盛岡のショールームには、冬になると分厚い上着のままお客様が入ってきます。ストーブの前で手をこすり、カタログをめくり、ひととおり見終わったところで顔を上げる。「これ、効きますか」。ほとんどの方が、同じ言い方をされます。売っている側が「効きます」と答えるのは簡単です。けれど研究を順に並べていくと、そう単純ではない数字のほうが多い。今日は、うちにとって都合の悪い二本を先に置きます。

「効きますか」と聞かれて、少し黙る理由
答えるだけなら、材料はあります。2010年代半ば以降、フィンランドの長期追跡研究が次々に発表され、サウナに入る頻度が高い人ほど心臓突然死や心血管疾患による死亡が少ない、という報告が並びました。それを引けば話は早い。けれど私はたいてい、先に別の話をします。
観察研究というのは、もともとサウナによく入っている人と、あまり入らない人を長く追いかけて比べる形の研究です。関連は見えますが、原因と結果は分けられません。よく入る人は、そもそも健康で、動けて、時間に余裕があるのかもしれない。研究者はその影響を統計で調整しますが、調整しきれないものは必ず残ります。
もうひとつ、これらの研究が数えているのは「死亡や発症が何件起きたか」という出来事の数です。血圧や血管の数値がどれだけ良くなったか、という測定値の話ではありません。同じ「サウナは体にいい」という言葉の中で、この二つはよく混ざります。混ぜないほうがいい、というのが私の考えです。
だから同じ問いを、介入研究にも投げる必要があります。この分野では数が少ないのですが、いくつかは行われています。そして、その結果は観察研究ほどきれいではありません。
今日はその二本を、記事の前のほうに置きます。サウナを売っている店が書くことではない、と思われるかもしれません。ただ、都合のいい数字だけを並べた店から百万円単位のものを買いたいとは、私なら思わないのです。
先に、数字の言葉を三つだけ
このあと、聞き慣れない言葉が並びます。三つだけ、先に説明させてください。ここが分かると、後の数字はぐっと読みやすくなります。
ひとつめ、ランダム化比較試験。参加者をくじ引きのように無作為に二組へ分け、片方だけにサウナに入ってもらい、前と後を測る研究です。くじ引きにするのは、年齢や体力の偏りを両方の組に均すためです。英語の頭文字からRCTと呼ばれます。
ふたつめ、95%信頼区間。研究で出た数字は、測った人数が限られている以上、必ず幅を持っています。その幅を示したものです。「マイナス2.46、幅はマイナス5.02からプラス0.10」とあれば、下がった可能性も、少し上がった可能性も残っている、という意味になります。
みっつめ、有意。偶然のばらつきでは説明しにくいほど差がはっきりしている、という意味です。慣例では、P値が0.05を下回れば有意とします。
読むときの目印は、ひとつで足ります。信頼区間がゼロをまたいでいるあいだは、下がったとは言い切れない。それだけです。
冠動脈疾患の41人。79℃・週4回・8週間で、動かなかった指標
一本目は、2023年にJournal of Applied Physiology誌(135巻4号)に載った報告です。Debray、Gravelらのグループが、安定した冠動脈疾患を持つ成人41人、平均62±6歳を対象に行いました。
参加者を無作為に二つに分けます。サウナ群が21人、対照群が20人。サウナ群は週に4回、1回あたり20分から30分、79℃・湿度13%のサウナに入る。これを8週間続けました。週4回を8週間というのは、日本の生活感覚ではかなりの頻度です。岩手でいえば、雪が降り始めてから根雪になるまで、休まず続ける計算になります。
測ったのは、血管の状態を示す指標と、血圧です。まず上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(FMD)。血管の内側の膜がどれだけしなやかに広がるかを見ます。次に頸動脈から大腿動脈までの脈波伝播速度。動脈の硬さを、脈の伝わる速さで測ります。そして前腕の反応性充血。腕の血流を一度止めてから解放し、どれだけ勢いよく血が戻るかを見るものです。血圧はこれらとは性質が違い、血管の状態を直接映すものではありませんが、循環にかかる負担を見るために一緒に測られています。
結果です。FMD、脈波伝播速度、血圧には、群間の差が出ませんでした。差がついたのは前腕の反応性充血だけです(合計でP=0.031、ピークでP=0.024)。ただしこれは、サウナ群が良くなったからではありません。サウナ群の値はむしろ下がり(統計的に有意な下がり方ではありません)、対照群の値のほうが上がった。その開きが差として出たものです。サウナ側に有利な差ではなかった、ということになります。
読み方です。対象は安定冠動脈疾患のある方に限られ、すでに治療を受けている集団です。41人という規模も小さい。人数が少ないと、本当は小さな変化があってもばらつきに埋もれて見えなくなります。「差が出なかった」は「差がないと証明された」とは違う、ということです。ですから一般化できる研究ではありません。それでも、無作為に割り付けた比較試験でサウナ側の改善が見えなかった事実は、そのまま受け取るべきだと思います。

2025年のメタ解析。20件を束ねても、血圧は有意に下がらなかった
二本目は、2025年にAmerican Journal of Preventive Cardiology誌に出たメタ解析です。メタ解析とは、同じテーマの研究をいくつも集め、数字を統合して一本の結論を出す方法です。Hamayaらが、受動加温(サウナや温浴のように、自分は動かずに体を温める方法)の、急性ではない効果を調べたランダム化比較試験を集めました。一回入った直後にどうなるかではなく、続けたときにどうなるかを見た研究群です。
集まったのは20件。1件あたりの参加人数は15人から188人、介入期間は2週間から15週間でした。
統合した結果です。収縮期血圧はマイナス2.46mmHg(95%信頼区間マイナス5.02からプラス0.10、P=0.059)。拡張期血圧はマイナス1.08mmHg(同マイナス2.79からプラス0.63)。FMDはマイナス0.055%(同マイナス1.11からプラス1.00)。脈波伝播速度はマイナス0.39m/s(同マイナス1.01からプラス0.22)。HbA1cはマイナス0.20%(同マイナス0.48からプラス0.08)。HbA1cは、血糖の状態を少し長い目で見るための検査値です。いずれも区間がゼロをまたいでおり、統計的に有意ではありませんでした。
ここで、符号の向きに注記が要ります。収縮期血圧・拡張期血圧・脈波伝播速度・HbA1cは、数値が下がることが改善の方向です。ところがFMDだけは逆で、血管の内膜がしなやかに広がるほど数値は大きくなります。つまりFMDのマイナス0.055%は、改善ではなく、ごくわずかに低下した側へ振れた数字です。同じ列にマイナスが並ぶと全部が同じ方向に見えてしまうので、ここだけは分けて読んでください。もっともこの値も有意ではなく、実質的にはゼロ付近の揺れと受け取るのが妥当だと思います。
P=0.059は、慣例の0.05をわずかに超えた値です。惜しい、と書きたくなります。ただ信頼区間がゼロをまたいでいる以上、「下がったとは言えない」が正しい読み方です。そもそもマイナス2.46mmHgは、血圧計の表示でいえば2か3の違いです。同じ人が朝と夕方に測っても、それくらいは動きます。わずかに下がる可能性が見えた、というところまでの数字です。ここを曖昧にした瞬間、文章は記事ではなく広告になります。
著者ら自身も限界を明記しています。組み入れられた試験の多くは盲検化(どちらの群かを参加者や測定者に伏せる工夫)がされておらず、規模も小さい。バイアスのリスクは中程度から高い。良い結果の出た研究のほうが世に出やすいという出版バイアスの示唆もある、と。
それでも数字が動いた場所。全身加温と、危険因子を持つ人たち
同じメタ解析には、続きがあります。全体では有意差が出なかったのですが、対象を絞ったサブグループの解析では、いくつか数字が動いていました。
ひとつは、加温の方法で分けたとき。体の全体を温める方法、つまりサウナのように全身が熱に包まれるやり方に限ると、収縮期血圧はマイナス4.11mmHg(95%信頼区間マイナス7.36からマイナス0.86)。信頼区間がゼロをまたいでいないので、統計的には有意ということになります。
もうひとつは、対象者で分けたとき。冠動脈疾患の危険因子を持つ人や、すでに心血管疾患のある人に限ると、収縮期血圧はマイナス2.52mmHg(95%信頼区間マイナス4.26からマイナス0.79)。こちらも有意でした。
リスクを抱えた集団のほうが変化は出やすいのかもしれない。そう読みたくなる数字です。ただし、ここは誤解されやすい。分けているのは「冠動脈疾患の危険因子を持つか、すでに心血管疾患があるか」という条件であって、「もともとの血圧が高いか低いか」ではありません。ベースラインの血圧で層別した解析ではないのです。ですから「血圧が高い人ほど下がる」という話には、この数字からは進めません。
そして、サブグループ解析そのものが扱いに注意の要るものです。全体で差が出なかった結果を後から切り分けていけば、偶然だけでも有意な組み合わせは出てきます。これは「効果が証明された」ではなく、「次に確かめるべき仮説が見えた」という段階の数字だと思います。
正直に言えば、この行を読んだときは少しほっとしました。売っている側ですから。けれど、ほっとした自分を差し引いて読む癖はつけたい。サブグループで出た有意差だけを大見出しにするのは、この業界がいちばんやりがちなことなので。

20件のうち6件は、日本の和温療法だった
このメタ解析でもうひとつ目を引くのが、集められた20件の中身です。原著は加温の方法で試験を分類しています。乾式サウナが8件。そのうち6件は、日本の和温療法の研究でした。フィンランド式サウナが3件。温浴やバルネオセラピーが5件。残りは、そのいずれにも当てはまらない方法として扱われています。
ここで「乾式サウナ」と「フィンランド式サウナ」が別の枠に置かれているのを見て、フィンランド式も乾いた熱ではないか、と思われるかもしれません。もっともな疑問です。この区分は原著の分類にそのまま従ったもので、私たちが切り直したものではありません。同じ理由で、上の件数を足しても20件にはなりません。どの枠にも入らない試験が残るからです。
そのうえで言えるのは、乾式サウナとして数えられた8件のうち6件を、日本の研究が占めているという事実です。サウナの研究というと北欧の話だと思われがちですが、温熱を医療の側から調べてきた蓄積は、この国にもある。
ただし、和温療法は医療機関で行われるものです。設定温度も時間も、その後の保温のしかたも、医療者の管理のもとで決められています。庭のサウナ小屋と同じものではありません。ここを混ぜて「日本でも研究されている、だから家のサウナも同じ」と言うのは、いちばんやってはいけないことだと考えています。
はっきり書いておきます。家庭用サウナは医療機器ではありません。疾病の治療や予防を目的とした製品でもなく、私たちもそういうものとして販売していません。この記事に並べた血圧やHbA1cや血管機能の数字は、あくまで研究の紹介として置いたものです。
私たちができるのは、家庭のサウナを、無理のない温度と時間で使える形に設計するところまでです。治療の代わりにはなりません。持病のある方、薬を飲んでいる方は、入る前に必ず主治医に相談してください。飲酒のあとは入らない。水分を先にとる。ひとりで長く入らない。この三つは、どの研究の結論よりも先に守るべきことだと思っています。

岩手の冬に、この数字をどう置くか
盛岡の冬は、家の中に温度差ができます。居間は暖かくても、廊下と脱衣室と浴室は冷える。この温度差そのものが体に負担になるという話は、サウナの有無に関係なく、雪国の家では毎年出てきます。私たちが設置の現場でまず整えるのも、そこです。サウナ室の性能より先に、そこへ行くまでの道のりを暖めます。
そのうえで、今日の二本をどう置くか。私は「効くから入る」ではなく「入りたいから入る、そのために安全に作る」でいいと思っています。8週間のRCTで血管の指標が動かなかったからといって、入った日の夜がよく眠れたという感覚が嘘になるわけではありません。逆に、感覚がいいからといって、数値が下がると約束していいわけでもない。二つは別の話です。
現場で言えば、こういうことです。朝、氷点下の中で車の窓の霜を落とし、日中は現場に立ち、夕方に薪を運ぶ。体は冷えたまま一日が終わります。その終わりに、熱に包まれる時間が家の中にある。数字にはならない部分ですが、納めたあとに聞くのは、たいていこの種の話です。
家にサウナがある暮らしのいちばんの変化は、数値ではなく時間の使い方に出ます。施設まで車で往復しなくていい。冬の夜、雪をかき終えて、少し休んで、体が落ち着いてから入れる(雪かきの直後は急な高負荷のあとなので、そのまま入るのは勧めません)。夫婦で使う家も、子どもと入る家もあります。研究が測っていないのは、たぶんそのあたりです。
数字は数字として、正しい幅で受け取る。そのうえで、暮らしの側の理由で選ぶ。それが誠実な順番だと思っています。

D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとペレットストーブ、そして家庭用サウナの設置を手がけています。代表の橋本大治は三代続く火の家系で、英国RODTECH社認定の煙突掃除 安全インストラクター(東北第一号)です。ショールームで「効きますか」と聞かれたら、今日書いたことをそのままお話しします。私たちが約束できるのは、温度と湿度と換気を設計できること、暗い中でも安全に出入りできる寸法で作れること。そこまでです。サウナストーブに積む石は、量が多いほど蓄えられる熱が増え、体感がやわらかくなりやすいと感じています。ただしこれもストーブの出力や室の容積との兼ね合いで決まる部分が大きく、石の量だけで決まる話ではありません。ハルビアのサウナストーブも、自社ブランドKUUTAのサウナ小屋も、まずはその話から。岩手・盛岡で家庭用サウナの設置をお考えでしたら、まずはご相談ください。おすすめの温度設定の話は、いちばん最後で構いません。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Debray A, Gravel H, ほか. Journal of Applied Physiology. 2023;135(4):795-804. doi:10.1152/japplphysiol.00322.2023. 安定冠動脈疾患の成人41人(62±6歳)を対象とした8週間のランダム化比較試験(サウナ群21人・対照群20人、週4回・1回20〜30分・79℃・湿度13%)。
- Hamaya R, ほか. American Journal of Preventive Cardiology. 2025;23. 受動加温の非急性効果を調べたランダム化比較試験20件(各15〜188人、2〜15週)のメタ解析。オープンアクセス(PMC12490526)。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



