北東北・秋田編、今日は花の話です。角館。秋田県仙北市にある、みちのくの小京都と呼ばれる城下町です。黒塀の武家屋敷が続く通りに、しだれ桜が薄紅の滝のように枝を垂らす。春の角館は、日本でも指折りの桜の名所です。今日は、この町の桜と、黒塀の内側の火の暮らしの話をします。
みちのくの小京都という町
角館の町がかたちづくられたのは、元和六年、西暦一六二〇年のことです。芦名義勝がこの地に町を造り、のちに佐竹北家が治めました。武士が暮らす内町と、商人が暮らす外町を分けた造りが今も残り、黒板塀と重厚な門構えの武家屋敷が、通りに沿って静かに並びます。碁盤の目の町割り、格式のある屋敷の構え、その端正なたたずまいから、みちのくの小京都と呼ばれるようになりました。四百年前の城下町の姿を、これほど色濃く残す町は多くありません。歩くだけで、時代がひとつさかのぼるような静けさに包まれます。冬には黒塀に雪が積もり、夏には木々が濃い影を落とす。四季それぞれに趣がありますが、やはり桜の季節の華やぎは格別です。
京都から嫁いできた、しだれ桜
角館のしだれ桜は、およそ三百五十年前、京都から嫁入り道具とともに持ち込まれたと伝わります。佐竹北家に京から嫁いだ姫が、故郷の桜の苗を携えてきた。それが根づき、代を重ねて、今の名木の並木になったという物語です。武家屋敷通りには約四百本のしだれ桜があり、そのうち多くが国の天然記念物に指定されています。黒い板塀の上から、薄紅の枝がしだれかかる。武家屋敷の重厚な黒と、桜のやわらかな紅。この対比こそが、角館の春のいちばんの見どころです。満開のころには、通り全体が薄紅の天蓋におおわれ、風が吹くたびに花びらが黒塀の上へ舞い散ります。夜になると桜はやわらかく照らし出され、昼とはまた違う、幽玄の趣を漂わせます。
桧木内川の、桜のトンネル
町を流れる桧木内川の堤には、もうひとつの桜があります。ソメイヨシノの並木です。こちらは昭和九年、皇太子誕生を記念して植えられたもので、約二キロにわたって桜のトンネルが続きます。武家屋敷のしだれ桜が「静」の美しさなら、桧木内川堤のソメイヨシノは「動」の華やかさ。川風に花びらが舞い、水面を流れていく花筏は、春のひとときだけの絶景です。しだれ桜と染井吉野、二種類の桜を一日で楽しめるのも、角館ならではのぜいたくです。桜のトンネルの下を歩けば、頭上いっぱいに花が広がり、まるで薄紅の川の中を進んでいくようです。
黒塀の内側の、火の暮らし
桜に目を奪われますが、黒塀の内側の暮らしにも目を向けてみます。角館の武家屋敷は、雪深い秋田の冬を越すための家でもありました。座敷の奥には囲炉裏が切られ、火が家族を温め、煮炊きをし、家の芯を守ってきました。桜が咲くのは、その長い冬を耐え抜いたあとのことです。氷点下の日々に火を絶やさず、雪をかぶった枝がじっと春を待ち、雪解けとともに一気に花開く。角館の桜の華やかさの裏には、火で越した冬の重みが、たしかにあるのです。厳しい冬を火とともに耐え抜いた家々が、春の花を心待ちにしてきました。その長い我慢の積み重ねが、この町の桜を、いっそう美しく見せているように思います。
花の季節と、火の季節
桜の季節と火の季節は、一年の裏表です。春に花を楽しみ、冬に火のそばで暖をとる。どちらも、この北国の暮らしの大切な楽しみです。岩手・盛岡のD'STYLEは、その火の季節を支える薪ストーブとサウナの店です。春は角館へ花を見に、冬はわが家の火のそばへ。北国の一年を味わい尽くす暮らしを、店でご相談ください。
写真: 掬茶 (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



