岩手と秋田にまたがる八幡平(はちまんたい)の山頂近くに、初夏だけあらわれる不思議な光景があります。ドラゴンアイ。雪におおわれた「鏡沼」の雪が、春の終わりに中心から丸く解けはじめ、竜の目のように見える自然現象です。今日は北東北・岩手編、この竜の目と、火の山の恵みの話をします。
雪解けが描く、竜の目
ドラゴンアイがあらわれるのは、標高およそ千六百メートルの八幡平山頂付近にある鏡沼です。冬のあいだ、沼は雪と氷にすっぽりおおわれています。春が進んで気温が上がると、沼の中心から雪が円く解けはじめ、青い水があらわれる。その周りをまだ雪が輪のように囲み、中央には解け残った雪が瞳のように浮かぶ。この重なりが、大きな竜の目玉そっくりに見えるのです。自然が偶然に描く造形の妙に、思わず見入ってしまいます。
見られるのは、初夏の数週間
ドラゴンアイが見ごろになるのは、例年五月下旬から六月上旬にかけての、ごく短い期間です。雪解けが進みすぎると瞳の雪が消えてただの沼になり、進み方が足りないとまだ全面が雪のまま。ちょうどよく竜の目に見える時期は限られます。山頂へは八幡平アスピーテラインという山岳道路が通じ、雪の回廊を抜けて登ります。その年の雪の量や気温で見え方が変わるため、訪れる前に現地の情報を確かめるのがおすすめです。
八幡平は、火の山
八幡平は、なだらかな山容が美しい火山です。太古の噴火が溶岩を積み重ね、この広い高原状の山を作りました。山にはいくつもの沼や湿原が点在し、鏡沼もそのひとつです。火の山であることは、この土地に大きな恵みももたらしました。山のふもとには松川温泉をはじめ良質な温泉がわき、地下の熱を使った地熱発電も古くから行われています。火の山の熱が、湯となり、電気となって、人の暮らしを支えているのです。
地の底の火が、湯になる
温泉は、地下深くの火の熱が、水を温めて地上に届けてくれる恵みです。八幡平のふもとで湯につかると、この山が今も生きた火の山であることを、肌で感じます。雪解け水が竜の目を描く同じ山で、地の底の火が湯を沸かし続けている。冷たい雪と、熱い湯。そのどちらもが、同じ一つの山の恵みです。火と水が同居するこの山は、火と蒸気を商う者にとって、深く心ひかれる場所です。
地の熱が、蒸気になる
八幡平の地下に眠る火の力は、蒸気となっても人の役に立ってきました。岩手側の松川では、1966年、日本で初めての商業用の地熱発電所が運転を始めています。地の底からわき上がる高温の蒸気で発電機を回し、電気を生み出すこの仕組みは、まさに火の山の申し子です。まわりには白い噴気が絶えず立ちのぼり、山が今も生きて呼吸していることを教えてくれます。秋田側の後生掛(ごしょうがけ)温泉には、地の蒸気で床を温める「オンドル」の湯治場が古くから伝わり、人々は温かい蒸気の上に横たわって体を癒やしてきました。地の底の火が生む蒸気で、電気を起こし、床を温め、体をいやす。八幡平は、火と蒸気の恵みを、幾通りにも人へ分け与えてくれる山なのです。竜の目をたたえる同じ山が、足もとでは今も、絶えることなく熱い蒸気を吐き続けているのです。
山の恵みを、わが家の火に
地の底の火が湯を沸かすように、家の中でも、火は温もりと蒸気を生み出せます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターや薪ストーブで、火と蒸気のある暮らしをお手伝いしています。竜の目を見に八幡平を訪れたあとは、麓の湯で温まり、家に帰れば、また火のそばへ。山と火の話を、店でどうぞ。
写真: そらみみ (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



