北東北の水の風景の頂点を、ひとつ挙げるなら。多くの人が奥入瀬(おいらせ)渓流と答えるはずです。十和田湖から流れ出す約14キロの渓流沿いに、苔むした岩、ブナの森、無数の滝が連なる。歩けば水音が体の芯にしみ込み、目は緑に洗われていきます。今日は北東北・青森編、歩く森林浴の最高峰の話です。
カルデラ湖から流れ出す、ただ一本の川
十和田湖は、火山の噴火でできたカルデラ湖です。噴火で山体が陥没した窪地に水が溜まった、いわば大地のくぼみの湖。しかも噴火は一度きりではなく、湖の中にさらに小さなくぼみが重なる二重カルデラの構造で、突き出た半島や入り組んだ岸辺が、複雑な水辺の景色をつくっています。湖を見下ろす発荷峠(はっかとうげ)からの眺めは、青がそのまま空へ溶けていくようです。深い青をたたえる湖から流れ出す川は、奥入瀬川ただ一本です。湖が天然のダムとして水量を安定させているため、渓流は年間を通じて涸れず荒れず、岩には苔が絶えません。あの奇跡のような渓流美は、火山と水の合作なのです。火の山が水の聖地を生む構図は、八甲田と酸ヶ湯(こちら)と同じ。北東北の絶景の多くは、火山の置き土産です。
阿修羅の流れと、銚子大滝
約14キロの道のりは、一歩ごとに景色が移ろいます。渓流が岩を噛んで白く砕ける「阿修羅の流れ」、幾筋もの糸が苔の壁を伝う「雲井の滝」、本流にただ一つかかる「銚子大滝」。名前のついた見どころが次々に現れ、水の表情が変わり続けます。銚子大滝は落差が大きく魚の遡上を止めたため、十和田湖には長く魚が棲みませんでした。明治になって和井内貞行(わいないさだゆき)がヒメマスの養殖に挑み、幾度もの失敗の末に成功させた話は、今もこの土地の語り草です。滝ひとつ、淵ひとつの前で足を止め、しぶきの冷気を頬に受けながら歩く道です。
森を敷きつめる、苔の絨毯
奥入瀬のもう一つの主役は、苔(こけ)です。遊歩道の起点、石ヶ戸(いしけど)から歩き出すと、木々のトンネルが日差しをやわらげ、足元はいつもしっとり湿っています。この湿り気こそ、苔のゆりかご。湿った空気と安定した水量が、岩にも倒木にも柔らかな緑の絨毯を育て、その種類は数百に及ぶといわれます。近年は「苔さんぽ」と称して、ルーペ片手にこの微細な森を覗き込む楽しみ方も広がりました。膝をつき、直径数センチの緑の林に目を凝らすと、渓流という大きな景色の中に、もう一つの小さな森が息づいているのが見えてきます。大きく眺めても、小さく覗いても飽きない。奥入瀬の懐の深さです。
歩く森林浴の、教科書
奥入瀬の遊歩道は、渓流と同じ高さを歩けるのが身上です。車道と歩道が寄り添い、水音、苔の匂い、ブナの木漏れ日、マイナスイオンという言葉を使いたくなる空気に、ずっと包まれて進めます。森林浴の効能(こちら)を、全身で浴びながら歩ける設計です。新緑と紅葉が有名ですが、通は冬を推します。氷瀑と雪の渓流(こちら)の静けさは、夏の喧騒と別世界。冬に歩くなら、装備と情報収集を本気で整えてから向かってください。
渓流歩きとサウナの、黄金コース
奥入瀬を歩いた日の体は、ほどよい疲労と、湿った冷えを抱えています。ここに温泉とサウナを接続するのが、北東北のサ旅(こちら)の設計です。十和田湖畔や八甲田周辺の湯で温まり、宿のサウナがあれば言うことなし。歩く森林浴で耳と目を洗い、蒸気で体を仕上げ、火のそばで一日を閉じる。朝は渓流の緑、昼は湯の香り、夜は薪のはぜる音。一日で五感が総入れ替えになる、最高の休日です。
水と森の文化圏の、火の店から
岩手の龍泉洞(こちら)、秋田の乳頭のブナ(こちら)、青森の奥入瀬。北東北は、水と森の名所の宝庫です。岩手・盛岡のD'STYLEは、その文化圏の暮らしに火と蒸気を添える仕事をしています。ご相談、いつでもどうぞ。



