二月が近づくと、台所でチョコレートを溶かす人が増えます。そして毎年、同じ悲劇が起きます。湯せんの温度が高すぎて、チョコがぼそぼそに分離する事件です。今日は、チョコと火の話。実は薪ストーブの天板は、チョコレートにとって理想の調理場なのです。
チョコレートは、繊細な生き物
チョコの主成分カカオバターは、溶ける温度がとても低く、しかも急な高温に弱い。50度を超えると風味と口どけを決める結晶構造が崩れ、つやが消え、ぼそついてしまいます。プロがつやを出すために温度を上げ下げする「テンパリング」も、要は、この結晶を整えるために温度をていねいに管理する作業です。理想は、体温より少し高いくらいの湯で、あわてず溶かすこと。ところがコンロの湯せんは火加減が難しく、ちょっと目を離すとぐらぐらに。チョコの失敗のほとんどは、腕ではなく、熱源の問題なのです。
天板の端は、湯せんの理想郷
ここで、薪ストーブの出番です。天板の端の穏やかな領域に、湯を張ったボウルを置けば、沸騰しない「ぬるい湯せん」が、何十分でも安定して続きます。刻んだチョコを入れた小ボウルを浮かべて、ときどき混ぜるだけ。急がされない湯せんは、失敗のしようがありません。甘酒やパン種と同じで、天板の温度のグラデーションは、繊細な食べものの味方です(発酵の話)。バレンタイン前の週末、火のそばで家族のチョコ工房を開く。焦げの匂いではなく、カカオの香りが満ちる薪ストーブの部屋は、なかなか良いものです。
チョコは、もともと熱い飲み物だった
少し、歴史の話を。チョコレートの原点は、中央アメリカのマヤやアステカの人々が飲んでいた、カカオの飲み物です。当時は甘くなく、唐辛子や香辛料を入れた、苦くて泡立つ「神々の食べ物」。カカオ豆は通貨として使われるほど貴重でした。板チョコとして固めて食べる今の姿は、砂糖と乳が加わった十九世紀ヨーロッパの発明です。つまりチョコは、長い歴史のほとんどを、温かい飲み物として過ごしてきた。火のそばで一杯のチョコを溶かす時間は、実はいちばん古い、チョコ本来の楽しみ方に戻ることでもあるのです。ヨーロッパでも、暖炉のそばでカカオを溶かして飲むのは、長く冬の贅沢でした。火とチョコの相性の良さは、歴史のお墨付きなのです。
夜は、ホットチョコレートを
飲む方も忘れずに。刻んだ板チョコを温めた牛乳に溶かす本式のホットチョコレートは、ココアより濃厚な、冬の夜の飲み物です。これも天板なら、鍋肌を焦がさず、ゆっくり乳化して、店の味に近づきます。仕上げにひとつまみの塩。雪の日の子どものおやつに、大人は少しラム酒を垂らして。マシュマロをひとつ浮かべれば、溶けぎわが最高のごちそうです。(冬の飲み物集は、こちら。)
サウナ上がりの、一粒
そして、サウナーへ。ととのった後の一粒のチョコは、驚くほど雄弁です。冴えた舌に、カカオの酸味と香りが順番に現れて、ふだんの三倍の情報量で溶けていく。産地違いのカカオを食べ比べると、その香りの差もはっきり分かります。高級な一粒を、サウナ後のためだけに買っておく。ビターな一枚と、ミルクの一枚を、冴えた舌で飲みくらべるのもまた一興です。小さくて確実な贅沢です。(甘味とサウナの話は、こちら。)
やさしい熱のある家へ
チョコにやさしい熱は、人にもやさしい熱です。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブの設置をお手伝いしています。二月の工房計画、間に合わせたい方はお早めに。ご相談、いつでもどうぞ。



