「何度に設定すればいいですか」。ショールームでサウナの話になると、たいてい最初にこの質問が来ます。多くの方が思い浮かべているのは、90℃や100℃という数字だと思います。ところが、心臓や血管を調べた2018年の研究をたどっていくと、実験に使われたサウナ室は73℃でした。湿度は10〜20%。日本の感覚からすると、かなりぬるい部屋です。ただし、その73℃には30分という時間がついていました。

73℃・湿度10〜20%。研究が使ったサウナ室の設定
論文が出たのは2018年、European Journal of Preventive Cardiology という雑誌です。予防心臓病学、つまり心臓や血管の病気を未然に防ぐことを扱う分野の学術誌です。筆頭著者はLee、共著にLaukkanenらが並びます。フィンランドの研究者を中心に、複数の国の共著者が名を連ねた報告です。
対象は102人。平均年齢は51.9歳。全員が心血管の危険因子を少なくともひとつ持ち、けれども症状は出ていない人たちです。危険因子というのは、高血圧や喫煙、コレステロールの値など、心臓や血管の病気につながりやすいとされる条件のことを指します。病気そのものではありません。健診で何かしら指摘されているものの、普段の生活は普通に送っている。そういう層を思い浮かべてもらうと近いと思います。
この102人に、一度だけサウナ浴をしてもらう。条件は73℃、湿度10〜20%、時間は30分。何年通ったかという習慣の話ではありません。たった一度のサウナ浴で体に何が起きるかを、その場で測った実験です。単回、つまり一回きりの入浴を見た研究、という言い方をします。
ここを読んだとき、少し手が止まりました。73℃。私たちが見てきた範囲では、日本のサウナ施設は90℃から100℃あたりの設定が多いように思います。その部屋で30分座り続けるのは、慣れた方でもなかなか難しい。10分か12分で外に出る、というのが現実的な線ではないでしょうか。
湿度10〜20%という数字にも、説明を足しておきます。冬の盛岡の室内は、薪ストーブを焚いていると30%を下回ることも珍しくありません。10〜20%は、その乾いた冬の部屋よりさらに乾いた状態です。ただしこれは、石に水をかけていないときの数字です。ロウリュをすれば湿度は一気に上がります。この点は後の節で触れます。
論文に書かれているのは、73℃・湿度10〜20%・30分という条件で実験が行われた、という事実です。研究者がなぜその温度を選んだのかまでは書かれていません。ただ、温度と時間がひとつの条件としてセットで記されていることは確かで、週に何回という頻度の数字ばかりが広まったこの分野では、見落とされやすい点だと感じています。
研究の実測値は9.8から8.6へ。そして30分後には9.0に戻っていた
測られたのは脈波伝播速度という指標です。心臓が押し出した血液の波が、血管を伝わっていく速さ。血管が硬いほど、波は速く伝わります。単位はメートル毎秒。動脈の硬さ、いわゆる動脈スティフネスの目安として使われる数字です。
言葉が硬いので、ホースで考えてみます。新しいゴムホースは、水を送り込むと少し膨らんで勢いを受け止めます。古くなって硬くなったホースは膨らまず、圧がそのまま先まで走っていく。血管も似ていて、硬いほど波が速く届きます。ですからこの数字は、小さいほうが柔らかい側だと読みます。
サウナ浴の前は9.8 m/s。サウナ室を出た直後は8.6 m/s。そこから30分休んだあとは9.0 m/s。
動いたのは、この指標だけではありません。収縮期血圧は137から130mmHgへ、拡張期血圧は82から75mmHgへ、平均血圧は99.4から93.6mmHgへ。左室駆出時間は307ミリ秒から278ミリ秒へ。心拍数は65から81へ上がっています。原著では、脈波伝播速度の3時点の変化を含め、これらにP<0.001が付されています(Lee Eら. European Journal of Preventive Cardiology. 2018;25(2):130-138)。
そのP<0.001も、噛み砕いておきます。本当は差がないのに、偶然だけでこれだけの差が出てしまう確率が0.1%より小さい、という意味です。差が偶然ではなさそうだ、ということを示す数字であって、差が大きいとか、体に良いということを示す数字ではありません。ここは混同されやすいところです。
左室駆出時間は、心臓が血液を送り出している時間を示す指標です。ただ、短くなったことが良い変化なのか悪い変化なのか、私たちはここで評価しません。血圧の低下と並べて書くと改善の一種のように読めてしまうので、あえて段落を分けました。同じ実験で心拍数が65から81へ上がっていることを重ねると、脈が速くなれば一回ごとの拍出時間も短くなる、という関係が思い浮かびます。ただ、その意味づけは専門家の領域です。
そして、これは非ランダム化の実験研究です。くじ引きで参加者を二つに分け、片方だけがサウナに入って比べた、という形ではありません。全員が同じ条件でサウナに入り、その前と後を測っています。比べているのは人と人ではなく、同じ人の前と後です。サウナに入らずに30分座っていたらどうだったのか、という比べ相手がいません。
変化は一過性のものとされています。30分の休息をはさんだ時点で、9.0まで戻っているからです。
ですから、サウナに入れば血管が柔らかくなります、とは書けません。書けるのは、73℃・湿度10〜20%で30分のサウナ浴をした直後に、こういう数字の動きが観察されたと報告されている、ということだけです。
この数字を、どう受け取ればよいか
9.8が8.6になり、30分後に9.0へ戻る。並べてみると、下がった幅は1.2、戻った幅は0.8です。サウナ室を出た直後にいちばん大きく動き、休んでいるあいだに元の側へ帰っていく。研究者が一過性と書いているのは、この形のことです。
ここから言えないことを、先にはっきりさせておきます。一晩寝たあとどうなっていたかは測られていません。毎週続けたらどうなるかも、この研究では分かりません。102人という人数は、体の反応を見るには足りても、誰にでも同じことが起きると言うには足りない数です。年齢も体調も飲んでいる薬も、人によって違います。
では読む値打ちのない数字かというと、そうは思いません。73℃・湿度10〜20%・30分という条件で、体のほうに測れる反応が出た。その記録が残っている、というだけでも、温度をどう設計するかを考える手がかりにはなります。
岩手で暮らしていると、体が温度に素直に応じることは、実感として分かります。朝の除雪で指先の感覚が薄くなり、家に入って手を湯につけると、じんじんと戻ってくる。あれも血管の反応です。研究が測っていたのは、その反応を数字に置き直したものだと考えると、少し身近になります。
ただし、実感と研究は別のものです。気持ちがよかったことと、体の中で何が起きたかは、分けて考えます。

73℃でも熱は届く。運ぶのは乾いた空気だけではない
ここから先は、研究の話ではなく設備の話です。岩手でサウナを設置してきた私たちの見方であり、先ほどの研究が示したことではありません。
私たちが見てきた範囲では、日本のサウナ施設の多くは、90℃から100℃の乾いた空気で熱を伝えています。湿度は低い。高い温度そのものが熱の運び手です。だから短時間で汗が出る代わりに、長くはいられない。喉や鼻の粘膜のほうが先に音を上げます。
フィンランド式は組み立てが違います。室温は70℃台に置いたまま、サウナストーンに水をかける。ロウリュです。ロウリュとは、熱した石にかける水と、そこから立ちのぼる蒸気を指す言葉です。石は蓄熱する素材で、熱をため込んでは一気に手放す。かけた水が瞬間的に蒸気になり、湿度が上がり、体感温度が跳ね上がる。そしてまた落ち着く。温度を上げっぱなしにするのではなく、波をつくるやり方です。
薪ストーブを使っている方なら、感覚は近いと思います。炎が勢いよく上がっている時間より、熾火になってからのほうが、部屋はじんわり暖かい。鋳物や石は熱をためて、ゆっくり手放すからです。サウナストーンの働きも同じで、蓄えた熱が水と出会って蒸気に変わります。
だから73℃という数字は、ただぬるいだけの設定とは限りません。30分いられるように組んだ設計だ、と読むほうが実態に近いと思います。
これを実現するには、設備側の条件がいくつか要ります。ストーブの出力が部屋の容積に合っていること。石の量が足りていること。石が少ないと蒸気が出ず、水をかけた分だけ温度が落ちてしまいます。ロウリュをすると寒くなる、というご相談は、たいてい石の量か積み方の話でした。
そして換気です。空気が動かない部屋は、温度計の数字が同じでも息苦しい。給気と排気の位置を決め、空気が室内をひと回りしてから抜けるようにします。岩手の冬は外の空気が冷たく乾いているので、給気の取り方ひとつで足元の寒さが変わります。温度計に出てこない要素のほうが、体感を大きく左右します。

上段と下段で、同じ部屋の温度は違います
もうひとつ、73℃という数字を読むときに必要な前提があります。どこで測った73℃なのか、ということです。
熱い空気は上にたまります。同じサウナ室でも、上段のベンチと下段のベンチでは、体に当たる熱がまるで違う。温度計をどの高さに掛けるかで、表示される数字も変わります。家庭用サウナで「設定90℃なのにぬるい」「70℃なのに熱すぎる」という話が起きるのは、私たちが呼ばれた現場ではたいていここが原因でした。
同じことは、家の居間でも起きています。冬の朝、ストーブを焚いた部屋で、天井近くは汗ばむのに足元だけ冷たい。あの上下の差が、サウナ室ではもっと急な形で現れます。
ですから設計では、ベンチの高さと天井の高さの関係を先に決めます。天井が高すぎると熱が上へ逃げ、座っている高さまで下りてこない。逆に低く抑えすぎれば、立ち上がったときに頭が熱に突っ込むことになります。ロウリュの蒸気が回る余地も要ります。
段があることには、もうひとつ利点があります。同じ部屋にいながら、座る人が自分に合う熱を選べることです。慣れた方は上段へ、年配のご家族やお子さんは下段へ。家族で入る家庭用サウナでは、この選べることが効いてきます。
D'STYLEでは、納めたサウナ室で上段と下段それぞれの温度と湿度を測り、記録を残すようにしています。数字を並べてみると、設定温度というひとつの数値が、いかに大づかみな情報かがよく分かります。
お客様に伺うときも、何度に設定していますか、ではなく、どこに座って何度でしたか、と聞くようにしています。そこまで揃って、ようやく研究の73℃と並べて眺められる数字になります。

73℃という設定は、岩手の家でも現実的に再現できます
先にお断りしておきます。ここまで紹介した研究は、限られた条件下で一度きりのサウナ浴を測った、一過性の観察です。当社が扱う製品の効果を示すものではありません。ここから書くのは、あくまで温度と湿度という設定を再現できるかどうか、という設備の話です。
研究が使った73℃・湿度10〜20%という設定は、家庭用サウナなら室内の条件としてそのまま再現できる範囲にあります。むしろ、家のサウナのほうが向いているかもしれません。
理由は単純で、家のサウナには営業時間がないからです。施設へ通うと、往復の時間と入場料の分だけ、高温の部屋で限界まで我慢する組み立てになりがちです。室温を決めるのは施設側で、利用する側は与えられた温度に合わせるしかありません。庭に小屋があれば、その前提が崩れます。ぬるめに温めて、長く座って、途中で一度出て、また戻る。時間の使い方そのものが変わります。
冬の岩手では、この差がもっとはっきりします。雪の日は道路の状況が読めません。時間のかかる施設ほど、雪のあいだだけ足が遠のきます。朝の除雪を終えて、体は冷えているのに背中は汗ばんでいる。そういう日に、着替えを持って車を出す気にはなかなかなれません。庭に小屋があれば、長靴のまま歩いていけます。
岩手の冬なら、外に出れば冷たい空気はいくらでもあります。往復の移動がないぶん、サウナ室に座っている時間に、あと5分を無理なく足せる。我慢を5分伸ばすのではなく、温度がぬるいから足せる5分です。
ハルビアの電気サウナストーブ(シリンドロなどの機種)はサーモスタットで設定温度を選べますし、ハルビアの薪サウナストーブ(レジェンドなどの機種)なら薪の量と空気の絞り方で加減します。薪で70℃台に保つのは、一気に焚き上げるより少し慣れが要ります。太めの薪を一本ずつ足して、空気を絞りぎみにする。薪ストーブを扱ってきた方なら、じきに手が覚える調整です。どちらも上限まで上げる必要はありません。石をきちんと積み、換気を確保し、70℃台で長く入れる部屋にする。岩手・盛岡で家庭用サウナの設置をお考えの方には、この組み立てをおすすめしています。結局それが、いちばん長く続くかたちだと思います。
ひとつだけ。血圧やお薬のことで指摘を受けている方は、温度や時間を決める前に主治医にご相談ください。飲酒後は入らない。水分を先に。ここは温度設計より前の話です。研究に参加した102人も、症状の出ていない方々でした。

盛岡の冬は、家の中にはっきりと温度差が生まれます。廊下は冷たく、居間だけが暖かい。そこにもうひとつ、73℃の部屋が加わるとどうなるか。私たちが見てきたのは、家族の居場所が少し増える、という変化でした。
サウナの温度を何度にするか。この問いに、たったひとつの正解はありません。研究が使ったのは73℃でしたが、それは30分という時間とセットで記録された条件でした。数字を追いかけるより、その温度で何ができるかを先に考えたほうがいいと思います。
D'STYLEは岩手・盛岡で、サウナと薪ストーブ、ペレットストーブの設置をしています。温度計に出てこない部分こそ、現場で測ってお渡しできる部分だと思っています。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Lee E, Laukkanen T, Kunutsor SK, Khan H, Willeit P, Zaccardi F, Laukkanen JA. European Journal of Preventive Cardiology. 2018;25(2):130-138(心血管危険因子を1つ以上持つ無症状の102人、平均51.9歳、73℃・湿度10〜20%で30分間の単回サウナ浴。脈波伝播速度はサウナ浴前9.8→直後8.6→30分回復後9.0 m/s。あわせて収縮期血圧137→130mmHg、拡張期血圧82→75mmHg、平均血圧99.4→93.6mmHg、左室駆出時間307→278ms、心拍数65→81拍/分の変化が報告され、いずれもP<0.001。非ランダム化の実験研究であり、変化は一過性)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



