登録文書に並ぶ順番とほぼ重なっていました。
建てて終わりではなく、次のシーズンにまた手を入れる。この繰り返しそのものが、文化として記録に残るくらいの重みを持つ営みだったのだと、あらためて気づかされます。

年長者が温め、子が付き添う、という継承の形
登録文書にあった「年長者がサウナを温め、子どもが付き添いながら技術を覚える」という記述も、印象に残った部分です。
私たちがKUUTAを引き渡したあとのお客様のご家庭でも、似た光景を見ることがあります。最初は親御さんが薪をくべる様子を、お子さんが横で見ている。何年か経つと、今度はお子さんが自分で薪をくべ始める。誰かに教わったというより、隣で見ていて自然に覚えていく形です。
エストニアの登録文書に書かれていた継承のかたちは、遠い異国の特別な話というより、火のそばで子どもが育つ、どこにでもある景色に近いものでした。

岩手の冬と、煙サウナの薪
エストニアの煙サウナは、天井近くに開けた小さな穴から煙を外に逃がしながら、石を焼いて温めるという、現代のストーブとは異なる仕組みを持っています。私たちが盛岡で設置している薪サウナストーブは、これとは別の系統の道具です。
それでも、薪を割り、火をおこし、石を温めるという基本の作業は変わりません。岩手の冬は氷点下が続きます。薪を絶やさず用意しておくこと、煙突をきちんと点検しておくことは、伝統文化というより、この土地で火を扱う人間の毎年の仕事です。
ユネスコの登録文書が「小屋の修繕」まで含めていたことを思うと、私たちが毎年行っている点検作業も、地味ではあっても、この文化の一部を担っているのだと思わされます。

数字ではなく、順番を覚えておく
「サウナは世界遺産」という一言で語られがちなこの話題ですが、登録された年、登録された地域、登録文書に書かれていた具体的な内容まで辿ると、単純な一文には収まりきらないことがわかります。
2014年のエストニア、2020年のフィンランド。この順番と、それぞれの登録文書が実際に何を対象にしていたかを知っておくと、「サウナは古くから続く入浴文化」という漠然としたイメージが、もう少し具体的な輪郭を持って見えてきます。
「サウナは世界遺産」という一言は、便利ですが、少しだけ雑でもあります。登録された年も、対象になった地域も、文書が実際に何を範囲としていたかも、辿ってみると一様ではありませんでした。
2014年のエストニアの登録文書は、入浴の作法だけでなく、小屋を建てること、直すこと、白樺の束を作ること、燻製を作ることまでを、ひとつの続いた文化として扱っていました。岩手の盛岡で薪サウナストーブや自宅サウナ・サウナ小屋KUUTAを設置してきた私たちにとって、それは特別な話ではなく、毎年繰り返している仕事そのものに近い記述でした。
D'STYLEでは、薪サウナストーブや電気サウナストーブを使った自宅サウナ・サウナ小屋の設置、そして煙突の点検・清掃までを、盛岡を拠点に岩手県内で承っています。建てて終わりにせず、次のシーズンも手を入れ続けること。それが、私たちが考える火のある暮らしのおすすめの形です。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- UNESCO 無形文化遺産一覧表 エストニア「Smoke sauna tradition in Võromaa」(2014年、第9回政府間委員会にて記載)
- UNESCO 無形文化遺産一覧表 ファイルNo.01596(2020年、第15回政府間委員会、決議15.COM 8.b.27)「Sauna culture in Finland」
- フィンランド教育文化省 発表資料(2020年12月17日、フィンランド初の無形文化遺産一覧表記載について)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



