岩手県一関市には、名勝が二つあります。ひとつは砂鉄川の猊鼻渓、もうひとつが、磐井川がつくる厳美渓(げんびけい)です。おなじ市内にありながら、静かな猊鼻渓とは対照的に、厳美渓は水の力の荒々しさで人を惹きつけます。栗駒山を源とする磐井川が、火山岩を荒々しく削り、奇岩と甌穴(おうけつ)の連なる渓谷を生みました。1927年に国の名勝天然記念物に指定されています。白い岩を打つ急流の音は、遠くからでも腹に響いてきます。今日はこの荒々しい渓谷と、火と湯気の話をします。
水が石に、穴をあける
厳美渓の見どころは、荒々しく削られた岩肌と、岩に丸くうがたれた甌穴です。甌穴は、川の流れが小石を岩のくぼみで回転させ、長い年月をかけて石をすり減らして作る、まるい穴です。柔らかそうに見える水が、硬い岩に穴をあける。急流が白いしぶきを上げて岩を打つさまは迫力にあふれ、上流の穏やかな淵とのちがいに驚かされます。およそ二キロにわたって、荒と静が交互にあらわれる、変化に富んだ渓谷です。
空を飛ぶ、だんご
厳美渓の名物に、「空飛ぶだんご」があります。渓谷をはさんだ対岸のだんご屋から、頭上に張られたロープを使って、かごに乗せられただんごとお茶がすうっと運ばれてくる仕掛けです。注文の合図に板を木づちで打つと、かごが降りてきて、お金を入れると、しばらくしてだんごが空を渡ってやってくる。郭公(かっこう)だんごと呼ばれ、蒸したての柔らかいだんごを、渓谷を眺めながら味わえます。名物と絶景をいちどに楽しめる趣向です。かごが谷をすうっと渡っていくあいだの、待つひとときそのものも楽しく、子どもから大人まで思わず笑みがこぼれます。渓谷の音と、蒸したてのだんごの甘さが、旅の記憶に深く残ります。
政宗も、愛した眺め
厳美渓は古くから景勝地として知られ、仙台藩主の伊達政宗も、この渓谷を愛したと伝えられます。江戸時代には、藩の役人が眺めを楽しんだ記録も残ります。荒々しい岩と、青く澄んだ淵と、白いしぶき。その取り合わせは、時代を越えて人の心をとらえてきました。四季それぞれに姿を変え、春の新緑、夏の涼、秋の紅葉、冬の雪景色と、いつ訪れても違う顔を見せてくれます。何度でも通いたくなる渓谷です。
湯気の立つ、だんごの温かさ
蒸したてのだんごから立つ湯気は、寒い季節にはことさらありがたいものです。渓谷の冷たい風の中で、温かいだんごとお茶が体をほぐす。この、冷たさの中の一点の温かさは、サウナのあとの水風呂と、そのあとの外気浴の心地よさに通じます。冷えと温もりを行き来するほど、温もりは深く感じられる。厳美の渓谷は、その心地よさを、だんごの湯気で教えてくれます。
火の山が、砕いた岩
厳美渓の荒々しい岩は、大昔の火山の活動が生んだものです。源となる栗駒山は、今も地の底に火をたたえた活きた火山で、その火の力がつくった硬い岩を、磐井川の水が長い時間をかけて削り続けてきました。火が積み上げた岩を、水が刻んでいく。この二つの力のせめぎあいが、荒と静の入りまじる、変化に富んだ渓谷を作りあげたのです。栗駒山のふもとには温泉もわき、地の底の火は、湯というかたちでも人をあたためてくれます。岩を砕く火と、体をほぐす湯。厳美の谷には、火のちがう顔が、いくつも重なっています。
火と蒸気の暮らしを、盛岡から
荒々しい水の力に見とれ、蒸したてのだんごで体を温める。水と火と蒸気の心地よさは、家の中にも作れます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターや薪ストーブで、火と蒸気のある暮らしをご提案しています。一関の渓谷めぐりの話も、店でどうぞ。
写真: Ninaraas (Wikimedia Commons, CC BY 4.0)



