薪ストーブの天板の実力は、煮込みや焼き芋だけではありません。実は、冬の飲み物の名調理場です。沸騰させたくない、ゆっくり温めたい、保温しておきたい。飲み物づくりの繊細な火加減を、天板の端の穏やかな熱が、勝手にやってくれる。今日は、天板で作る冬のホットドリンク集です。(コーヒーの話はこちら、燗酒はこちらに書いたので、今日はそれ以外を。)
北欧の冬の定番、グロギ
フィンランドの冬の飲み物といえば、グロギ。赤ワイン(またはジュース)に、シナモン、クローブ、カルダモン、オレンジの皮を入れて、沸騰させずにことこと温める、北欧版のホットワインです。ドイツのグリューワイン、フランスのヴァンショーと兄弟のような飲み物で、クリスマス市の屋台の香りそのもの。刻んだアーモンドとレーズンを底に沈めるのが本場流です。天板の端に鍋を置いておけば、沸かしすぎの失敗なく、いつでも飲みごろが待っています。アルコールを控えたい夜や子ども用には、ぶどうジュースで作るノンアルのグロギを。スパイスの香りが部屋いっぱいに満ちる夜は、それだけでごちそうです。(聖夜のサウナの話は、こちら。)
岩手なら、ホットりんごジュース
そして、りんご県の切り札。ストレートのりんごジュースを、シナモンひと振りで温めるだけの、ホットアップルジュースです。驚くほど体が温まり、甘みは冬の体にやさしく染みる。サウナ上がりの子どもの一杯として、これに勝るものを知りません。しょうがのすりおろしを少し足せば、そのまま大人の湯冷め対策に。地元の直売所に並ぶ、濁ったストレート果汁の一本が、堂々と店のメニューに化けます。(りんごの話は、焼きりんごもどうぞ。)
甘酒は、飲む点滴
米麹の甘酒は、天板保温との相性が完璧です。ブドウ糖やビタミン類、アミノ酸をたっぷり含み、その栄養価の高さから「飲む点滴」とも呼ばれる甘酒。もともと江戸時代には夏バテ対策の栄養ドリンクで、俳句では今も夏の季語です。麹の酵素と繊細な風味は熱に弱く、ぐつぐつ沸かすと持ち味が飛んでしまう。六十度ほどのやさしい温度をそっと保てる天板の端は、甘酒にとって、まさに特等席なのです。すりおろしたしょうがを少し落とせば、サウナ上がりの体が芯から温まります。
ココア、しょうが湯、ゆず茶
ココアは、お湯ではなく牛乳から、小鍋でゆっくり温めると、鍋肌の香ばしさがまるで違います。しょうが湯は、すりおろしたしょうがに湯とはちみつを。しょうがは加熱すると、体の芯を温める成分「ショウガオール」が増えるので、ことこと温める天板とは名コンビです。ゆず茶、くず湯、黒糖湯。おばあちゃんの冬の飲み物たちは、みんな天板の上でこそ本領を発揮します。ポットのお湯で溶くのと、小鍋でことこと作るのとでは、同じ材料でも、まるで別の飲み物になります。湯気の立つ鍋をのぞきながら待つ時間まで含めて、天板の飲み物のおいしさです。
保温という、天板の真骨頂
天板の本当の得意技は、作ることより、待たせることです。家族の帰りが遅い夜、鍋の一杯を天板の端で保温しておく。「帰ったら、あったかいのがあるよ」が、電気を一切使わず実現する。やかんの湯はそのまま白湯やお茶に、寝る前には湯たんぽのお湯にもなって、一つの熱が幾通りにも働く。この待たせる力こそ、火のある台所の豊かさだと思います。(天板の朝の話は、こちら。)
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写真: পাপৰি বৰা (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



