薪サウナは、火を入れてから入れるまでに時間がかかります。着火から60分、90分。その待ち時間に何をするか。答えのひとつを、47人を対象にした小さな試験が示していました。
待ち時間という現場の実感
薪ストーブでサウナ室を温めるとき、着火してすぐには入れません。石が十分に熱を持ち、室温が上がってくるまで、早くても60分、しっかり整えたいなら90分は見ておきたい時間です。当社が施主宅にお邪魔してよく聞くのは、「その間、外で薪を割っている」「敷地の草刈りをしている」という話です。段取りとしてそうなっているだけで、健康のためにやっているわけではありません。ただ、この『運動してから入る』という順番に、研究で確かめられた形があることを最近知りました。今日はその話です。
薪サウナを検討される方から、「電気サウナやガスサウナのように、スイッチひとつですぐ入れないのは不便ではないか」と聞かれることがあります。たしかに即効性では及びません。ですが、着火から入室までの時間を『何もしない待ち時間』ではなく『体を動かす時間』として組み込んでいる方が多いのも事実です。薪割り、雪かき、庭の手入れ。冬の岩手ではこの時間帯にやることがいくらでもあります。そうした暮らし方の背景に、今回紹介するような研究があると知ると、日々の段取りの見え方が少し変わってきます。

観察研究とランダム化比較試験の違い
これまで紹介してきたサウナの研究の多くは、長い年月にわたって人々の生活習慣と病気の記録を追いかける「観察研究」でした。サウナに多く入る人と少ない人を比べて、その後の健康状態の差を見る方法です。ただ、この方法では『サウナに入る人はもともと元気だから多く入れる』といった、逆の因果関係が混じる可能性が残ります。今回取り上げるのは、それとは違うタイプの研究です。参加者を無作為(くじ引きのように機械的)にグループ分けして、片方には特定のことをしてもらい、もう片方にはしてもらわない。この方法を無作為化比較試験(RCT)と呼び、原因と結果の関係をより確かめやすいとされています。数の少ないサウナ分野では、このタイプの報告自体が貴重です。
観察研究とRCTのどちらが優れているというより、役割が違うと考えるほうが正確です。観察研究は、実生活に近い大きな集団を長期間追えるという強みがあります。一方でRCTは、介入する条件を厳密にそろえられる代わりに、参加人数や期間はどうしても小さくなりがちです。今回の試験も47人・8週間という規模で、大規模な観察研究とは違う土俵の話だと理解しておくと、結果の読み方が安定します。
47人を3つのグループに分けた8週間
対象になったのは、日ごろあまり体を動かしておらず、かつ血圧や血糖など心臓や血管にかかわる危険因子を1つ以上持つ成人47人(平均49歳、標準偏差9歳)です。この47人を、①運動にサウナを足すグループ、②運動だけのグループ、③特に何もしない対照グループの3つに、ほぼ均等に無作為で振り分けました。運動の内容は週3回、ウォームアップ10分、筋力トレーニング20分、有酸素運動30分という組み合わせで、8週間続けます。①のグループだけ、この運動のあとにサウナを15分追加しました。順番は『運動が先、サウナはあと』です。
この設計で興味深いのは、『運動』という要素を3グループ共通の土台にせず、②と③を比べることで運動そのものの効果を、①と②を比べることでサウナを足した上乗せの効果を、それぞれ切り分けて見ようとしている点です。運動だけでも一定の変化が期待できる中で、そこにサウナ15分を足すことでさらに差が出るかどうかを見る設計になっています。週3回、8週間という頻度と期間も、日常生活の中で無理なく続けられる範囲に収まっています。

血圧はどう動いたか
8週間後、運動にサウナを足したグループは、運動だけのグループに比べて、上の血圧(収縮期血圧)が平均で8.0mmHg低い結果になりました(95%信頼区間マイナス14.6からマイナス1.4)。この信頼区間というのは、真の差がだいたいこの範囲に収まるだろうという統計上の幅のことで、ゼロをまたいでいなければ『差がある』と判断される目安になります。あわせて、血液中の総コレステロールの値も、運動+サウナ群のほうが低い結果でした。出典はLee E、Kolunsarka I、Laukkanen JAらによる論文で、American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology誌に2022年9月に掲載されています(PubMed 35785965)。
8.0mmHgという数字の大きさをどう捉えるかですが、一般に収縮期血圧が数mmHg下がるだけでも、集団レベルでは脳卒中や心疾患のリスク低下と関連づけられることが知られています。ただしそれはあくまで大規模な疫学データに基づく関連であり、今回の47人・8週間という小さな試験の結果を直接そこに結びつけて『病気が減る』と言い切ることはできません。あくまで血圧という指標が、この期間でこれだけ動いた、という事実の紹介にとどまります。
この結果に添えておきたいこと
ここで確かめられたのは『8週間後の血圧やコレステロールという代替の指標』であって、『将来病気になるかどうか』や『命にかかわる出来事が減るかどうか』ではありません。長期の死亡率や心血管イベントを見た研究とは種類が違うものだと理解しておく必要があります。また参加者は47人と少なく、49歳前後という限られた年代のデータです。もっと年齢の高い方や、すでに治療を受けている方に、同じ結果がそのまま当てはまるとは言えません。降圧薬を服用中の方が、この結果をもとに自己判断で薬を減らしたり止めたりするのは危険です。数値の変化がどう自分の体に関係するかは、必ず主治医に確認してください。
また、今回の運動+サウナ群で見られた変化が、『運動』と『サウナ』のどちらの寄与がどれだけかを厳密に切り分けたものではない点にも注意が必要です。②の運動だけのグループとの比較で差が出た、という結果ではありますが、サウナ15分単体の効果を証明したものではなく、あくまで『運動のあとにサウナを足す』という組み合わせ全体としての結果である点を踏まえておきたいところです。

薪と段取りの話として
当社の薪サウナは、着火から入室まで待ち時間があります。この時間に体を動かして、汗ばんできたころに温まったサウナへ入る、という流れは、実は多くの薪サウナユーザーが自然にたどり着いている段取りです。薪割りや庭仕事、あるいは軽い散歩でもいい。研究のように『運動プログラムをこなしてからサウナに入りなさい』と勧めるつもりはありません。ただ、待ち時間を無駄と捉えず、体を軽く動かす時間として使う暮らし方には、こうした報告があることを知っておいて損はないと思います。
実際の施主宅では、着火係と薪割り係を家族で分担しているケースもよく見かけます。子どもが着火の様子を見ている間に、大人が外で薪を割る。あるいは冬なら、その待ち時間で敷地の雪かきを済ませてしまう。いずれも『運動のためにやっている』という意識は薄いはずですが、結果として体を動かしてからサウナに入るという順番が自然にできあがっています。薪サウナという仕組み自体が、こうした段取りを生み出しやすい面があるのかもしれません。

離れの小屋に土間を添える理由
岩手で自宅サウナをつくる際、当社では母屋から少し離れた場所に小屋を建て、その脇に土間や作業スペースを一体で設けることがあります。薪割り台を置いたり、雪かき道具を置いたりする場所です。この土間があることで、着火してからの待ち時間に自然と体を動かす動線ができます。設計段階で『待ち時間に何をするか』まで考えておくと、サウナのある暮らしの質が変わってくる、というのが現場での実感です。
土間の広さや配置は、敷地の形や家族構成によって変わります。薪の保管量が多いご家庭では、土間を薪棚と一体化させて、割った薪をそのまま積んでいける動線にすることもあります。逆に来客が多いご家庭では、土間を軽い談笑スペースとして使えるようベンチを置くこともあります。どちらにしても、『待ち時間をどう過ごすか』という視点を設計段階で共有しておくことが、完成後の使い勝手を大きく左右します。
数字の外側にあるもの
研究の数字は、あくまである集団の平均としての傾向です。8.0mmHgという差も、47人という小さな集団の、8週間という限られた期間の結果にすぎません。それでも、『順番』と『足し算』という、家庭で無理なく再現できる形の話だったので、今回紹介しました。血圧が気になる方、これから運動を始めようという方は、まず主治医に相談したうえで、無理のない範囲で試してみてください。
出典について、公開前に確認いただきたいこと
本記事で紹介したLee E、Kolunsarka I、Laukkanen JAらによる論文(American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology誌、2022年9月掲載、PubMed 35785965)は、社内の検査ツールでは著者名・誌名・PMIDの実在および一致を機械的に検証できていません。数字や表記の転記ミス、あるいは論文情報そのものの誤りが紛れ込む可能性はゼロではないため、公開前に必ずPubMed(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)で該当PMIDを直接検索し、著者名・掲載誌名・掲載年月・要旨の内容が本文の記述と一致しているかを人の目で確認してください。確認が取れるまでは、この記事を公開しないようお願いします。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。出典情報は本ツールでは実在確認ができていないため、公開前にPubMedで人手確認を行ってください。
参照した研究
- Lee E, Kolunsarka I, Laukkanen JA, et al. American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 2022年9月. PubMed 35785965(※本ツールでは実在確認未了。公開前に人手でPubMed確認が必要)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



