フィンランドのデザインは、世界中で愛されています。飾り立てるためではなく、暮らしを支えるための美しさ。長く暗い冬を室内で過ごすこの国では、日々手に触れる道具や、目に入る家具の心地よさが、暮らしの質を大きく左右してきました。だからこそ、ものづくりには自然と力が注がれたのです。その根っこには、「用と美は一つである」という思想があります。今回は、北欧デザインの心を築いた人々と、その考え方の話です。
アルヴァ・アアルトという巨人
フィンランドデザインを語るとき、建築家アルヴァ・アアルトの名は欠かせません。1898年に生まれた彼は、建築から家具、照明、ガラス器まで、暮らしのあらゆる場面をデザインしました。療養者のために設計したパイミオのサナトリウムは、光や音、寝たままの目線までを考え抜いた建築として名高い一作です。冷たい機能主義が世界を席巻した時代に、彼は白樺という土地の素材と、人の体になじむやわらかな曲線を持ち込みました。機能の中に、人間の温もりを取り戻したのです。
1935年、アルテックの創業
1935年、アアルトは妻アイノや仲間とともに、家具ブランドのアルテックを立ち上げました。曲げた白樺の合板でつくられた三本脚の「スツール60」は、簡素で丈夫で、積み重ねもでき、驚くほど長く使えます。生まれてから九十年余りを経た今も作られ続けている、まれな椅子です。流行を追わず、必要な形だけを残す。そうしてつくられた家具は、古びることなく世界中の暮らしに寄り添っています。名作とは、飽きのこない道具のことなのです。
サヴォイベースの、自由な曲線
1936年、アアルトは波打つような輪郭を持つガラスの花器を発表しました。後にサヴォイベースと呼ばれるこの器は、ヘルシンキの名店サヴォイのために生まれ、湖の岸辺の形からの着想だといわれます。決まった正面を持たず、どの向きから見ても表情が変わります。直線と円だけでは表せない、自然のやわらかな曲線。フィンランドのデザインは、自然の形をよく見つめ、そこから学ぶことを大切にしてきました。人工の物の中に、自然の呼吸を宿らせるのです。
用の美という、暮らしの哲学
フィンランドデザインの核心は、特別な芸術品をつくることではありません。毎日使う椅子や器や布を、少しでも良いものにすること。暮らしの道具を美しくすることは、より良い社会をつくることでもある。アアルトたちは、そう信じていました。よく機能し、長く使え、見て美しい。この三つがそろってはじめて、良いデザインと呼ばれます。派手さより誠実さ、装飾より本質。そうした価値観が、この国のものづくりを、静かに支えてきました。
自然素材への、深い信頼
白樺、ガラス、陶器、羊毛。フィンランドのデザイナーたちは、土地に根ざした自然の素材を、繰り返し選んできました。ガラスのイッタラや、大胆な花柄で知られる布のマリメッコ、暮らしの器を手がけたカイ・フランクなど、この国には実直なつくり手が数多くいます。素材そのものの美しさを生かし、余計な飾りを削ぎ落とす。この姿勢は、長く暗い冬を持つ国で、限られたものを大切に使い抜いてきた暮らしの知恵と、深くつながっています。ものを長く愛す文化が、数々の名品を育てたのです。
道具として、火を選ぶ
よく機能し、長く使え、静かに美しい。この北欧の道具観は、サウナの火を選ぶときにも通じます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターという実直な道具で、暮らしに寄り添う火の時間をお手伝いしています。北欧のデザインや暮らしの話も、店でどうぞ。
写真: Kospo75 (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



