健康診断の紙を受け取って、見慣れない三文字に目が止まったことがあります。CRP。基準値の欄からわずかにはみ出した数字を前に、去年より少し重い気持ちで封筒を閉じた方も多いのではないでしょうか。今日はその数字と、サウナに入る頻度を長い年月をかけて追いかけた、フィンランドの研究の話をします。
「去年ひっかかってさ」という会話
サウナ小屋の現場に伺うと、施主の方と世間話をする時間があります。基礎の型枠が組み上がるのを眺めながら、あるいは薪ストーブの煙突を通す穴の位置を確認しながら、ふと出てくるのが健康診断の話です。
「去年ひっかかってさ、コレステロールと、あと聞いたことない数値も」
盛岡や岩手の中高年の男性から、こういう言葉を何度も聞いてきました。私自身も五十を過ぎて、健診結果の紙を開くのが少し緊張する年齢になりました。今日紹介する研究は、その「聞いたことない数値」のひとつであるCRPについてのものです。私は医療者ではありません。設計と施工の現場で家をつくる者として、この数字とどう付き合うかを、皆さんと同じ立場で考えたいと思います。
CRPとは何か、噛み砕いて言うと
CRP(シーアールピー、C反応性タンパク)は、体のどこかで炎症が起きているときに血液中で増えるタンパク質です。風邪をひいたときにも一時的に上がりますし、慢性的な炎症が体の中でくすぶっているときにも高めに出ることがあります。健診で使われるhsCRP(高感度CRP)は、この数値をより細かく測る方法で、心臓や血管の状態を見る目安のひとつとして使われることがあります。
ただし、CRPが高いからといって、それだけで病気が確定するわけではありません。あくまで体の状態を知るための手がかりのひとつです。数値の意味と、ご自身がどう対応すべきかは、必ず主治医に確認してください。この記事は、その判断に代わるものではありません。

2,575人の男性を27.8年、追いかけた研究
紹介するのは、フィンランドのKIHDコホートという研究の一部です。KIHDは、フィンランド東部の中高年男性を長期間追跡している大規模な健康調査で、サウナと循環器の研究でたびたび引用されます。
この研究の対象者は2,575人、いずれも男性です。女性は含まれていません。ここは見過ごせない点で、この論文が示す結果は男性における観察であり、女性にそのまま当てはまるかどうかは、この研究だけでは分かりません。追跡期間の中央値は27.8年。四半世紀を超える年月です。その間に1,618件の死亡が記録されました。研究チームは対象者を、hsCRPの値(正常か高値か)とサウナの頻度(週2回以下の低頻度か、週3〜7回の高頻度か)で分けて、死亡リスクを比べています。
出典はKunutsor SK, Jae SY, Laukkanen JAの3氏による論文で、European Journal of Epidemiology誌に2022年に掲載されたものです(PMC9792415)。対象がフィンランド東部の中高年男性であることは、論文のタイトルにも明記されています。
数字が語ること――「見えなくなった」という表現
結果はこうです。hsCRPが正常(3mg/L以下)で、かつサウナが低頻度(週2回以下)の人を基準としたとき、hsCRPが高値(3mg/L超)でサウナも低頻度だった人の全死因死亡のハザード比(リスクの倍率のようなものです)は1.28(95%信頼区間1.12〜1.47)でした。基準の人たちより、死亡のリスクが統計的に高い、という意味です。
一方、hsCRPが高値であっても、サウナが高頻度(週3〜7回)だった人たちのハザード比は1.06(95%信頼区間0.81〜1.40)でした。信頼区間が1をまたいでいるため、統計的に有意な差ではなくなっています。論文はこの層別解析について、加法的(足し算的)・乗法的(掛け算的)の両方の意味で、CRPとサウナ頻度のあいだに交互作用があったと報告しています。
ここで注意が必要です。この研究は「サウナに入るとCRPが下がる」と示したものではありません。CRPの値とサウナの頻度という、二つの群分けの組み合わせごとに、死亡リスクがどう違って見えたかを比べた観察研究です。炎症の数値そのものが変化したかどうかは、この論文の範囲では確認されていません。

観察研究が言えること、言えないこと
この研究は、ある集団を長期間見守って記録した「観察研究」です。ランダムに二つの群に分けて介入する「ランダム化比較試験」とは違います。観察研究では、サウナに頻繁に入る人が、もともと体力があり生活習慣も整っている、といった別の要因が結果に影響している可能性を完全には排除できません。研究チームはさまざまな要因を統計的に調整していますが、それでも「サウナの頻度が死亡リスクを下げた」という因果関係を、この一本の論文だけで断定することはできません。
また、対象者はフィンランド東部の中高年男性のみで、女性は一人も含まれていません。加えて多くが中高年です。日本の、しかも岩手のような寒冷地に暮らす方々、あるいは女性の方に、そのまま当てはまるとは限りません。気候も住宅事情も、サウナに入る習慣そのものも違います。この点も踏まえて数字を読んでいただきたいと思います。

数値を見た日の、次の一手
健診の紙にCRPの数値が載っていて、それが基準より高かったとします。まずすることは、その結果を持って主治医に相談することです。これは研究の話とは別の、当たり前の順番です。この論文は治療の代わりにはなりませんし、サウナに入ることで数値が改善すると約束するものでもありません。
そのうえで、もし生活の中にサウナを取り入れる余裕があるなら、それは選択肢のひとつになり得る、という程度の受け止め方が、この研究に対して誠実な態度だと私は思います。週に1回か2回だった頻度を、無理のない範囲で少し増やしてみる。そのくらいの、静かな変化です。
薪の家で、四半世紀分の数字を思う
27.8年という追跡期間を、施工の現場で置き換えて考えてみます。私たちが建てたサウナ小屋の薪ストーブは、きちんと手入れをすれば、それくらいの年月は使い続けられます。煙突の掃除を毎年欠かさず、鋳物のドアを磨き、薪を割り続ける。その繰り返しの先に、この研究が追いかけたのと同じくらいの時間が横たわっています。
健診の数値も、サウナの習慣も、一年ごとの積み重ねでしか語れません。今日一回入ったからどうということではなく、何年も続けた先に見えてくるものがある。この研究の27.8年という数字は、そのことを静かに教えてくれます。

健診の数値も、薪ストーブの手入れも、一年ごとの積み重ねです。もしサウナのある暮らしにご興味があれば、岩手・盛岡のショールームで薪の火を見にいらしてください。数値の相談は、どうか主治医の方へ。
参照した研究
- Kunutsor SK, Jae SY, Laukkanen JA. "Inflammation, sauna bathing, and all-cause mortality in middle-aged and older Finnish men: a cohort study" (仮訳:炎症、サウナ入浴、フィンランド中高年男性における全死因死亡率:コホート研究). European Journal of Epidemiology, 2022;37(12):1225-1231. PMC9792415.
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



