北東北・秋田編の第二回は、冬の食卓の大物、きりたんぽです。炊いた米をつぶして杉の棒に巻きつけ、炭火で焼く。その「たんぽ」を切って、鍋に入れる。米どころが生んだ、米を焼くという発明の話です。

たんぽは、囲炉裏が生んだ携帯食
きりたんぽの原型は、秋田県北部、大館・鹿角地方のマタギや山仕事の人々の携帯食と言われます。残り飯をつぶして棒に巻き、囲炉裏や焚き火で焼いて味噌をつけて食べた「たんぽ餅」。焼くことで香ばしく、日持ちも良くなる。山の男たちの実用食が、比内地鶏のだしの鍋と出会って、郷土の傑作料理に育ちました。「たんぽ」の名は、稽古用の槍の先につける丸い覆い「たんぽ」に形が似ていることに由来すると伝わります。米と火の国の歴史がそのまま食べ物になったような一品です(南部せんべいの物語こちらと、いい兄弟です)。
鍋の構成は、名脇役の博覧会
きりたんぽ鍋の構成は、決まっています。主役のたんぽ、だしの比内地鶏、ごぼう、舞茸、ねぎ、しらたき、そして最後に、根っこ付きのせり。比内地鶏の濃いだしを、焼き米のたんぽが吸いに吸う。あの、外は煮えてとろり、中に香ばしさの残る食感は、雑炊ともおじやとも違う、焼いた米だけの世界です。せりを根ごと食べるのが秋田流。土の香りとほろ苦さ、しゃきしゃきの歯ざわりが、鍋の最後を引き締めます。ささがきごぼうと舞茸の香りも、この鍋には欠かせません。
比内地鶏という、だしの主(ぬし)
この鍋の格を決めるのが、比内地鶏です。名古屋コーチン、薩摩地鶏と並ぶ日本三大地鶏の一つで、秋田県北部の在来種「比内鶏」をもとに改良された食用鶏。よく動いて育つため肉は締まり、脂は上品で、煮出すと深く濃いだしが出ます。もとになった比内鶏は、藩政期に贈答や献上に用いられたほど珍重された鶏でした。その一羽が生む黄金色のだしあってこそ、たんぽの焼き米が生きる。きりたんぽ鍋は、秋田の米と鶏という、土地の二大主役の共演なのです。
薪ストーブの家の、きりたんぽの夜
この鍋、薪ストーブの家と相性は言うまでもありません。たんぽは市販品でも十分ですが、余裕があれば自作を。炊きたての米(火で炊く飯の話)を半つぶしにして棒に巻き、熾火の近くでこんがり焼く。焼きの工程こそ、この料理の火の見せ場です。鍋は天板でことこと、締めのせりは食卓で。雪の夜のきりたんぽは、北東北に生まれた幸福の味がします。サ飯としても、だし・塩分・米・タンパク質の揃った優等生です(自炊サ飯の設計そのままです)。
だまこ餅という、姉妹の存在
きりたんぽに、よく似た姉妹がいます。だまこ餅です。秋田県の中央から南でよく作られる、つぶした米を丸めて団子にしたもの。棒に巻いて焼くたんぽに対し、だまこは手のひらで丸めるだけ。焼かずにそのまま鍋へ入れる家庭も多く、より手軽な普段着の郷土食です。同じ比内地鶏のだしで、たんぽを使えばきりたんぽ鍋、だまこを使えばだまこ鍋。焼いた香ばしさを取るか、手軽さを取るか。秋田の家庭では、その日の気分で選びます。米を鍋の具にするという発想は同じでも、暮らしの中で少しずつ形を変えて根づいている。郷土料理の奥行きは、こうした身近な変奏の中にこそあります。同じ米の国の岩手にも、通じる知恵です。
お隣の傑作に、敬意を込めて
盛岡の三大麺(こちら)を自慢する私たちですが、隣県の傑作には素直に頭が下がります。北東北の冬の食卓は、互いに行き来してこそ豊かです。岩手・盛岡のD'STYLEは、鍋のうまい火の暮らしをお手伝いしています。今夜はきりたんぽ、という日のご相談も(ありませんか)、いつでもどうぞ。
写真: allen watkin from London, UK (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)



