ヴィヒタで体を叩き、香りで癒やしてくれる白樺(こちら)。フィンランドでは、この木がもうひとつ、春だけの贈り物をくれます。樹液です。雪が解けはじめる短い季節、白樺の幹に穴を開けると、透明でほんのり甘い水がぽたぽたと落ちてくる。コイヴンマハラと呼ばれるこの樹液は、北欧の春の風物詩です。今日は、森からの季節限定の水の話。
雪解けの、数週間だけの水
白樺の樹液が採れるのは、雪解けの始まる早春、およそ三月から四月の数週間だけです。長い冬を終えた木が、芽吹きにそなえて根から水を吸い上げ始める、そのタイミング。幹に小さな穴を開けて管を差すと、上へ向かう樹液がしたたり落ちます。一本の木から一日で数リットル採れることもありますが、季節が進んで葉が開くと、水はぴたりと止まる。まさに一年でこの数週間だけの、はかない恵みです。採ったあとの穴は、木が自分でふさぐので、無理をしなければ木を痛めません。自然のリズムに合わせて、少しだけ分けてもらう。自然享受権(こちら)の国らしい、つつましい採り方です。
ほのかに甘い、森のミネラルウォーター
白樺の樹液は、見た目はほとんど水と変わりません。飲むと、ほんのり甘く、かすかに木の香りがする。砂糖のような甘さではなく、遠くにやさしい甘みを感じる程度です。ミネラルを含み、体にすっとしみ込む口当たりから、フィンランドでは古くから春の滋養として親しまれてきました。そのまま飲むほか、発酵させて微炭酸の飲みものにしたり、煮詰めてシロップにしたり。カナダのメープルシロップが楓の樹液から作られるように、白樺のシロップも作れます。春先のフィンランドのスーパーには、瓶詰めのコイヴンマハラが並びます。
サウナのあとの一杯に
この樹液、サウナととても相性がいいのです。サウナで汗をかいたあとの体は、水分とミネラルを求めています(水分の話)。そこへ、森が育てたほのかに甘いミネラルの水。冷やしたコイヴンマハラをサウナ上がりに飲むのは、春のフィンランドの小さなぜいたくです。市販のスポーツドリンクもいいけれど、季節の森の水で体を潤す感覚は、また格別。サウナと森が、春という季節でひとつにつながる瞬間です。
岩手の白樺とも、仲良くなれる
岩手の高原にも、白樺はたくさん生えています。八幡平や岩手山(こちら)の裾野の白樺林は、見ているだけでも心が晴れます。ただし、日本では山にも所有者がいますから、樹液を採るには土地の許可がいります。勝手に幹に穴を開けることはできません。それでも、春の白樺林を歩き、芽吹く前の木々が水を吸い上げる気配を感じる。そんな森歩き(森林浴の話)だけでも、北欧の春の気分は十分に味わえます。帰って、白樺の香りのサウナで仕上げれば、言うことなしです。
採らせてもらう、という作法
樹液を分けてもらうとき、フィンランドの人は木への礼儀を忘れません。開ける穴はひとつの木に一つだけ、細く小さく。採る量もほどほどにして、木を弱らせない。採り終えたら穴を清潔にふさぎ、木が自分で治すのを待つ。恵みをいただくかわりに、木の命を大切にする。この「採らせてもらう」という謙虚な構えは、自然享受権(こちら)を支える責任感そのものです。薪をくれる森、蒸気をくれる水、そして水をくれる木。自然の恵みで成り立つ暮らしは、恵みへの感謝とセットでこそ、長く続きます。白樺の樹液を一杯飲むたびに、森に生かされていることを思い出す。それも、この一杯の値打ちのうちです。
森と春を感じる暮らしを、盛岡から
季節の恵みを少しだけ分けてもらい、火と蒸気で仕上げる。この北欧の暮らし方は、四季のはっきりした岩手にとても似合います。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、季節を感じる暮らしの「火と蒸気」をお手伝いしています。春の森の話も、店でどうぞ。
写真: Erkki Voutilainen (Wikimedia Commons, CC BY 4.0)



