滝は夏のものと思われがちですが、雪国の滝には、もう一つの見頃があります。厳寒期です。流れ落ちる水が凍りつき、滝がまるごと氷の彫刻になる。氷瀑(ひょうばく)です。今日は、冬だけの絶景と、その遠足の組み立ての話です。

氷瀑は、寒さが作る一点もの
氷瀑は、連日の厳しい冷え込みが作ります。飛沫が岩に凍りつき、つららが育ち、水の流れが少しずつ氷の柱に置き換わっていく。青白く透ける氷の質感、内側をかすかに流れ続ける水の音。同じ滝でも、その冬の寒さと水量で姿が変わる、一点ものの彫刻です。岩手では、八幡平の松川渓谷や県内各地の滝が、厳寒期に見事な氷の姿を見せます。真冬日が続いた週末こそ、氷瀑の見頃。しばれる冬(こちら)ほど、彫刻は立派に育ちます。
なぜ、青く透けるのか
氷瀑が青みを帯びて見えるのには、理由があります。ぎゅっと締まって気泡の少ない厚い氷は、光のなかの赤い成分を吸い込み、青い成分をよく通す。だから分厚い氷ほど、奥が青く澄んで見えるのです。氷河や流氷が青く見えるのと同じ原理です。逆に、しぶきが凍ってできた気泡の多い氷は、光を乱反射して白く見える。一つの氷瀑のなかに、青く澄んだ層と、白く濁った層が同居しているのは、そういうわけです。凍りながらも内側では水が流れ続けている、生きた彫刻。じっと見ていると、水の三つの姿が一枚に重なっているのが分かります。
見に行く装備は、雪山の入り口として
ただし、氷瀑見物は、雪の遊歩道や林道を歩く小さな雪山行です。装備は本気で。滑り止め(チェーンスパイクや軽アイゼン)、防水の冬靴、手袋と帽子、温かい飲み物。ペンギン歩きの基本(こちら)に加えて、滝つぼ周りの氷の上には乗らないこと。氷の下は流水で、厚みは見た目では分かりません。日の短い季節ですから、午前出発・午後早めの撤収が鉄則です。天気の急変(観天望気)にも気を配って、無理せず引き返す勇気も装備のうちです。
帰ってからの、解凍まで含めて遠足
氷瀑見物の体は、雪道歩きと立ち止まりの繰り返しで、じんわり底冷えしています。ここからはお決まりの流れです。帰宅、温かい一杯、そしてサウナで解凍。氷の彫刻を見てきた目で、湯気の立つ自分の体を眺める外気浴は、水の三態を一日で巡る、なかなか贅沢な理科の実習です。凍った滝と、蒸気の体。冬の水は、忙しい。(冷えの解凍の理屈は、ワカサギの話と同じです。)
岩手の冬の、滝を訪ねる楽しみ
氷瀑めぐりは、冬の岩手を知る一つの入り口です。八幡平の松川渓谷は、湯けむりの上がる温泉地のそばで、渓流や滝が凍る様子を楽しめる名所。県内の山あいには、夏は緑に隠れて気づかない小さな滝が、冬になって氷の姿で現れる場所がいくつもあります。地元の人しか知らない氷瀑を教わって訪ねるのも、この季節ならではの宝探しです。多くの場合、近くに温泉が湧いているのも岩手のありがたいところ。凍った滝を見上げて冷えた体を、湯でほどいて帰る。氷と湯、冬の二つの水の姿を、一日で味わえます。無理のない範囲で、装備を整えて、その冬しか見られない一点ものの彫刻に会いに行ってみてください。歩いて近づくほど、氷の造形の細やかさに驚かされます。冬にしか開かない、山奥の展覧会。入場料は、少しの寒さと、確かな装備だけです。
冬の遠足の、基地をつくる
氷瀑、白鳥(こちら)、雪まつり(こちら)。岩手の冬の絶景遠足は、帰ってからのサウナ込みで完成します。岩手・盛岡のD'STYLEは、その基地づくりをお手伝いしています。この冬の遠足計画、サウナ付きでどうぞ。
写真: Ninara (Wikimedia Commons, CC BY 2.0)



