「サウナは血圧を下げる」。そう聞いて来られる方が多いのですが、実測した研究を読むと、入っている最中の血圧は上がり続けています。入浴前より低い値になったのは、出た後でした。93℃・25分のサウナで健康な成人19人を測ったその研究は、加熱中の負荷は、およそ60〜100ワットの運動に相当すると見積もっています。岩手の冬、氷点下の外気浴と水風呂に向かう前に、この順番だけは知っておいてほしいと思います。
「下がるんですよね」と、ショールームで聞かれます
「サウナって、血圧が下がるんですよね」
ショールームで、そう聞かれることがあります。外は雪。薪ストーブの前でお茶を出して、世間話に近い調子で。
聞かれるのは、六十代、七十代の方が多いように思います。血圧の薬を長く飲んでいる、という方もいます。だからこそ、曖昧には答えたくないのです。
私はたいてい、少し遠回りな答え方をします。出た後の話としてなら、そういう報告があります。ただ、入っている最中はむしろ上がっていた、という研究もあるんです、と。
そう言うと、たいてい一瞬、間があきます。健康にいいと聞いて来た方ほど、そうなります。
けれど、ここを飛ばしたくないのです。売っている側だからこそ、順番の話を先にしておきたい。上がる時間があって、そのあとに下がる時間が来る。研究が測ったのは、その二つの時間帯でした。これを一つの言葉にまとめてしまうと、いちばん気をつけるべき場面がまるごと抜け落ちます。
雪かきに似ています。体にいいから雪かきをしましょう、とは誰も言いません。あれは負荷の高い作業とされていて、しかもその負荷が急にかかる。岩手でも冬になると、繰り返し注意が呼びかけられます。動いている最中と、終わって家に入ってからでは、体の中で起きていることが違う。サウナも、似た構造を持っているように見えます。
今日は、その「最中」を実測した研究の話です。専門の言葉が出てきますが、そのつど普段の言葉に置き換えながら進みます。出てくる数字はすべて、その研究が測った条件の中での話だという前提で読んでいただけたらと思います。

93℃・25分。加熱中は、上がり続けていた
Ketelhut S と Ketelhut RG が、Complementary Therapies in Medicine 誌の2019年、44巻218〜222ページに報告した研究があります。
対象は健康な成人19人。うち女性が7人。平均年齢は46.4±10.2歳、BMIは24.4±2 kg/m²でした。93℃・湿度13%のサウナ室に25分間入り、その後30分間、安静にして経過を測っています。
数字の書き方を少しほどきます。46.4±10.2歳の±は、ばらつきの幅です。四十代半ばを中心に、上下に十歳ほど散らばった集まりだった、と読めます。BMIは身長と体重から出す体格の目安です。
加熱中、収縮期血圧も拡張期血圧も、有意に、しかも進行性に上昇したと報告されています(P<0.01)。心拍数も上がり続けます(P<0.001)。収縮期血圧と心拍数を掛け合わせた値、心筋の酸素消費の目安とされる指標も、有意に上昇しました。
言葉を置き換えます。収縮期血圧は、心臓が縮んで血を送り出した瞬間の、高いほうの値。ふだん「上の血圧」と呼ぶものです。拡張期血圧は、心臓がゆるんでいるときの低いほうの値、「下の血圧」。「進行性に」とは、入っている間じゅうじわじわ上がり続け、途中で頭打ちにならなかったということです。掛け合わせた値のほうは、心臓自身がどれくらい働いているかの目安になります。
つまり、この25分のあいだ、体は休んでいなかった。座って汗をかいているだけに見えても、心臓の仕事は増えていた、ということになります。
著者は明確に書いています。急性のサウナ使用は、血圧を下げるのではなく上げる、と。
そして、サウナを出た後。血圧は下がり、入る前の値よりも有意に低い水準になったと報告されています(P<0.001)。
つまり、この研究の19人では、サウナを出た後に、入浴前より低い値になっていました。「下がる」という言い方そのものが間違いというわけではありません。ただ、それはこの条件で、出た後に測ったときの話です。
ここから誰にでも当てはまる結論を引き出せるわけではありませんし、この記事も、こうすれば血圧がどうなる、という話をするものではありません。それでも、入っている最中に何が起きていたかを測った記録として、読む値打ちがあると思っています。

「有意に上がった」とは、どういう意味でしょうか
ここで「有意に」とP<0.01の意味に触れておきます。
血圧も心拍も、測るたびに少しずつ違う数字が出ます。体調でも時間帯でも動きます。ですから前と後で数字が違っていても、たまたまのばらつきなのか、本当に変わったのかは、すぐには決められません。
そこで使うのがP値です。もし変化がなかったとしても、これくらいの差なら偶然で出てしまうかもしれない。その見込みを数字にしたものです。P<0.01は、その見込みが百回に一回より小さいという意味。偶然で片づけるには無理がある、という目安です。これを「有意」と呼びます。
気をつけたいのは、有意イコール大きい、ではないことです。有意は「偶然では説明しにくい」という意味であって、「変化が大きい」とも「体にとって重大だ」とも言っていません。
もう一つ。今回の二つは、どちらも人に実際に入ってもらい、前と後を測った実験です。大勢を長年追いかけて、よく入る人とそうでない人を比べる観察研究とは、種類が違います。しかも一回きりの入浴を見た「単回」の研究です。続けて入ったらどうなるかは、この二つからは分かりません。
そして93℃の研究の対象は、健康な成人19人。血圧の薬を飲んでいる方や、心臓に持病のある方を集めた研究ではありません。ご自身に当てはめるときは、この一行を思い出してください。
60〜100ワット。サウナ室は、静かな運動場に近い
同じ研究では、運動負荷試験と比べる形で、サウナ中の負荷の大きさを見積もっています。出てきた数字は、およそ60〜100ワットの動的運動に相当する、というものでした。
ワットは、仕事の勢いを表す単位です。電球で見かけるあのワットと同じで、大きいほど勢いが強い。運動負荷試験は、その場で漕ぐ自転車の形をした機械で、ペダルの重さを変えながら心臓や血圧の反応を測る検査です。
60〜100ワットは、自転車のペダルを軽く漕いでいるくらいの範囲です。息が上がるほどではない。けれど、座って本を読んでいる状態とは、まるで違います。
ここが、サウナ室のわかりにくいところだと思います。見た目には、ただ座っているだけ。動いていない。汗をかいているだけに見える。それなのに、体の中では軽い運動と同じくらいの仕事が進んでいた。静かな運動場のようなものです。
ひとつ注記を添えておきます。この60〜100ワットという数字は、自転車エルゴメータのような動的運動と比べたときの見積もりです。日常の作業を同じ物差しの上に並べた数字ではありません。
そのうえで、岩手の冬に置き換えてみます。雪かきを終えて、冷えた体を温めようとそのままサウナに入る。気持ちはよくわかります。でも除雪は、体への負荷が高い作業とされていて、しかもその負荷が急にかかります。何ワット相当かを比べた数字があるわけではありませんが、その直後に、もう一段、別の負荷を重ねることになるのは確かです。汗もかいて、体の水分も減っている。
薪も同じです。運ぶ、割る、積む。冬の薪仕事を終えたばかりの体は、まだ静まっていません。
順番を変えるだけで、だいぶ違います。雪かきの後は、まず座る。水を飲む。汗が引いてから入る。それだけのことです。
私は、この「まず座る」を守れるかどうかで、冬のサウナの安全はずいぶん変わってくると思っています。
もう一つの研究は73℃・93人。冷却期に、心拍が77から68へ
ここからは別の研究の話です。温度も人数も対象も違いますので、先ほどの93℃・19人の結果と混ぜないように読んでください。
同じ2019年、Complementary Therapies in Medicine 誌の45巻190〜197ページに、Laukkanen T らの報告が載っています。
対象は心血管の危険因子を持つ93人、平均52.0歳。73℃で30分の単回サウナです。先ほどの研究より設定温度が20℃低く、時間は5分長い条件になります。危険因子とは、心臓や血管の病気に結びつきやすい条件のこと。先ほどの「健康な成人」とは、集まっている人が違います。
こちらで目立ったのは、冷却期の変化でした。サウナを出て、体が冷めていく時間帯に、自律神経のバランスが副交感神経の側へ傾いたと報告されています。安静時の心拍数は、入浴前の1分あたり77から、回復後には68へ下がりました。これは心拍の話であって、先ほどの血圧の話とは別の研究、別の指標です。
自律神経は、自分の意思とは関係なく心臓や血管を調節している神経です。アクセル役の交感神経と、ブレーキ役の副交感神経があり、副交感神経の側へ傾いたとは、ブレーキ役が優勢になったということ。77から68へ、1分あたり9回ぶん減ったのも、その流れの中の数字です。
日本で「ととのう」と呼ばれている感覚は、たぶんこの時間帯に重なっているのだろう、と私は思っています。ただし、ここから先は私の推測です。この研究が測ったのは心拍や自律神経の指標であって、「ととのう」という主観的な感覚そのものを測ったわけではありません。熱の中ではなく、熱から出た後。椅子に腰かけて、まだ湯気の立つ肩を風が撫でていく、あの数分。研究の数字と私の実感が、たまたま同じ時間帯を指しているように見える、というだけの話です。
ここでも同じ注意が要ります。93人の単回の実験で、因果関係を示すものではありません。誰にでも同じ変化が起きるとも限りません。
それでも、設計する側としては大事な示唆があります。サウナ室と同じくらい、出た後に座る場所が要る、ということです。ベンチひとつ、椅子ひとつ。その置き場所が、体験を大きく左右します。
実際、外気浴の椅子をどこに置くかで、その家のサウナの使われ方は変わります。雪の吹き込まない軒下か、風の抜ける庭先か。図面の段階で決めておきたいところです。

氷点下の外気浴と、水風呂の入り口
岩手の冬は、外気浴に向いています。盛岡の1月は、平年で見ると日最低気温がおおむね氷点下5〜6℃台。そこからさらに冷え込む厳寒期には、氷点下10℃を下回る朝もあります。熱くなった体には、この冷たさが心地よい。
朝いちばん、玄関を開けたときの冷気を思い出してみてください。あれが、サウナから出たばかりの体に当たります。気持ちがいいことと、体に負荷がかかることは、同時に成り立ちます。
ただ、ここまでの順番で考えると、注意すべき場面がはっきりします。先ほどの研究の測り方でいえば、サウナから出た直後は、血圧も心拍も上がりきったところです。その状態のまま氷点下の屋外へ出る。雪に倒れ込む。水風呂に頭から沈む。どれも、急な変化を体に重ねる行為です。
だからD'STYLEでは、家庭用サウナを設計するときにいくつかの決まりごとを置いています。ベンチから床へ降りる段差を小さくすること。立ち上がる位置に手すりを付けること。中で人が倒れたときにも扉が開けられる向きにすること。脱衣スペースを暖めておくこと。飲み物を、座ったまま手が届く高さに置けるようにすること。そして、ひとりでは入らない運用にすること。
どれも、出た直後の足元を思ってのことです。熱い部屋から冷たい床へ、暗がりから雪明かりの外へ。その移動のあいだに、つかまるものが手の届く場所にあるか。
これらは、研究が効果を検証した仕様という意味ではありません。火と熱を扱ってきた現場の経験から、私たちが自分たちで決めている作り方です。
フィンランドで研修を受けたとき、現地の水風呂の入り口をよく見ました。飛び込むための場所ではなく、手すりのついた段をゆっくり降りていく形が多かった。急がない作りになっていた、という印象が残っています。
飲酒後は入らないこと。水分は先に。持病のある方、薬を飲んでいる方は、まず主治医にご相談ください。

93℃と73℃。温度を自分で決められるということ
今回の二つの研究を並べると、気づくことがあります。血圧と心拍が上がり続けた実験は93℃・湿度13%で25分。心拍が77から68へ下がった実験は73℃で30分。同じ「サウナ」という言葉で呼ばれていますが、部屋の設定温度は20℃違います。別々の研究の数字を並べて読むときは、まずこの条件の差を見ておきたいところです。
20℃の差は、想像するより大きなものです。同じ言葉で呼んでいても、肌に届く熱は別物になります。
私たちが見てきた範囲では、日本の施設サウナは高温側に寄っていることが多いように思います。90℃を超える部屋で、12分計の針をにらみながら我慢する。あの入り方しか知らないと、サウナとは熱さに耐えるものだと思い込んでしまいます。
家に置くサウナのいちばんの違いは、温度を自分で決められることだと思っています。今日は疲れているから低めにする。ふたりで入るから少し下げる。翌朝が早いから短めにする。設定を変えられるということは、体にかける負荷の大きさを、自分で選べるということです。
そして、家のサウナには移動時間がありません。せっかく来たのだから、と無理をして長く入る理由が、そもそも要らない。明日また入ればいい。
雪の多い土地ほど、この「明日また」が効いてきます。除雪で疲れた日は、低めに、短く。風のない晴れた日は、外気浴を少し長めに取る。冬は長いのですから、一日で使い切る必要はありません。

D'STYLEは岩手・盛岡で、薪ストーブとサウナの設計・施工をしています。代表の橋本大治は三代続く火の家系で、英国RODTECH社認定の煙突掃除インストラクターです。火と熱を長く扱ってきたので、熱は気持ちよさである前に、扱いを誤れば危ないものだという感覚が体に残っています。
サウナも同じです。ですから私たちは、温度や仕上げの話より先に、段差と手すりと扉の向きの話をします。自社ブランドのサウナ室KUUTAでも、そこは変えません。
血圧に気がかりのある方は、どうか先に主治医へ。そのうえで、岩手の冬に合う入り方を一緒に考えられたらと思います。設置のご相談は、いつでもどうぞ。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Ketelhut S, Ketelhut RG. Complementary Therapies in Medicine. 2019;44:218-222.(健康な成人19人、うち女性7人、46.4±10.2歳、BMI 24.4±2 kg/m²。93℃・湿度13%・25分の単回サウナ、その後30分安静。加熱中に収縮期・拡張期血圧および心拍が進行性に上昇、出た後にベースラインより有意に低下。運動負荷試験との比較で、サウナ中の負荷は約60〜100ワットの動的運動に相当すると見積もり)
- Laukkanen T ほか. Complementary Therapies in Medicine. 2019;45:190-197.(心血管危険因子を持つ93人、平均52.0歳、73℃・30分の単回サウナ。冷却期に副交感神経優位へ傾き、安静時心拍が入浴前77/分から回復後68/分へ低下。上記とは別の研究・別の条件・別の指標)
- 気象庁 過去の気象データ 平年値(盛岡)。本文の1月の日最低気温はこのデータを参照。掲載前に最新の平年値をご確認ください
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



