岩手の水の話(こちら)の続編として、この土地の水の底力の象徴を紹介します。岩泉町(いわいずみちょう)の龍泉洞。日本三大鍾乳洞に数えられる洞窟と、その奥に沈む、息をのむ地底湖の話です。

日本三大鍾乳洞の、ひとつ
日本三大鍾乳洞とは、龍泉洞と、高知の龍河洞、山口の秋芳洞を指します。いずれも石灰岩の大地が、気の遠くなる年月をかけて水に溶かされてできた地下空間です。石灰岩は、大昔の海のサンゴや貝殻が積もって固まった岩。つまり龍泉洞の壁は、かつて海の底だった証です。山の中で海の記憶に触れられるのが、鍾乳洞という場所の面白さ。天井から下がるつらら状の鍾乳石は、わずか数センチ伸びるのに何十年もかかるといわれ、洞内の造形はすべて、水と時間が刻んだ彫刻なのです。しかも龍泉洞は、まだ全容が解き明かされていません。人が歩けるのはごく一部で、その奥がどこまで続くのか、なお調査が重ねられています。地図の描かれていない場所が、岩手の山の下に今も広がっている。そう思うと、順路の照明の先の暗がりが、いっそう深く感じられます。
ドラゴンブルーの、地底湖
龍泉洞の主役は、洞窟の奥に連なる地底湖です。判明しているだけで複数の湖があり、水深は最深部で90メートルを超えるとされ、その透明度は世界有数。照明に照らされた湖面は、吸い込まれるような深い青で、「ドラゴンブルー」の名で呼ばれます。あの青は、水に不純物がほとんどないことの、視覚的な証明です。光の中の青い成分だけが深く沈み、澄んだ水ほど青く見える。石灰岩の山が長い年月をかけて濾過した水が、地の底に静かに湛えられている。岩手の名水(名水百選にも選ばれています)の、いわば原液の姿です。
コウモリの棲む、生きた洞窟
龍泉洞は、生き物の暮らす「生きた洞窟」でもあります。洞内には数種のコウモリが棲み、その群れは国の天然記念物に指定されています。暗闇と定温という、地上にはない環境を頼りに生きる小さな哺乳類がいる。順路を静かに歩けば、頭上の岩の隙間に、彼らの眠る気配を感じることもあります。人が造ったのではなく、大地の時間がつくった居場所。そう思うと、洞窟の暗がりが少し違って見えてきます。見学は、命と地質を同時にのぞく体験でもあるのです。
洞窟は、天然の定温倉庫
龍泉洞のもう一つの面白さは、気温です。洞内は年間を通じておよそ10度前後でほぼ一定。夏は天然の避暑地、冬は逆に外より暖かく感じます。地中は外気の影響を受けにくい、という理科の実例が、そのまま観光になっています。この「地中の温度の安定」は、昔の人が室(むろ)や氷室で食品を保存した知恵の土台であり、現代の住宅の基礎や凍結深度の考え方(寒冷地の話)にもつながる原理です。洞窟見学は、地面の下の科学の教室でもあります。ちなみに見学路は水に洗われて滑りやすく、夏でも一枚羽織るものがあると安心です。
この水系の末端で、水風呂に入る
龍泉洞の水は、売店や通販で「龍泉洞の水」として飲めます。まろやかで、すっと消える飲み口。サウナ上がりの一杯として、岩手の水の実力を、いちばん分かりやすく体験できる一本です。そして思い出してください。私たちが家で使う水道水も、規模は違えど、同じ岩手の山々が濾過した水系の水です。世界級の透明度を誇る地底湖のある県で、その水系の水風呂に入る。岩手のサウナの水回りは、血筋からして名門です。冷たさの質が違う、と常連が口をそろえるのも、この土地なら、うなずける話です。
水の名門の土地で
岩手・盛岡のD'STYLEは、この水の土地のサウナと火の暮らしをお手伝いしています。夏の龍泉洞、涼みがてらどうぞ。帰りに水を一本、サウナ上がり用に。ご相談、いつでもお待ちしています。
写真: Ximonic (Simo Räsänen) (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



