薪ストーブ料理というと、夜の煮込みやピザが主役になりがちです(料理入門はこちら)。でも、薪ストーブ乗りたちがひそかに愛しているのは、朝の部です。熾火から起こした火で、朝ごはんをつくる。今日は、天板の朝食の話。なぜか背徳的にうまい、あの味の話です。

天板トーストという、事件
まず、トースト。網をひとつ天板に置いて、パンをのせる。トースターのように全面均一には焼けません。少しムラになって、焦げの濃いところと白いところができる。ところが、これがうまいのです。遠赤外線でじっくり焼けたパンは、外はかりり、中はもっちり。表面だけを一気に焼くのではなく、じんわり火が通るから、水分が飛びすぎず、冷めても固くなりにくい。焼きムラは、手焼きの勲章です。焼けたそばからバターをのせれば、火のそばですぐ、とろりと溶けて染みていく。トースターという便利を知りながら、あえて網で焼く朝の数分は、ちょっとした反逆の楽しみです。
スキレットは、朝の相棒
小さな鉄のスキレットを、天板に常駐させてください。目玉焼き、ベーコン、ウインナー。じゅうじゅうという音と匂いで、家族が起きてきます。鉄板の蓄熱でゆっくり火が通った目玉焼きは、白身のふちがかりっと、黄身はとろり。使い込むほど油がなじんで焦げつきにくくなり、鉄からの補給も少し期待できるのが、鉄の道具のいいところ。焼き上がったら、スキレットごと鍋敷きにのせて食卓へ。熱々のまま食べられて、洗い物はひとつだけ。牛乳やスープを小鍋であたためるのも、天板の得意技です。沸騰させたくない「ちょうどいいぬるさ」の加減が、火から離れた天板の端に置くだけで、勝手にできあがります。
パンだけじゃない、和の朝も
洋の朝食が続きましたが、天板は和の朝にもよく効きます。網でこんがり焼いた餅、皮がぱりっとした干物、香ばしい焼きおにぎり。金網一枚あれば、遠火でじっくり、中まで温かく焼き上がります。土鍋を天板の端でことこと保温すれば、ごはんは最後まで湯気を立てたまま。味噌汁の鍋も、火から下ろして端に寄せておけば、煮立たせずにちょうどいい温度で待っていてくれます。囲炉裏で餅を焼いた昔の朝と、地続きの景色です。パンの朝も、ごはんの朝も、火ひとつで自在に行き来できる。それが、天板の懐の深さです。
平日は、現実的に
正直な話もしましょう。平日の朝は、時間との勝負です。毎朝フルコースは、さすがに無理があります。現実解は、こうです。朝は熾火を起こして、やかんだけ天板へ。トーストはトースターに任せて、コーヒーの湯とスープのあたためだけ、ストーブが受け持つ。それだけでも、朝の台所の景色はだいぶ変わります。ゆうべの熾火が生きていれば、火起こしも数分。フルコースの天板朝食は、休日のお楽しみに取っておく。毎日を欲張らず、この緩急をつけるのが、長続きのこつです。(朝の火起こしは、こちら。)
冬の朝食が、待ち遠しくなる
冬の朝は、本来つらいものです。それが、薪ストーブの家では「今朝は何を焼こうか」に変わる。布団から出る理由が、義務ではなく楽しみになる。この転換こそ、火のある暮らしの本領だと思います。暖まった部屋で、湯気の立つスープと焼きたてのトースト。窓の外は雪、手元はぬくもり。日曜の朝、その天板朝食に、サウナ上がりの家族が湯気を立てながら合流したら、もう完璧です。子どもが自分から「係」をやりたがるのも、たいてい朝の食卓です。
朝のうまい家を
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