ショールームのストーブに火が入っている午後、いちばん多い質問はだいたい決まっています。健診で血圧が高いと言われたのですが、サウナに入っていいですか。私たちの答えは昔から変わりません。まず主治医に聞いてください。そっけない返事に聞こえるかもしれませんが、その理由はフィンランドの追跡研究のなかにあります。都合のいい話より先に、都合の悪い数字のほうを書きます。聞き慣れない言葉もいくつか出てきますが、そのつど言い換えを添えます。急がずに読んでいただければと思います。

「血圧にいい」まで短くなると、もとの研究ではなくなる
サウナと心臓の研究は、この十年で一気に増えました。頻度が高い人ほど心血管の死亡が少なかった、という報告がいくつも出ています。そういう見出しだけが切り取られて回っていくうちに、話はどんどん短くなります。サウナは血圧にいい。血圧が高い人こそ入ったほうがいい。ここまで縮むと、もとの研究が言っていないことになっています。
短くなるのは、誰かが悪意でねじ曲げたからではないのだと思います。人から人へ渡っていくうちに、条件のついた部分から順に削れていく。残るのは、覚えやすい一行だけです。
火のことでも同じです。薪ストーブは暖かい、という一行だけが伝わると、煙突の掃除の話が抜け落ちます。抜け落ちた側にこそ、安全の話が入っています。血圧とサウナの関係も、そこは同じだと思います。
盛岡のショールームでも、健診の紙を手に、入っていいですよねと確かめに来られる方がいます。ですから今回は、フィンランドの研究グループがまさにその抜け落ちた部分を調べた報告から書きます。血圧の状態とサウナの頻度を掛け合わせ、組み合わせごとにリスクを見たものです。結果は、サウナを売っている側にとって都合のいいものではありませんでした。
数字の前に、言葉の話を三つだけ
この先、ハザード比と信頼区間という言葉が出てきます。医学の報告でよく使われる言い方です。数字を並べる前に、噛み砕いておきます。
ハザード比というのは、ある出来事の起きやすさを二つの群で比べた数字です。基準に置いた群を1.00とし、それより起きやすければ1より大きく、起きにくければ1より小さくなります。1.52なら、基準の群のおよそ1.5倍起きやすかった、という読み方です。何倍という言い方ですから、もとの人数がどれくらいなのかは、この数字だけでは分かりません。
信頼区間は、その数字の揺れ幅です。同じような調査をもう一度したら、だいたいこのあたりに収まるだろう、という範囲を示します。95%信頼区間1.06〜2.16と書いてあれば、幅の下端は1.06。1をまたいでいません。基準の群と差がなかったとは言いにくい、という読み方になります。逆に幅が1をまたいでいれば、差があるとは言い切れない、と読みます。真ん中の数字より、この幅のほうが大事なことがあります。
もうひとつ、観察研究という言葉。人を二組に割り振って、片方にサウナへ入ってもらう、という調べ方ではありません。もともとの暮らしぶりを記録して、後から比べたものです。ですから、どちらが原因でどちらが結果なのか、この作りでは決まりません。雪の朝に置き換えると分かりやすいと思います。毎朝きちんと除雪をする人のほうが元気だった、という記録が出たとして、除雪が体にいいのか、元気だから除雪ができるのか、この記録だけでは分けられない。サウナの研究も、同じ弱さを抱えています。
2,575人を中央値27.8年。140mmHg以上では、頻度が高くても残った
その報告は、2023年の The Journal of Nutrition, Health & Aging(27巻5号348〜353頁)に載っています。フィンランドの中年男性2,575人、年齢は42歳から61歳。中央値で27.8年という長さで追いかけ、その間に心血管の死亡が744例ありました。2,575人のうち744人ですから、四人に一人を超えます。四半世紀を超える年月を追えば、それだけの数になります。
解析の組み方が少し独特です。血圧が正常でサウナの頻度も高い群を基準に置き、そこからの差を見る、という組み方をしています。ここでいう頻度が高い群は週3〜7回、低い群は週2回以下という区切りです。血圧の側は、正常、高値(収縮期130〜139mmHg)、そして140mmHg以上という三つに分かれています。まずこの区切りを頭に入れてください。
収縮期血圧が140mmHg以上でサウナの頻度が低い群は、ハザード比1.81、95%信頼区間1.39〜2.36。ここまでは想像がつきます。問題は次です。同じ140mmHg以上でも、サウナの頻度が高い群のハザード比は1.52、95%信頼区間1.06〜2.16。数字は下がっていますが、区間の下端は1を超えたまま。リスクの上乗せは、残っていました。
この1.81と1.52という並びを、どう読むか。頻度が高いほうが数字は小さい。ただ、どちらも同じ基準の群と比べた数字であって、二つを引き算して、頻度を上げればこれだけ下がる、と読める形にはなっていません。言えるのは、どちらの群も1を上回ったまま、幅の下端も1を超えていた、という一点です。
ひとつ、読み方の注意を添えておきます。この研究の140mmHg以上という群分けは、調査を始めた時点で測った収縮期血圧の値によるものです。高血圧という診断を受けているかどうか、降圧薬を飲んでいるかどうかで分けた研究ではありません。つまりここに入っているのは、病名がついた人というより、測定値が140mmHg以上だった人たちです。測定値で分けた群ですから、測った日の体調や測り方の影響が、まったくないとは言えません。
著者らのまとめは、こうです。頻度の高いサウナは、高値(収縮期130〜139mmHg)の群では心血管死のリスクの上乗せを相殺しうる。しかし、140mmHg以上の群では相殺しない。私たちの言葉に置き換えれば、よく入る人であっても、測定値が高い側の群では上乗せ分が消えていなかった、ということになります。もちろんこれは、さきほど書いた観察研究です。因果関係を示すものではありません。それでも、期待していた方向に数字が出なかったという事実は残ります。

まだ高血圧ではない人には、別の報告がある
では、まだ高血圧と言われていない人はどうか。別の角度の報告があります。American Journal of Hypertension の2017年、30巻11号1120〜1125頁。調査を始めた時点で高血圧のなかった男性1,621人を、中央値24.7年追いかけたものです。その間に新しく高血圧に該当した人が251例。この研究でいう該当は、医師から高血圧と診断された、収縮期血圧が140mmHgを超えた、拡張期血圧が90mmHgを超えた、降圧薬を使い始めた、そのいずれかです。診断がついた人だけを数えたものではありません。サウナを週に4〜7回使う群のハザード比は、週1回の群と比べて0.54、95%信頼区間0.32〜0.91でした。
この0.54という数字は、あくまで週1回の人を基準にした比較です。まったく入らない人と比べた数字ではありませんし、入れば発症が半分になる、という意味でもありません。幅の上端は0.91。1はまたいでいませんが、1のすぐ手前です。真ん中の0.54だけを覚えて帰らないほうがよい、というのはこういうところです。しかも頻度の区切り方が、さきほどの報告(週3〜7回と週2回以下)とは違います。二つの数字を並べるときは、この区切りの違いも一緒に持っていってください。
数字だけ並べると、さきほどの報告と逆を向いて見えます。けれど、見ているものが違います。こちらは、まだ高血圧ではない人が新しく高血圧に該当するようになるかどうかの話。さきほどのは、調査開始の時点で収縮期血圧が140mmHg以上だった人の、その後の話です。これから上がるのを防ぐ文脈と、すでに高い値が出ている人の文脈。この二つを混ぜて読むのが、いちばん危ない読み方だと思います。
そしてどちらも観察研究です。サウナをよく使う人はもともと活動的だったのかもしれませんし、体調のすぐれない人はサウナから足が遠のくのかもしれない。因果の向きは、この設計では決まりません。加えて、どちらもフィンランドの中年男性だけを調べた研究です。女性や日本人、そして湯船に浸かる日本の入浴習慣にそのまま当てはまるとは限りません。入る部屋の作りも、入り方も、暮らしの中での位置づけも違います。数字は参考にはなりますが、目の前のひとりの体のことは、数字だけでは決まらないと思っています。

主治医に、何をどう聞くか
ですから私たちの答えは、昔から変わりません。まず主治医に聞いてください。ただ、それだけでは診察室で言葉が出なかった、という声もいただきます。持っていく質問を四つに絞っておくと、短い診察時間でも話が早いようです。
ひとつめ、いま飲んでいる薬の名前と飲む時間。降圧薬を使っている場合、入浴のタイミングと重なるかどうかを見てもらう。薬の名前は、お薬手帳をそのまま出すのがいちばん確実です。ふたつめ、入浴のときに気をつけることはあるか。みっつめ、水風呂や冷水を使ってよいか、使うならどの程度までか。よっつめ、温度と時間の上限をどこに置くか。
この四つを紙に書いて渡すと、数分で答えが返ってくることが多いと聞きます。返ってきた答えは、その場で紙の余白に書き留めておいてください。あとで部屋の相談をするとき、その紙がそのまま条件表になります。設定温度も、入っていられる時間も、水の冷たさも、そこに書かれた範囲の内側で決めればよい。以前「その一問を、主治医に」という記事にも、同じことを書きました。私たちが責任を持って答えられるのは、部屋の作り方と設備の設定までです。体のことは主治医の領分。持病のある方、薬を飲んでいる方は、必ず先に相談してください。飲酒のあとは入らない、水分を先に取る、ひとりで長く入らない。この三つも、温度の話より前に置いています。

岩手の冬は、家の中の温度差そのものが効く
もうひとつ、岩手で暮らしていると外せない話があります。サウナの中の温度ではなく、家の中の温度差のほうです。
冬の朝、居間はストーブで暖まっていても、暖房を入れていない脱衣室は外の空気に近いところまで落ちます。そこで服を脱ぎ、熱い部屋や熱い湯へ移る。血圧が気になる方にとっては、サウナ室の設定温度より、この数メートルの移動のほうが大きいのではないかと思っています。ヒートショックという言葉で語られるのは、たいていこの区間です。ここは研究の数字ではなく、私たちが岩手で家を見てきた範囲での実感として書いています。
雪の日は、そこに動線の問題が重なります。母屋から離れた小屋まで雪を踏んで歩き、濡れた足で脱衣室に入る。上がったあとは、湯気の立った体で氷点下の外気に出る。夏の図面のまま冬を迎えると、この行き来がいちばんこたえます。熱源が薪サウナストーブでも、ペレットサウナでも、電気ヒーターでも、ここは変わりません。
D'STYLEでサウナ小屋の図面を引くとき、いちばん時間をかけるのは室内の最高温度ではありません。脱衣スペースをどう暖めるか。母屋からそこまで何歩で行けるか。雪の日にその動線が濡れないか。屋根から落ちた雪が、扉の前に溜まらないか。手すりをどこに付けるか。ベンチから降りる段差を何段にするか。写真映えのしない部分ばかりですが、健診の紙を持って来られた方には、ここが本体だと説明しています。岩手・盛岡で家庭用サウナの設置を考えている方にも、まずこの脱衣まわりからおすすめしています。上がりきった体で氷点下の外へ出る前に、休む場所と飲み物の置き場を先に決めておく。設計というのは、たいていそういう地味な話です。

火を扱う仕事を三代続けてきて、思うことがあります。都合の悪い数字を先に出す店のほうが、結局は長く付き合えるのではないか。サウナは薬ではありません。収縮期血圧が140mmHg以上だった群の上乗せ分は、中央値27.8年追跡した解析でも、残ったままでした。それでも、雪に閉じられる岩手の冬に、家の中で行ける場所がひとつ増えることの意味は、別にあると思っています。健診の紙が気になっている方は、まず主治医へ。温度と時間の上限を聞いてきていただけると、そのあとの部屋の設計はこちらで受け持てます。盛岡でお待ちしています。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。持病のある方、薬を飲んでいる方は、必ず主治医にご相談ください。
参照した研究
- Laukkanen JA, Jae SY, Kauhanen J, Kunutsor SK. The Journal of Nutrition, Health & Aging. 2023;27(5):348-353(フィンランドの中年男性2,575人・42〜61歳・中央値27.8年追跡・心血管死744例。サウナ頻度は高=週3〜7回、低=週2回以下。血圧の群分けはベースラインの収縮期血圧測定値により、正常/高値130〜139mmHg/140mmHg以上。著者らの結論は、頻回のサウナは高値の群では心血管死リスクの上乗せを相殺しうるが、収縮期血圧が高い(140mmHg以上)群では相殺しない。観察研究)
- Zaccardi F ほか. American Journal of Hypertension. 2017;30(11):1120-1125(ベースライン時に高血圧でないフィンランド男性1,621人・中央値24.7年追跡・新規高血圧251例。新規高血圧は医師の診断、収縮期血圧140mmHg超、拡張期血圧90mmHg超、降圧薬使用のいずれかで定義。週1回群を基準とした比較。観察研究)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



