盛岡の冬、サウナ小屋の試運転に立ち会うと、必ず聞かれることがあります。何セット入ればいいですか、と。長いあいだ「お好きなように」と答えてきましたが、セットの数と時間を決めて血液を測った研究が出てきました。九十度で十二分を四回、間に十度台の冷水浴を一分。男性三十人の測定です。下がった数字と、動かなかった数字。その三十人が誰だったのか。そして岩手の家で同じことをやろうとすると、どこで詰まるのか。順番に書いていきます。
「何セット入ればいいですか」と、雪の夜に聞かれる
盛岡の一月は、日が落ちるのが早い。四時にはもう薄暗くなって、道路脇に寄せた雪の山が青く見えはじめます。
その時間に、お客様のお宅でサウナ小屋の試運転をしていることがあります。煙突から煙が立ち、それがまっすぐ縦に伸びていく晩は、たいてい底冷えする夜です。
火が回って、室内の温度計が上がってくるのを二人で眺めながら、決まって同じことを聞かれます。
何セット入ればいいですか。何分がいいですか。
正直に申し上げると、私たちは長いあいだ「お好きなように」と答えてきました。体が違えば、ちょうどよさも違う。無理をしないのがいちばん、と。今でもその考えは変わっていません。
ただ、ここ数年で、セットの数と時間をあらかじめ決めておいて、そのつど採血をした研究がいくつか出てきました。「ととのう」という言葉が先に広まって、数字はずっと後から追いかけてくる。そういう順番でここまで来たわけですが、ようやく測ったものが少しずつ出てきた、という感じです。
今回はそのうちの一つを紹介します。男性三十人が、九十度のサウナに十二分ずつ、四回入る。そのあいだに冷水浴を挟み、血中のホルモンを測った研究です。
先に申し上げておきます。この研究は、あなたにとっての正解を教えてくれるものではありません。三十人という人数も、その三十人が誰だったかも、読み方を大きく左右します。それでも、条件を決めて測った数字を一度きちんと見ておくと、自分の入り方を考えるときの手がかりにはなります。

九十〜九十一度で十二分。それを、四回
研究の条件から書きます。ここを飛ばすと、後の数字が独り歩きしてしまいます。
対象は、十九歳から二十六歳の男性三十人。サウナ室の温度は九十度から九十一度、湿度は十四から十六パーセントです。ここに十二分入り、出て六分休む。その休憩のあいだに、十度から十一度の冷水浴を一分。これを四回繰り返しました。
報告したのはポーランドのワルミア・マズーリ大学のPodstawski Rらの研究グループで、二〇二一年のAmerican Journal of Men's Healthに掲載されています。
ここで、時間の内訳を先に整理しておきます。サウナ室にいた時間は、十二分が四回で四十八分。休憩は六分が四回で二十四分。この二つを足して、七十二分です。論文が七十二分と書いているのは、サウナ室と休憩を合わせた手順全体の長さのことで、サウナ室に七十二分こもり続けたわけではありません。
細かいようですが、四十八分と七十二分では、体にかかる負担も、用意する薪の量も、別の話になります。紹介する側が一度足し算を取り違えると、その数字だけが独りで歩き出す。ここは丁寧に置いておきます。
それから、入った時刻も条件のひとつでした。参加者は全員、午前八時から十時のあいだにサウナへ入っています。この一行が、あとの章で効いてきます。
ここでひとつ、読み違えやすい点を先に断っておきます。
十二分、四セット、休憩六分、冷水一分。これらの数字は、研究者があらかじめ決めた実験の条件です。いろいろな時間を試して「十二分がいちばん良かった」と見つけたわけではありません。四セットについても同じです。
条件として置かれた数字と、結果として出てきた数字は、性質がまったく違います。前者は設計図に書かれた寸法で、後者は現場で実際に当てた巻尺の値です。設計図の寸法を「測ったらこうでした」と言ってしまうと、話がすり替わります。
サウナの記事では、この二つがよく混ざります。「研究が十二分を推奨」といった見出しを見かけたら、それは条件を結論に読み替えている可能性が高い、と思っておいてください。
ですからこの記事でも、十二分と四セットは「そういう条件で測った」という意味以上には使いません。

コルチゾールという言葉を、台所の言葉に直す
測られたホルモンのひとつが、コルチゾールです。
腎臓の上に載っている副腎という小さな臓器から出るホルモンで、一般に「ストレスホルモン」と紹介されることがあります。ただ、この呼び方はやや乱暴です。
コルチゾールは、朝、体を起こして一日を始めるためにも要るものですし、一日のなかで濃さが上下します。教科書的には、目が覚めてしばらくのところで山をつくり、そこから夜にかけて下がっていく。そういう動き方をするものです。
ですから「コルチゾールが下がった」という一文を読むときは、二つのことを同時に考える必要があります。ひとつは、何かの刺激に対して下がったのか。もうひとつは、単に時間が経ったから下がったのか。
朝いちばんに測った値と、昼過ぎに測った値を並べれば、何もしなくても下がって見えることがあります。薪ストーブの炉内温度を、焚きつけ直後と三時間後で比べるようなものです。比べる時刻を揃えないと、そもそも比較になりません。
では、この研究はどうしていたか。論文にはっきり書いてあります。参加者は全員、同じ時間帯にサウナへ入りました。午前八時から十時のあいだです。場所も期間も揃えたうえで、日内変動の影響を小さくするため、と理由まで添えられています。
条件を揃えたこと自体は、丁寧な仕事です。ただし、揃うのは人と人のあいだのばらつきであって、その朝のうちに起きる下がり方そのものが消えるわけではありません。コルチゾールは、起き抜けの山からあと、午前中にかけて、一日のなかでいちばん急な角度で下りていきます。午前八時から十時というのは、ちょうどその坂の途中にあたります。
そこへ七十二分の手順が重なる。始まりと終わりで採った血を比べれば、坂を下った分と、サウナで動いた分が、同じひとつの差のなかに混ざって出てきます。次の章の数字を読むときは、この坂を頭の隅に置いておいてください。

十三・六一が、九・六七へ
結果です。
血清コルチゾールは、13.61から9.67へ有意に低下したと報告されています。単位は論文の表記のまま、µg/mlと記されています。p値は0.001未満でした。
p値という言葉が出たので、その場で噛み砕きます。p値は「本当は差がないのに、たまたまこれくらいの差が出てしまう確率」のことです。0.001未満というのは、そのたまたまが千回に一回も起きないくらい珍しい、という意味になります。
ここで大事なのは、p値が小さいことは「差がありそうだ」ということを示すのであって、「差が大きい」とか「体にとって重要である」ということまでは示さない、という点です。ものさしの目盛りが細かいことと、測ったものが大きいことは、別の話です。
そしてもうひとつ。この研究は、同じ三十人の前と後を比べたものです。サウナに入らない集団を、同じ時間だけ並べて追う、という作りにはなっていません。論文自身も、限界のひとつとして、サウナの習慣がない男性の参照群を用意できなかったと書いています。
ここで、前の章の坂が戻ってきます。入室は午前八時から十時。手順は七十二分。二回目の採血は、コルチゾールがもともと下がっていく時間帯の、さらに一時間あまり先で行われたことになります。比べる相手がいない前後比較では、この日内変動の分をどれだけ差し引けばよいのかを、切り分けられません。
ですから「サウナがコルチゾールを下げる」とは書けません。書けるのは、この条件で測ったら低下したという関連が報告された、というところまでです。十三・六一から九・六七という並びは、そのままの姿で受け取って、理由のほうを勝手に足さない。それがいちばん傷まない読み方だと思っています。
動かなかった三つを、省かずに書きます
サウナを扱っている立場からすると、紹介したいのは下がった数字のほうです。けれども、同じ研究では、動かなかったものも報告されています。
テストステロン、DHEA-S、プロラクチン。この三つには有意な変化がなかったと報告されています。
数字も並べておきます。テストステロンは4.04から4.24(ng/ml)、DHEA-Sは357.5から356.82(µg/ml)、プロラクチンは14.50から13.71(ng/ml)。いずれも有意な差ではありません。有意でない上がり下がりを「増えた」「減った」と紹介するのは、目盛りの内側を指して騒ぐようなものです。
言葉を噛み砕いておきます。テストステロンは、男性ホルモンとして知られているもの。DHEA-Sは、コルチゾールと同じく副腎から出るホルモンの一種で、硫酸がついた形のものを指します。プロラクチンは、脳の下にぶら下がっている下垂体という部分から出るホルモンです。
つまり、この研究から読み取れるのは「ホルモン全般が動いた」ではありません。四つ測って、一つが有意に下がり、三つは有意な差が出なかった。そういう形です。
こう並べて書くと、売り文句としては明らかに弱くなります。それでも、下がった一つだけを取り出して見出しにするのは、除雪した一面だけを写真に撮って「雪かき完了」と言うのに似ています。裏に回れば、まだ膝まで積もっている。
私たちは、そういう書き方をしないと決めています。都合の悪い結果を省いた記事は、読んだ方の判断を助けません。

「もともと高い人ほど下がった」を、慎重に読む
この研究には、もうひとつ目を引く記述があります。ベースライン、つまり測り始めの値が高かった人ほど、低下の幅が大きかったと報告されています。反対に、測り始めの値がとても低かった人では、低下はごくわずかだったとも書かれています。
読むとつい、「ためこんでいる人ほど効く」という物語に変換したくなります。実際、そう書いてある記事も見かけます。
ただ、ここは慎重に扱いたいところです。
一般に、統計の世界には「平均への回帰」と呼ばれる性質があります。最初にたまたま高めに出た値は、二度目に測ると平均のほうへ戻りやすい。何かをしたから戻るのではなく、測定にばらつきがあるかぎり、それだけで起きてしまう現象です。健康診断で一度高く出た数値が、後日測り直したら落ち着いていた。そういう経験をお持ちの方も多いと思います。
しかも今回は、朝のうちに下りていく坂が重なっています。もともと高い値ほど、その坂で下げられる幅も大きく出やすい。二つの性質が同じ向きに働くので、なおさら物語にしにくい場面です。
これは統計の一般的な性質の話であって、この研究がそう述べたわけではありません。研究が報告しているのは、あくまで「測り始めの値が高いほど、低下の幅が大きかった」という関係そのものです。そこから先の理屈は、この研究には書かれていません。
私たちにできるのは、その一文を一文のまま受け取って、物語を勝手に足さないことだけです。手を加えないほうが、かえって長く使える。これは薪の話にも似ています。
この三十人が、誰だったのか
数字より先に、誰を測ったのかを見るようにしています。
この研究の対象は、十九歳から二十六歳の男性三十人です。平均年齢は二十二・六七歳。ポーランドの大学の研究ですから、日本人ではありません。
つまり、女性はひとりも含まれていません。この点は論文自身も、結果を女性に当てはめることはできない、と限界のひとつに挙げています。四十代も、六十代も、七十代も含まれていません。三十人という人数は、ホルモンの測定としては小さい部類に入ります。小さいほど、たまたまの影響を受けやすくなります。
この記事を読んでくださっている方の多くは、おそらくこの三十人とは違う体をしています。血圧の薬を飲んでいる方もいれば、心臓に持病を抱えている方もいる。汗のかき方も、暑さに対する慣れ方も違う。十九歳の学生と、六十八歳の元大工では、同じ九十度の部屋に座っていても、体の中で起きていることは違うはずです。
若い男性三十人で見られた関連が、そのまま自分に当てはまるとは限らない。これは意地の悪い注釈ではなく、研究をきちんと使うということです。
私たちは岩手でサウナを売っていますが、この一節を飛ばして紹介するくらいなら、記事そのものを書かないほうがましだと思っています。

冬の盛岡の水は、十度に近づく
ここから先は、研究の話ではありません。私たちが岩手で見てきた範囲の話です。出典のある数字ではありませんので、そのつもりで読んでください。
先ほどの研究の冷水浴は、十度から十一度で一分でした。
盛岡で水風呂を施工していて毎年感じるのは、冬になると、水道から出てくる水そのものがこの帯に近づいてくることです。夏場は冷却装置、いわゆるチラーを入れないとなかなか下がりません。けれども真冬は事情が違います。私たちが見てきた範囲では、一月から二月にかけて、何も冷やさずに十度前後まで下がる時期があります。
ただし、水温が近いからといって、同じ結果が出るという話ではありません。研究は特定の条件下で三十人を測っただけで、水温だけを取り出して「これが効く」と言ったわけではないからです。水温はあくまで、条件表に並んだ数字のひとつです。
設備の側から申し上げると、冬の水風呂で本当に気を遣うのは、温度より凍結です。給水管をどこに通すか。使わない日に水を抜けるようにしてあるか。排水が凍って詰まらないか。
私たちは、配管を凍結深度より下に落とす、屋外の露出をなくす、水抜き栓の位置を使う人の動線に合わせる。このあたりを設計の段階で決めてしまいます。ここを後回しにすると、二月の朝にお客様から電話がかかってきます。
これから岩手県内で自宅サウナと水風呂の設置を考えている方には、水温より先に凍結対策から決めることをおすすめします。温度の話より地味です。それでも、続けられるかどうかを決めるのは、たいていこちら側です。

手順全体で七十二分。焚き続ける薪と、最初の一回
研究の条件を家でなぞろうとすると、もうひとつ現実的な問題が出てきます。
サウナ室にいる時間は四十八分。休憩と冷水浴を挟めば七十二分。着替えと後片づけまで入れれば、二時間近い時間になります。そのあいだ、九十度前後を保ち続けなければなりません。
薪ストーブサウナでこれをやるなら、焚きつけから使用温度まで上げる分に加えて、その二時間ぶんの薪を先に割って、手の届くところに運んでおく必要があります。真冬の岩手では、外気温が低い日ほど立ち上がりに時間がかかります。途中で薪が足りなくなって、濡れた体のまま薪棚まで往復する。これがいちばん寒い。
電気のサウナヒーター、たとえばハルビアのシリンドロのような機種であれば、設定温度を保つ仕事はヒーターの側が引き受けてくれます。薪ストーブサウナは、その仕事の一部を人が受け持つ道具です。手間のぶんだけ火のそばにいられる、と考えている方には、薪ストーブサウナの設置をおすすめしています。
私たちが施工したお宅にお願いしているのは、その日に使う薪を最初にまとめて運んでおくこと。それだけです。段取りの話にすぎませんが、これがあるかないかで、続くかどうかが変わります。
そして、いちばん大事なことを最後に書きます。
初めての方に、この研究と同じ条件をそのまま勧めることを、私たちはしていません。
理由は研究の側にもあります。今回紹介した研究とは別に、一回きりの利用や、サウナに慣れていない方では、コルチゾールがむしろ一時的に上がったという報告もあります。つまり、体の反応は一様ではありません。同じ九十度、同じ十二分でも、慣れている人と初めての人とでは、中で起きていることが違う可能性がある、ということです。
ですから最初は短く、セット数も少なく。水風呂は無理に入らない。そこから自分の体に合わせて動かしていく。これが、私たちが現場でお伝えしていることです。

血圧の薬や心臓の薬を飲んでいる方、持病のある方は、入り方を決める前に主治医にご相談ください。今回の条件は、健康な若い男性三十人に対して研究者が設定したものです。
念のため書き添えます。この研究の結果と、私たちが施工するサウナや水風呂が、直接結びつくわけではありません。

サウナから上がって、雪の上に立つ。あの数分に何が起きているのかは、まだ全部が測れているわけではありません。三十人の血液から見えたのは、そのごく一部で、しかも朝の坂の分を差し引けていません。それでも、条件を決めて測った数字がひとつあると、自分の入り方を考えるときの手すりになります。手すりであって、正解ではありません。D'STYLEでは岩手・盛岡を中心に、薪ストーブサウナやハルビアの電気サウナヒーターを使った自宅サウナ、水風呂の設置まで一緒に考えています。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Podstawski R ほか, American Journal of Men's Health, 2021年(ワルミア・マズーリ大学、ポーランド/PMC8047510)。19〜26歳の男性30人(平均22.67歳)が90〜91℃・湿度14〜16%のサウナで12分×4セットを行い、各セット後に6分の休憩と10〜11℃の冷水浴1分を挟んだ。サウナ室内にいた時間の合計は48分、休憩を含む手順全体が72分で、論文が記す72 minはこの手順全体の所要時間。参加者は全員、日内変動の影響を抑える目的で午前8〜10時に入室したと明記されている。血清コルチゾールは13.61から9.67(論文表記µg/ml)へ有意に低下(p<.001)し、ベースラインが高い人ほど低下幅が大きく、ベースラインが非常に低い人では低下はごくわずかだったと報告。テストステロン(4.04→4.24 ng/ml)、DHEA-S(357.5→356.82 µg/ml)、プロラクチン(14.50→13.71 ng/ml)には有意な変化なし。論文は限界として、サウナの習慣がない男性の参照群(対照群)を用意できなかったこと、結果を女性に外挿できないことを挙げている。
- 補足(個別の文献名は特定できていません):単回の利用やサウナに慣れていない人では、コルチゾールが一時的に上昇したとする報告もあり、反応は一様ではないとされています。本記事では傾向の紹介にとどめ、数値は挙げていません。
- 注記:記事中の「平均への回帰」、およびコルチゾールが午前中にいちばん急な角度で下がるという説明は、統計学と内分泌の一般的な知識にもとづくもので、上記研究がこの点を検証した結果ではありません。上記研究が述べているのは、入室時刻を午前8〜10時に統一したこと、および対照群を置いていないことです。前後比較のため、日内変動の分とサウナの分は切り分けられません。
- 注記:冬季の水道水温、水風呂の凍結対策、薪の準備と段取りに関する記述は、有限会社D'STYLE(岩手県盛岡市)が岩手県内で行ってきた設計・施工の経験にもとづくもので、出典のある測定値ではありません。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



