フィンランドの森を歩くと、白い幹の木がどこまでも続いています。白樺です。この木は、暮らしにさまざまな恵みを与えてきましたが、中でも樹皮は、古くから民具の材料として重宝されてきました。今回は、白樺の皮でつくる、フィンランドの手仕事の話です。
トゥオヒと呼ばれる、素材
白樺の樹皮は、フィンランド語でトゥオヒと呼ばれます。薄くしなやかで、水をはじく性質を持ち、丈夫で軽い。この優れた素材を、北の人々は暮らしの道具に変えてきました。森から少しだけ皮をいただき、手で編み、縫い、形をつくる。薄い層が幾重にも重なった樹皮は断熱にもすぐれ、しっとりと湿った森の中でも中のものを乾いたまま保ちます。天然の防腐の力があるとされ、昔は食べものを包んで持ち歩くのにも役立ちました。トゥオヒの手仕事は、自然の恵みを無駄なく使い抜く、北の暮らしの知恵の結晶といえます。
かごから靴まで、暮らしの道具
トゥオヒからは、実にさまざまな道具がつくられました。木の実やきのこを集めるかご、背中に負う大きな背負いかご、塩や食べ物を入れる小さな容器。さらには、樹皮を編んだ靴までありました。水をはじくトゥオヒは、湿った森や雪の中でも役立つ、頼もしい材料だったのです。ナイフの鞘や、コンティと呼ばれる背負いかごも、トゥオヒの名品として知られています。ひとつの木から、暮らしのほとんどの道具がまかなえました。
初夏だけの、採取の季節
トゥオヒを採るのには、季節があります。木が水を勢いよく吸い上げる初夏の一時期、樹皮は幹からきれいに剥がれます。採取に適するのは、ちょうど夏至のころのわずかな期間だけ。木の水の勢いがもっとも強いこの時季を逃すと、翌年まで待つことになります。採るときも、木を枯らさないよう、外側の皮だけをていねいにいただきます。自然のリズムを読み、木を痛めずに恵みを受け取る。そこには、森と長く付き合っていくための、深い配慮があります。
編み目に宿る、時間と技
トゥオヒの道具は、細く裂いた樹皮を、斜めに交差させて編み上げていきます。規則正しく編まれた目は美しく、丈夫で、長く使えます。祖父母から孫へと、編み方が受け継がれてきた家も少なくありません。一針一針、一目一目に、つくり手の時間と技が宿ります。接着剤も釘も使わず、樹皮のしなりと編みの力だけで形を保つのが、この手仕事の見事なところです。ひとつのかごを編み上げるには、幾日もの根気のいる時間がかかります。急がず、ていねいに手を動かす。その営みそのものが、北の暮らしの豊かさでした。
香りと手ざわりの、温もり
トゥオヒの道具は、使い込むほどに味わいを深めます。木の香りがほのかに立ち、手になじむ樹皮の感触は、温かく優しい。人工の材料にはない、生きた素材ならではの温もりです。使い込むうちに樹皮はあめ色へと深まり、いっそう艶やかな表情を見せます。年月とともに美しくなる道具はそう多くありません。だからこそトゥオヒの品は世代を越えて使い継がれ、家族の記憶とともに時を重ねていくのです。フィンランドでは今も、この伝統的な手仕事が受け継がれ、暮らしに彩りを添えています。自然の素材を愛でる心が、道具を通して静かに息づいているのです。
白樺とともにある、暮らし
白樺は、樹皮も枝も、フィンランドの暮らしを支えてきました。その枝葉を束ねたヴィヒタでサウナを楽しむのも、同じ木の恵みです。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、白樺の香りとともにある北欧の暮らしをお手伝いしています。森の手仕事の話も、店でどうぞ。
写真: Ximonic (Simo Räsänen) (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



