サウナとお酒の話では、順番の大切さを口を酸っぱくして書きました(こちら)。今日は、もっと気楽な夜の話です。薪ストーブと、晩酌。炎を眺めながらの一杯は、人類が何百年も磨いてきた、夜のくつろぎの型です。運転もサウナも、もうない夜に、ゆっくりどうぞ。

暖炉とウイスキーという、世界の型
映画や小説で、何度見たか分からない場面があります。暖炉の前の肘掛け椅子で、グラスのウイスキーを揺らす人。あれは絵になるから描かれるのではなく、実際に理にかなった組み合わせです。ウイスキーの香りは、温度が少し上がると開きます。炎の輻射で手元のグラスがほんのり温まり、琥珀色の液体に火の光が透ける。スコットランドやアイルランドの寒い夜が育てた飲み方です。とりわけアイラ島のスコッチは、泥炭(ピート)を焚いて麦芽を乾かすため、煙のような香りをまとう。薪の香りと響き合うのは、同じ煙の仲間だからでしょう。氷を一つだけ落とすか、常温のまま少しの水で香りを開かせるか。火を見ながら、その日の一杯の温度を決める時間も、また楽しいものです。
天板があれば、燗酒の名人になれる
日本の夜には、燗酒があります。そして薪ストーブの天板は、実は理想の燗つけ場です。ちろりや徳利を湯煎にして、天板の端の穏やかな熱で、ゆっくり温める。急がない湯煎の燗は、角が取れて、味がふくらみます。岩手は南部杜氏のふるさと。花巻の石鳥谷を拠点に、冬になると各地の蔵へ出かけて酒を醸した、日本を代表する杜氏の集団です。その土地の地酒を、その土地の薪の火で燗して、雪の夜に一杯。これ以上の地産地消があるでしょうか。杜氏たちは、家族と離れて蔵に泊まり込み、寒の水と麹に向き合って冬を越しました。その労のうえに生まれた一本を、雪見の一杯にする。ありがたい話です。
燗には、体温のような呼び名がある
燗酒のいいところは、温度で表情が変わること。日本語には、その温度に美しい名前がついています。三十度ほどの「日向燗」、体温くらいの「人肌燗」、少し温かい「ぬる燗」、湯気の立つ「熱燗」。火のそばの長い夜には、熱くしすぎず、人肌からぬる燗あたりが似合います。香りがふわりと立ち、米のうまみが舌にひろがる温度です。天板の上で徳利を回しながら、今日はどのあたりにしようかと決める。それだけで、晩酌が少し丁寧になります。同じ酒でも、冷やと燗では、まるで別の顔を見せる。一本を温度で飲み分けられるのは、燗という文化を持つ国の、静かなぜいたくです。
火のそばでは、酒が減らない
面白い発見をひとつ。薪ストーブの前で飲むと、不思議と酒量が減る、という声をよく聞きます。理由は簡単で、炎という「肴」があるからです。手持ち無沙汰を埋めるための一杯が要らなくなり、グラスを置いて火を眺めている時間が長くなる。テレビの前の晩酌より、ゆっくり、少なく、深く飲むようになる。お酒との付き合い方を穏やかにしたい方に、冗談ではなく、薪ストーブをおすすめしたいくらいです。(火を見ると落ち着く理由は、こちら。)
締めの白湯まで、天板で
そして、飲んだ夜の締めは、天板の鉄瓶の白湯を一杯。アルコールで失われがちな水分を補って、体をいたわってから布団へ。湯気の立つ白湯をすすりながら、消えかけた熾火を眺める。この静けさまでが、火のそばの晩酌です。晩酌の始まりから締めまで、薪ストーブ一台が面倒を見てくれます。(白湯の話は、こちら。)
いい夜を、積み重ねる家
岩手・盛岡のD'STYLEは、ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブの設置をお手伝いしています。炎と一杯の夜が、何百回と積み重なっていく家。おすすめの一台のご相談、いつでもどうぞ。飲むほどに、薪ストーブにしてよかったと思っていただけるはずです。
写真: Tero Karppinen from Finland (Wikimedia Commons, CC BY 2.0)

