健診の結果が入った封筒を、台所のテーブルで開ける。ヘモグロビン、血糖、コレステロール。並んだ数字の下のほうに、CRPという小さな欄があります。基準値の内か外か、それだけ見て封筒に戻す方が多いと思います。この欄と、サウナに入る頻度とを掛け合わせて、27.8年ぶんの追跡を見た研究があります。岩手の冬をどう過ごすか、という話に静かにつながっていきます。

健診の紙の、下のほうにあるCRPという欄
CRPはC反応性たんぱくの略です。体のどこかで炎症が起きると、血液の中で増えます。風邪の翌日に測れば上がりますし、歯を治療した後でも動きます。ですから一回きりの数値をにらんでも、あまり意味はありません。
やっかいなのは、感染も怪我もないのに、ごくわずかに高い値が続く人がいることです。高感度法で測るhsCRPという検査は、その「わずかな高さ」を拾うためのもの。基準値の内側におさまっていても、その内側のどのあたりにいるかで、長い年月のあいだの病気の起こりやすさとの関連が調べられてきました。
もうひとつ、細かいようで大事なことを先に。CRPの値は、施設によって単位の書き方が違います。mg/Lで出てくるところもあれば、mg/dLのところもある。この二つは桁がひとつ変わりますから、他人の数字や記事に載っている数字とご自分の値を見比べるときは、まず単位の欄を確かめてください。この記事で後に出てくる数字にも、同じ注意が要ります。
念のために先に書いておきます。この先は、生活を変えればCRPを下げられる、という話ではありません。数値そのものを動かす話ではなく、その数値が高い人の背景に何があるのか、という話です。
雪の朝、封筒を開けて基準値の外に印がついていると、気持ちが少ししぼみます。私も同じです。ただ、その印を見てすぐに何かを買うより先に、どんな研究があるのかを知っておくほうが、たぶん役に立ちます。
男性2,575人を、27.8年。フィンランドの長い追跡
フィンランド東部の中年男性を追い続けているコホート研究があります。クオピオ虚血性心疾患研究、通称KIHDと呼ばれるものです。コホート研究というのは、ある集団を登録して、そのまま何年も追いかけ、その間に何が起きたかを記録していくやり方です。参加者に何かをさせるのではなく、暮らしぶりをそのまま観察します。そこから2022年に、European Journal of Epidemiology誌へ報告された解析を見ていきます。
書誌をそのまま書いておきます。Kunutsor SK, Jae SY, Kurl S, Kauhanen J, Laukkanen JA. Inflammation, sauna bathing, and all-cause mortality in middle-aged and older Finnish men: a cohort study. European Journal of Epidemiology. 2022;37(12):1225-1231. doi:10.1007/s10654-022-00926-w(PMID: 36255556)。PubMedでこのPMIDを引けば、要旨まではどなたでも確かめられます。数字を並べる以上、出どころはたどれる形にしておきます。
対象は、登録時42〜61歳、平均52歳の男性2,575人。追跡期間の中央値は27.8年でした。中央値というのは、短い人から長い人まで並べたときに、ちょうど真ん中に来る人の年数です。四半世紀を超えて追いかけたあいだに、総死亡が1,618件記録され、そのうち744件、総死亡の46.0%が心血管死でした。ただし、この記事でこれから並べるハザード比は、すべて総死亡についてのものです。心血管死だけを取り出した解析には、ここでは踏み込みません。
区分の決め方も先に置いておきます。hsCRPは3mg/Lが境で、3mg/L以下が正常、3mg/Lを超えると高値。サウナの頻度は週2回以下が低頻度、週3〜7回が高頻度です。「頻度が高い群」といっても週3回からで、毎日入っている人ばかりではありません。ここを知らずに読むと、数字の印象が実際よりも極端になります。
結果はふたつに分けて読むと、分かりやすいと思います。まず、hsCRPが高い群は、正常の群を1.00と置いたときの総死亡のハザード比が1.27(95%信頼区間1.13〜1.44)。ハザード比とは、比べる相手を1.00と置いたときの起こりやすさの目安です。1.27は、約27%高かった、言い換えれば3割弱高かった、という読み方になります。
かっこの中の95%信頼区間は、その数字が落ち着きそうな範囲の幅だと思ってください。幅の中に1.00が入っていなければ、偶然のぶれとは考えにくい、と読みます。
もうひとつ。低頻度の群を1.00と置いたとき、サウナに入る頻度が高い群のハザード比は0.86(0.76〜0.97)でした。0.86は、約14%低かった、という意味です。1.00を下回り、信頼区間も1.00をまたいでいません。頻度の高さと総死亡の低さに関連が見られた、ということです。
ただし、これは観察研究です。人を無作為に振り分けて比べたわけではないので、因果関係を示すものではありません。もともと元気な人がよくサウナに入っていた、という順番の可能性も残ります。
掛け合わせたとき、上乗せ分がはっきりしなくなった
この報告の読みどころは、ふたつの要素を掛け合わせて群を分けた解析にあります。比較の土台、つまり1.00と置かれているのは、hsCRPが正常(3mg/L以下)で、サウナの頻度も低い(週2回以下)群です。四つに分かれた組み合わせのうち、ここでは二つを見ます。
hsCRPが高く(3mg/L超)、サウナの頻度が低い(週2回以下)群。この群の総死亡のハザード比は1.28(95%信頼区間1.12〜1.47)でした。信頼区間が1.00をまたいでいませんから、統計的にははっきりした差です。
ところが、同じくhsCRPが高い人でも、サウナの頻度が高い(週3〜7回)群では1.06(0.81〜1.40)。値は1.00に近づき、信頼区間が1.00をまたぎました。統計的に意味のある差とは言えなくなった、ということです。
ここを読み違えないでいただきたいのです。「有意な差ではなくなった」は「リスクがなくなった」ではありません。点推定値の1.06は、そもそも1.00を下回ってすらいない。信頼区間の下は0.81、上は1.40と幅が広い。群を細かく分けると一群あたりの人数が減り、数字はぶれやすくなります。ぶれが大きかったから有意にならなかった、という可能性も十分にあります。この記事の見出しに「消えた」ではなく「有意な差ではなくなっていた」と書いたのは、そのためです。
それでも、方向としては見ておく価値があると思います。炎症の指標が高い人のなかでも、生活の型によって見え方が違った。断定はできませんが、そういう解析が報告されている、という事実は残ります。観察研究である以上、因果を示すものではないことは、もう一度書いておきます。

頻度が高い人ほどCRPの平均が低かった、という別の報告
同じコホート(KIHD)から、2018年に短い報告が同じEuropean Journal of Epidemiology誌へ出ています。Laukkanen JA, Laukkanen T. Sauna bathing and systemic inflammation. European Journal of Epidemiology. 2018;33(3):351-353. doi:10.1007/s10654-017-0335-y(PMID: 29209938)。
先に断っておくと、著者は前の節の論文と同じではありません。2022年の解析はKunutsor SKが筆頭、こちらはLaukkanen JAが筆頭で、重なるのはLaukkanen JAひとりです。同じ研究グループが同じコホートを別の角度から見た、というのが正確な言い方になります。
内容は、急性・慢性の炎症がない男性2,084人を対象に、サウナの頻度別の平均CRPを並べたものです。週1回の群が533人で2.41(標準偏差2.91)、週2〜3回の群が1,368人で2.00(2.41)、週4〜7回の群が183人で1.65(1.63)。頻度が上がるほど平均値が低い、という並びでした。かっこの中は標準偏差で、値のばらつきの大きさを表します。平均より標準偏差が大きい群もあり、同じ群の中でも人によって値はかなり散らばっていました。
単位について一言添えます。原著の要旨では、この値の単位がmmol/Lと表記されています。ただしCRPは通常mg/Lで表す指標で、値の大きさから見てもmg/Lとして読むのが自然です。ここでは原著の表記をそのまま示したうえで、単位の扱いには注意が要る、と書いておきます。
きれいに並んだ数字ほど、慎重に見たほうがいいと私は思っています。これは、ある時点で測った値を頻度別に集計したもの。サウナがそう働いたのか、それとも指標が低いくらい元気な人だから週に何度も入れるのか。この形の集計では、どちらとも決められません。持病があって外出も入浴もつらい方は、そもそも週4回サウナに通えないからです。加えて、いちばん頻度の高い週4〜7回の群は183人、全体の1割にも届きません。人数の少ない群の平均値は動きやすいものです。
それから、この二つの報告を並べて読むときの注意をひとつ。前の節の1.06というハザード比と、この2.41から1.65という平均値の並びを、同じ「方向」を向いていると読むことはできません。片方は死亡の起こりやすさの比、もう片方はある時点のCRPの平均値で、そもそも指標が違います。頻度の区切り方も、2022年の解析は週2回以下と週3回以上、2018年の報告は週1回・週2〜3回・週4〜7回と、揃っていません。二つを並べて一本の線にはできない、ということです。
サウナの研究の多くは観察研究で、しかもフィンランドの中年男性が中心です。因果を示すものではありませんし、日本の暮らしにそのまま当てはまるとも限りません。それでも、どんな数字が報告されているかを知っておく意味はある。私はそう考えています。
岩手の冬と、家の中に「行く場所」があるということ
岩手の冬は、家の中の行動範囲が狭くなります。日が短くなり、雪が積もり、朝は玄関前の雪かきから始まる。用事がなければ外に出ない日が続きます。沿岸の町でもそうですし、冷え込みの厳しい内陸の盛岡や、その周りの町ならなおさらです。
閉じこもりと炎症の指標がどうつながるのか。今回の研究は、そこまでは教えてくれません。ただ、お引き渡しのあとに私たちがお宅へ伺ってきたなかで、ひとつ繰り返し見てきた景色があります。あくまで私たちが見てきた範囲の話で、数えたわけでも比べたわけでもありません。
庭にサウナ小屋のあるお宅では、冬に家族が集まる場所が居間から動くのです。夕方になると誰かが火を入れに行き、しばらくしてもう一人が様子を見に行く。石の温まり具合や薪の減り方を話しているうちに、いつのまにか一時間経っている。冬のあいだ、家の中に「行く場所」がひとつ増えた。そういう言い方がいちばん近いように思います。
思い出しておきたいのは、研究が数えていたのが温度でも一回の長さでもなく、週に何回入ったかという回数だったことです。回数というのは、体の調子の話であると同時に、暮らしの型の話でもあります。
数値を良くするために建てましょう、という話ではありません。サウナは治療ではありませんし、CRPの欄を動かすための装置でもない。ただ、冬に体を動かさなくなる、人と話さなくなる、湯船にもゆっくり入らなくなる。その連なりのどこかに、小さな用事をひとつ作れる。生活の型が変わるというのは、そういう地味なことだと思います。

入る前に決めておくこと、そして主治医への質問
最後に、順番の話をします。
CRPの欄に印がついていた方、血圧や心臓のことで通院している方、薬を飲んでいる方は、サウナを検討する前に主治医にひとつ質問してください。「サウナに入っていいですか」だけでは、答えが「まあ気をつけて」で終わりがちです。上限にしたい温度、一回の時間、冷水を使ってよいか、いま飲んでいる薬との兼ね合い。この四つを紙に書いて持っていくと、話が具体的になります。
そのうえで、家での運用も先に決めておきます。飲酒のあとは入らない。水分を先に取る。ひとりでは入らないか、少なくとも家族に声をかけてから入る。具合が悪くなったらすぐ出る。当たり前のことばかりですが、当たり前が抜けたときに事故は起きます。
岩手ならもうひとつ。雪かきや除雪のあとは、思っているより体に負担がかかっています。息が上がったまま熱い部屋に入らない。少し休んでからにする。これも家の約束事に入れておくとよいと思います。
設計の側も同じです。ベンチから降りる段差、手すりの位置、脱衣スペースを暖めておくこと、飲み物を置ける場所。私たちが家庭用サウナを設置するときに、温度計の数字より先に決めているのはこのあたりです。熱の作り方より、出るときの段取り。岩手で薪ストーブとサウナの設置を続けてきたなかで教わったのは、結局そういうことでした。

D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとペレットストーブ、そして家庭用サウナを設置してきました。サウナ室KUUTAに据えるのはハルビアのサウナストーブです。石を積んで熱を溜め、ロウリュで湿度を動かす。石は溜めてから返す素材なので、温度計の数字が同じでも体感はやわらかく感じる、とおっしゃる方が多いです。感じ方には個人差がありますし、数字でお約束できる部分ではありません。実際に当たっていただくのがいちばん早いと思います。
研究の数字は、暮らしを決めてはくれません。決めるのは、冬の夕方に上着を着て庭へ出るかどうか、その一歩のほうです。おすすめの温度や運転の仕方は、盛岡のショールームで実際の熱に当たりながらお話しします。健診の封筒は、持ってきていただいても、置いてきていただいても構いません。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Jae SY, Kurl S, Kauhanen J, Laukkanen JA. Inflammation, sauna bathing, and all-cause mortality in middle-aged and older Finnish men: a cohort study. European Journal of Epidemiology. 2022;37(12):1225-1231. doi:10.1007/s10654-022-00926-w(PMID: 36255556/男性2,575人・42〜61歳・平均52歳、中央値27.8年追跡、総死亡1,618件・うち心血管死744件。hsCRPは3mg/L超を高値、サウナは週3〜7回を高頻度と定義) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36255556/
- Laukkanen JA, Laukkanen T. Sauna bathing and systemic inflammation. European Journal of Epidemiology. 2018;33(3):351-353. doi:10.1007/s10654-017-0335-y(PMID: 29209938/急性・慢性の炎症がない男性2,084人。サウナ週1回533人・週2〜3回1,368人・週4〜7回183人の平均CRPは2.41/2.00/1.65。単位は原著要旨ではmmol/Lと表記) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29209938/
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



