この読み物で薪のことは山ほど書いてきましたが、大事な同郷の親戚を忘れていました。炭です。実は岩手県は、木炭の生産量日本一。全国シェアの約三割を占める、押しも押されもせぬ炭の国なのです。今日は、炭の国の物語です。

岩手切炭という、ブランド
岩手の炭の主力は、ナラを原料にした黒炭「岩手切炭」です。六寸に切りそろえられ、火つきが良く、火力が安定し、爆ぜにくい。ホームセンターの安価な輸入炭とは別物の品質で、焼き鳥屋や うなぎ屋など、火を商売にする料理人たちが指名買いする銘柄です。産地の中心は県北の久慈地方。山の中の炭窯で、炭焼き職人たちが今も一窯ずつ焼いています。窯の温度を煙の色と匂いで読む職人の技は、まさに火の読みの極み(炎の色の話の大先輩です)。
白炭と黒炭、二つの炭
炭には、大きく黒炭と白炭の二種類があります。黒炭は、窯の中で比較的低めの温度で焼き、窯を密閉して火を消して作る炭。火つきが良く、火力もやわらかで、家庭の炭火にちょうどいい。岩手切炭は、この黒炭の代表格です。一方の白炭は、高温で焼いた炭を灼熱のまま窯の外へ掻き出し、灰をかけて一気に消して作ります。あの硬く締まった備長炭が白炭の代表で、高温が長く続くのが身上です。用途で選ぶこの二種類は、どちらも日本の炭焼きが長い歳月をかけて磨き上げた、技の結晶です。
炭焼きは、里山を回してきた仕事
炭焼きは、ナラの木を伐り、また萌芽から育てる、里山の循環(こちら)の中心にあった仕事です。薪炭林と呼ばれた山々は、炭のために手入れされ、光が入り、健康を保っていました。石油の時代に炭の需要が激減して山が放置された話は、薪の記事で書いたとおり。岩手が今も日本一でいられるのは、職人と流通と山を、途切れさせずに守った人たちがいたからです。焼き肉や茶の湯で岩手の炭を選ぶことは、この山の循環への一票になります。
炭火が、料理をうまくする理由
炭火で焼いた料理が格別なのには、理由があります。まず、赤く熾きた炭は強い遠赤外線を放ち、食材の中までじんわりと火を通します。表面はこんがり、中はふっくら。次に、炭は燃えるときに煙も水蒸気もほとんど出さないので、食材がべたつかず、香ばしく仕上がる。そして、炎を上げずに一定の強い熱が長く続くから、じっくり焼くのに向いています。焼き鳥やうなぎ、秋刀魚の塩焼き。あの匂いと味の記憶の裏には、炭という燃料の確かな物理があるのです。炭の働きは、台所の外でも重宝されてきました。よく焼けた炭には無数の細かな穴が開いていて、匂いや湿気を吸い込む力があります。だから昔から、下駄箱や冷蔵庫に置いて消臭に、押し入れに入れて調湿にと、暮らしのあちこちで使われてきました。炭を沈めた水で米を炊く、飲み水をまろやかにする、といった使い方も知られます。燃やして良し、置いて良しの働きもの。岩手の良い炭は、暮らしのそこかしこで、静かに役に立ってくれます。
薪と炭は、火の兄弟
薪と炭の使い分けを整理しておきましょう。薪は、炎と香りと大きな熱量の火。ストーブと暖房の主役です。炭は、炎を上げず、一定の強い熾火が長時間続く火。調理の主役です。だから薪ストーブの家に七輪が一つあると、火の布陣は完璧になります。夏の庭先の七輪、秋刀魚と岩手切炭。消し炭(こちら)を火起こしに使えば、循環もつながります。火鉢に岩手の炭、という渋い冬も、この県ならすぐ実現できます。
炭の国の火の店として
薪も、炭も、岩手は火の燃料の名産地です。岩手・盛岡のD'STYLEは、この土地の火の文化をまるごと背負って商売をしています。薪ストーブに七輪と火鉢を足す「火の布陣」のご相談も、楽しくお受けします。いつでもどうぞ。
写真: Rajani Gairshail (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



