薪ストーブとサウナの家を訪ねると、家庭内に面白い「役職」が生まれていることに気づきます。朝の火起こしはお父さん、夕方の薪補充は長男、サウナの温め開始はお母さん、火吹き係は末っ子。誰が決めたでもなく、いつのまにか定着した係たち。今日は、この「火の番」という役割の話です。家電の家には生まれない、火の家だけの現象です。

家電は係を消し、火は係を生む
考えてみれば、現代の家から「係」は消えました。風呂は自動で沸き、暖房はスイッチひとつ。便利になった分、家の運営に人手が要らなくなり、家族は家の「利用者」になりました。火の家は、ここが違います。火は、待っていても点きません。誰かが起こし、誰かが薪を運び、誰かが番をする。この「誰かがやらねば」の隙間が、係を生む。そして係は、人を家の利用者から、運営者に変えるのです。(子どもの係の話は、火育にも。)
火を絶やさぬ、という古い役目
火の番は、実はとても古い役割です。マッチもライターもなかった時代、一度消えた火を一から熾すのは、大変な労力でした。だから家々では、囲炉裏の火を絶やさぬよう、灰に埋めた種火を朝まで守り、代々受け継いだのです。「火を絶やす」ことは、暮らしの一大事でした。かまどには火の神が宿るとされ、火を守ることは、そのまま家を守ることと同じ意味を持っていました。薪ストーブの家に自然と生まれる「火の番」は、その何千年と続いてきた役目の、現代版なのだと思います。スイッチひとつの暮らしが忘れかけていた、火と人の古い約束が、そこに静かに息づいています。
子どもには、誇りになる
子どもにとって、火まわりの係は特別です。お茶碗運びと違って、火の係は「大人の仕事」の匂いがするからです。薪を三本運ぶ五歳児の得意顔、火吹き棒を任された小学生の真剣な横顔。「あなたがやってくれないと、今夜は寒い」という切実な必要性が、子どもの自尊心を育てます。宿題やりなさいは聞こえないのに、「火の番お願い」はすっ飛んでくる。多くの家庭で目撃されている現象です。
年配の家族には、居場所になる
そして、係がいちばん深く効くのは、実は年配の家族です。定年後のお父さん、同居のおじいちゃん。「やることがある」ことの価値は、定年後の記事に書いたとおりですが、家庭内に「あの人の係」が公認であることは、それ自体が居場所です。火起こしの腕前を孫に披露し、薪の乾き具合を管理し、天気を読んで焚き方を変える。長年の生活の知恵が、そのまま役職の専門性になる。火の番は、経験者ほど上手いのです。
係が、会話をつくる
火の係には、思わぬおまけがあります。会話が増えることです。「そろそろ薪、足しといて」「今日の火、いい感じだね」。役割があると、家族のあいだに自然な言葉のやりとりが生まれます。とくに、口数が少なくなりがちな年頃の子や、照れ屋のお父さんにとって、火は格好の話題です。用事にかこつけて、同じ火を見ながら、ぽつりぽつりと話す。面と向かってではなく、火を挟んで並んで話すからこそ、言えることもあります。係は、家族をそっとつなぐ、小さな口実にもなっているのです。
係の引き継ぎが、家の歴史になる
やがて、係は引き継がれます。火吹き係だった子が着火係になり、いつか朝の火起こしを任される日が来る。「お前ももう、火の番ができるな」。この昇格の一言は、ちょっとした成人式です。係の系譜は、そのまま家の歴史になります。岩手・盛岡のD'STYLEは、係の生まれる家づくりをお手伝いしています。あなたの家の役職表、楽しみにしています。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: w_lemay (Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0)



