薪ストーブの朝、灰の下の熾火が今にも消えそうなとき。頼れる相棒が、火吹き棒です。細い筒の先を熾火に向けて、ふうっとひと息。灰がふわりと舞い、熾火が赤く目を覚まし、細い薪に炎が走っていく。何度やっても、ちょっとした魔法を見ている気分になります。今日は、息で火を育てる道具の話です。

なぜ、息で火が蘇るのか
理屈は、とても単純です。燃焼には酸素が要る。弱った熾火は、自分の出した灰をかぶって、酸素不足で眠りかけている状態です。そこへ火吹き棒で空気を送り込むと、酸素が一気に供給されて、燃焼がふたたび点火する。うちわで扇ぐのと違うのは、狙った一点に、細く強い風をピンポイントで届けられること。まわりの灰を巻き上げず、赤くしたい場所だけを起こせるのが、細い筒の力です。ポイントは、長く強く吹くのではなく、ふっ、ふっ、と短い息を重ねること。熾火の赤の広がりを見ながら、火と対話するように送るのがこつです。(熾火の話は、朝の火起こし。)
人類最古の、火の道具のひとつ
息で火を育てる技術は、おそらく火の利用そのものと同じくらい、古いものです。竹の筒でできた「火吹き竹」は、日本の囲炉裏と竈のかたわらに、必ずと言っていいほど置かれていた道具でした。西洋の暖炉には、アコーディオンのような形のふいご(ベローズ)が下がっていた。たたら製鉄の巨大な足踏みふいごから、鍛冶屋が握る小さな手ふいごまで、人類が扱ってきた高い熱の裏には、いつも「風を送る道具」がありました。火吹き棒を吹くとき、私たちは数千年ぶんの焚き手たちと、まったく同じ動作を繰り返しているわけです。
うちわでも、送風機でもなく
火に風を送る道具は、ほかにもあります。うちわは広く風を送れますが、灰まで一緒に舞い上げてしまい、狙いも定まりにくい。電動の送風機は強力ですが、勢いが良すぎて、せっかくの細い焚き付けを吹き飛ばしたり、火の粉を散らしたりしがちです。その点、火吹き棒は、量も向きも、自分の息ひとつで細かく加減できる。強くしたければ強く、そっと起こしたければ弱く。道具と自分のあいだに、機械が挟まらない。この「自分の体で火を育てている」という直の手応えこそ、あえて古い道具を選ぶ理由です。便利さよりも、手応え。火のそばには、そういう楽しみがあります。
子どもの「火吹き係」は、最高の火育
そして、火吹き棒には、現代の家庭での大事な役目があります。子どもの係です。マッチはまだ少し早い年頃でも、火吹き棒なら、大人のそばで安全に火に関われる。ふうっと吹いて、炎がぱっと応えてくれたときの、あの得意そうな顔。「もう一回やる!」が止まらなくなります。火は吹けば応えてくれる、でも近づきすぎれば熱い。その大切な距離感を、遊びながら体で覚えていける。火吹き係は、火育の入門編として、これ以上ないほど良い役職だと思います。(火育の話は、こちら。)
選び方は、長さと太さ
選ぶときの目安を、少しだけ。ストーブ用なら、顔をしっかり火から遠ざけられる六十センチ以上の長さがあると安心です。伸縮式は持ち運びに便利ですが、家で据えて使うなら、一本ものの頑丈さと佇まいが気持ちいい。真鍮やステンレスの美しい一本は、火の道具立ての、名脇役になってくれます。使い終えたら、決めた定位置に掛けて。熱い灰に突っ込んだ直後の先端は当然熱いので、子どもと共用する家では「先っぽは触らない」の約束を、はじめに交わしておいてください。(道具の定位置の話は、こちら。)
息の届く暮らしを
岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブの設置とあわせて、火の道具選びもお手伝いしています。ひと息で火が応えてくれる暮らし、始めてみませんか。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: Arto J (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



