薪ストーブの良さを一つだけ挙げてくださいと言われたら。薪屋なら「暖かさ」と答えておくのが無難なんでしょうが、私はつい「料理」と答えてしまう。薪ストーブは、料理がうまいんです。
特別な腕はいりません。天板に鍋を置く。炉の中にスキレットを入れる。それだけで、ガスやIHとは別物の一皿になります。今日はそのあたりの話と、最後に正直な注意点を一つだけ、書いてみます。
天板は、いつでも「とろ火」です
薪ストーブの天板は、火を焚いているあいだずっと熱を持っています。ここに鍋を置いておくと、カレーでもシチューでも、勝手にことこと煮えていく。強火で一気に、ではなくて、じんわり長く。煮込みがいちばん喜ぶ火加減を、ストーブが黙って続けてくれるわけです。
朝に仕込んで天板に載せておけば、夕方には味がしみています。つきっきりで火加減を見張る必要もない。暖房のための火が、そのまま台所仕事までしてくれるんです。まあ、これに慣れてしまうと、もう元には戻れません。
スキレットと熾火。ここからが本番です
鋳物のスキレットやダッチオーブンを使うと、薪ストーブは一気に「調理器具」の顔になります。よく熾きた炎の前で肉を炙る、帆立を殻ごと温める、グラタンをぐつぐつ言わせる。直火ならではの香ばしさは、家庭のキッチンではなかなか出せないものです。
そして私がいちばん好きなのが、熾火(おきび)です。炎が落ち着いて、薪が赤い塊になった状態。この熾火を寄せて炉内にピザを入れると、縁がぷっくり膨れて焼き上がります。パンやグラタンも同じ。熾火は、家の中にある小さな石窯だと思ってもらっていいです。
火が急がないんだから、
こっちも急がなくていい。
なぜおいしいのか。「遠赤外線」と「急がない火」
理屈もちゃんとあります。鋳物や石の本体が蓄えた熱は、遠赤外線としてじんわり食材に届きます。表面だけを焦がすのではなく、中までむらなく火が入る。煮込みが柔らかく仕上がり、パンの中がしっとり焼けるのはこのためです。
もう一つは、火そのものが急がないこと。薪の火は、点けてから熾火になるまで、ゆっくり表情を変えていきます。その時々の火に合う料理を載せていくだけで、炙り物から弱火の煮込みまで、自然に役割が回ってくるんです。
「ついで」だから、続く
本当は、これが言いたくてこの記事を書いています。薪ストーブ料理は、要するに「ついで」なんです。寒いから火を焚く。その火がもったいないから、鍋を一つ載せる。それだけ。
専用の道具を揃えて、さあ料理するぞ、と構える必要がない。暖房のついでに一品できてしまうから、無理なく毎日続く。冬のあいだ、天板にはいつも何かしら鍋が載っている。私はこれが、薪ストーブのある暮らしのいちばんの贅沢だと思っています。
ひとつだけ、正直な注意点
いいことばかり書きましたが、注意点もあります。天板の温度は、機種によってまったく違います。天板調理を持ち味にした機種もあれば、構造上あまり天板が熱くならない機種もある。国産のAGNIのように、天板でしっかり料理ができることを大事に設計されたストーブもあります。
また、触媒(キャタリティック)方式の機種は、炉内での調理に向き不向きがあります。このあたりは一台ごとに事情が違うので、ここでは断言しません。そのかわり、お願いが一つ。機種を選ぶ段階で「料理がしたい」とひとこと言ってください。それだけで、選ぶべき一台がぐっと絞れます。
ショールームの火の前で、話しましょう
うちは祖父の代から三代、岩手で火と薪に関わってきた店です。盛岡・国道4号線沿いのショールームには、いつも火の入った薪ストーブがあります。ご来店の予約はいりません。
「うちの間取りで、どんな料理ができますか」くらいの気軽さで結構です。本物の火に手をかざして、天板の熱を確かめながらお話ししましょう。ちなみに私は、ピザの話になると長いです笑。薪ストーブと料理のある暮らし、あなたの「作ってみたい一品」をぜひ聞かせてください。



