健康診断の結果が入った封筒を、開けないまま引き出しにしまう。盛岡の冬、そういう方は少なくありません。CRPという三文字に丸がついている。けれど、痛いところはどこにもない。今日は、その三文字とサウナの回数を、2,269人の血液で11年ぶりに測り直した研究の話をします。数字の読み方と、その数字では言えないことまで。
11年空けて、同じ人の血を二度採った
私たちが読んできた範囲では、サウナと健康の研究の多くは質問紙から始まります。週に何回入りますか。一回どれくらいですか。そう尋ねて、その後に病気になった人を数える。それだけでも気の長い仕事です。ただ、血液そのものを二度追いかけた研究となると、数はぐっと少なくなります。
サウナの研究というと心臓の話が有名ですが、血の中の炎症の指標を長く追った報告は、あまり目にする機会がありません。
今日紹介するのは、フィンランド東部で続けられているKIHDという長期調査から出た報告です。Kunutsor、Laukkanen T、Laukkanen JAの三氏が、2018年にAnnals of Medicineという医学誌に発表しました。
この研究の特徴は、同じ人の血を二度採っていることです。最初に採血をして、そこから11年。もう一度、同じ人に来てもらって採り直す。11年というのは、小学校に上がった子が高校を出るくらいの時間です。その間に引っ越す人もいれば、連絡が取れなくなる人もいる。それでも、2,269人分の血液が並びました。
煙突の点検で、去年の煤と今年の煤を見比べることがあります。一枚の写真ではわからないことが、二枚あると見えてくる。あれと少し似ています。もっとも、煙突は一年ごと。こちらは11年です。

CRPという三文字を、台所の言葉に置き換える
健診の紙に並ぶCRPは、C反応性たんぱくの略です。体のどこかで炎症が起きると、肝臓がこのたんぱくを増やします。炎症というのは、体が何かに反応して熱を持ったり腫れたりする、あの反応のことです。
この研究で測られたのはhsCRP、高感度CRPと呼ばれるものです。ごく少ない量まで拾える測り方で、普通の測り方では動かないような小さな差を見ます。
たとえて言うなら、CRPは火そのものではなく煙です。台所で何かが焦げれば煙が出る。煙の量を見て、どこかで火が起きているらしいと察する。ただし、煙は焦げたパンからも、隣の部屋のストーブからも出ます。歯の炎症でも、風邪でも、けがでも上がる。ですから一度の数字だけでは、どこの火なのかはわかりません。
一緒に測られたのが、白血球とフィブリノゲンです。白血球は、血の中の見張り番にあたる細胞。フィブリノゲンは血を固めるための材料で、止血に関わるたんぱくです。この三つが、今日の主役になります。
もうひとつ知っておきたいのは、この三つが見ているものは少しずつ違う、ということです。同じ方向に動くこともあれば、動かないものもある。今回の結果が、まさにそうでした。
2,269人、42歳から61歳の男性
対象になったのは、フィンランド東部に住む42歳から61歳の男性2,269人です。ここを先に書いておきます。女性は含まれていません。日本人でもありません。
フィンランドの冬と岩手の冬は、寒さの質が違います。食べるものも違う。そして何より、サウナが暮らしに埋め込まれている度合いが違います。あちらでは家にあるのが当たり前で、こちらでは、わざわざ行くもの。同じ週2回でも、その言葉の重さがずいぶん違うはずです。
ですから、この研究の数字を、そのままご自分の体に当てはめることはできません。とくに女性の方、そして70代以上の方については、この研究は何も答えていない、というのが正直なところです。
いっぽうで、42歳から61歳という年齢は、日本で健診の紙が気になり始める年代とちょうど重なります。会社の健診で初めてCRPという文字を見た、という方の多くがこのあたりでしょう。だから、そのまま当てはめられないとわかったうえで、読む値打ちはあると思っています。
そして、この方々は11年後にもう一度、採血に応じています。長く続く調査に協力し続けるというのは、それ自体が特別なことです。そういう人たちの血液である、という点も、頭の隅に置いておきます。
下がっていた数字と、下がっていなかった数字
いよいよ結果です。比べられたのは、サウナが週1回の人と、週4〜7回の人。多変量調整後の値として、次のように報告されています。
hsCRPは、マイナス0.84 mg/L(95%信頼区間 マイナス1.55〜マイナス0.14、p=0.019)。
白血球数は、マイナス0.28×10⁹/L(95%信頼区間 マイナス0.51〜マイナス0.06、p=0.015)。
フィブリノゲンは、マイナス0.07 g/L(p=0.112)で、こちらは有意差なしでした。
言葉を噛み砕きます。多変量調整後というのは、年齢や体格、喫煙や運動といった条件の違いを、計算でできる範囲までならした後の値、という意味です。95%信頼区間は推定の幅。ひとつの数字ではなく、このあたりに収まりそうだという幅で示します。その幅の中にゼロが入らなければ、偶然では説明しにくいと見ます。有意というのは、その偶然では説明しにくいという状態を指す言い方です。
つまり、三つ測って、二つでは差が見られ、一つでは差が見られなかった。フィブリノゲンの推定は、ゼロをまたいでいます。
こういうとき、下がった二つだけを並べて紹介する記事があります。私たちはそれをやりません。三つのうち一つは動かなかった。それも含めて、この研究が報告した内容です。
もうひとつ。マイナス0.84 mg/Lという差が、体にとってどれほどの意味を持つのかは、この数字だけからは決められません。集団を並べたときの差であって、誰か一人の血液がその分だけ動く、という意味ではないからです。健診の紙に書かれたご自分の値から、この数字を引き算しても、何かがわかるわけではありません。

週4回という区分は、研究が見つけた境目ではありません
ここが、この手の記事でいちばん間違えられやすいところです。
週1回、週2〜3回、週4〜7回。この区分は、研究者が集計を始める前に決めた枠です。データを見て、週4回のところに境目があった、と発見したわけではありません。
雪かきで考えてみます。一冬の雪かきを、一日1回の人、2〜3回の人、4回以上の人に分けて数えたとします。集計は取れます。けれど、体の変わり目がちょうど4回目にあるかどうかは、その集計からはわかりません。分け方を先に決めただけだからです。
ですから、週4回を超えると炎症が下がる、という読み方は、この研究からは出てきません。正しくは、研究者が決めた週4〜7回という枠に入っていた人たちは、週1回の枠の人たちと比べて、hsCRPと白血球数が低かったと報告されている。それだけです。3回ではどうか、5回ではどうか、という問いには、この区分は答えていません。
ものさしの目盛りは、測る前に引かれている。当たり前のことですが、数字だけを切り取ると、この当たり前が抜け落ちます。
なぜ、サウナのおかげと言い切れないのか
この研究は観察研究です。後から見比べた研究、と言い換えられます。くじ引きで、あなたは週4回、あなたは週1回、と割り振ったのではありません。それぞれが自分で選んだ暮らしを、後から並べて比べている。
すると、こういう可能性が残ります。よくサウナに入る人は、そもそも運動もしているかもしれない。時間に余裕のある働き方をしているかもしれない。たばこを吸わない人が多いかもしれない。そちらのほうが数字に効いていた、という説明を消せないのです。
研究者はこの点を隠していません。運動習慣や喫煙といった生活全体の違いが背景にある可能性は排除できない、と述べています。統計で調整はしても、そもそも測っていない違いまでは調整できないからです。
ですから、この記事で書けるのもここまでです。サウナによく入っていた人たちで、hsCRPと白血球数が低かったと報告されている。サウナに入れば数字が下がります、とは書けません。観察研究は、原因と結果を示すものではないからです。
火のついた薪ストーブの前に座っている人が健康そうに見えたとして、ストーブのおかげとは限らない。そういう話です。
盛岡で週4回、冬道を30分
ここからは、私たちが岩手で見てきた範囲の話です。
盛岡から公共のサウナ施設まで、冬道で30分ということが珍しくありません。除雪の入っていない朝は、もっとかかる。往復で1時間、着替えと入浴と休憩を足せば、半日仕事です。夕方に行けば駐車場が埋まっていて、待つ時間も要ります。
これを週4回。現実には、なかなか難しいと思います。お客様と話していても、冬場は週1回がやっと、という声が多い。仕事帰りに寄れる方は恵まれているほうで、雪が降れば予定はすぐ崩れます。
岩手のサウナは、この十年でずいぶん増えました。良い施設もできました。それでも、冬に通うということの重さは変わりません。玄関前の雪を片づけてから車を出す。帰ってきたら、また積もっている。通うこと自体が、ちょっとした運動になっているとも言えます。
この研究が記録したのは、週に何回入ったか、という頻度です。家にサウナがあるのが当たり前の土地では、週4回は特別な努力ではないのかもしれません。けれど岩手で同じ回数を作ろうとすると、雪と距離と時間が間に入ります。数字を読むときは、その距離ごと読んだほうがいい、と思っています。

家にあると、回数の設計が変わる
これも効能の話ではなく、回数の話としてお読みください。
自宅にサウナを納めたお宅では、入る回数が変わります。移動がゼロになるからです。廊下を歩いて扉を開ければそこ、という距離になると、今日はやめておこうの理由が減る。私たちが引き渡しの後にうかがった範囲では、施設に通っていた頃より回数が増えたという声のほうが多く聞かれます。
ただし、正直に書いておきます。薪のサウナストーブは、火をつけてから温度が上がるまでに時間がかかります。焚きつけを組んで、火を入れて、様子を見る。この手間があるぶん、毎日というわけにはいきません。電気のヒーターならスイッチひとつですが、そのかわり、火の揺れはない。どちらが良いという話ではなく、回数の作り方が違う、ということです。
そして、ここが大事なところです。回数が増えたからといって、それが体の数字にどう関わるのかは、この研究からは言えません。フィンランドの中年男性2,269人で報告された関連が、盛岡のあなたの血液で同じように出るとは限らない。回数の話は回数の話、血液の話は血液の話として、切り分けておきます。

それでも、無理はしないこと
年配のご家族について、うちの父にサウナはどうだろう、という相談を受けることがあります。そのときにお伝えしていることを、いくつか書いておきます。
まず、持病のある方、薬を飲んでいる方は、必ず主治医にご相談ください。血圧の薬や心臓の薬を飲んでいる方は、とくにそうです。研究の数字より、目の前の先生の言葉のほうが、あなたの体に近いところにあります。
体調が悪い日は入らないこと。お酒を飲んだあとは入らないこと。温度は高ければ良いというものではありません。のどが渇く前に水を飲むこと。そして、家族が家にいる時間に入ること。ひとりきりの時間に高温の部屋に入るのは、避けたほうが安心です。
冬の岩手では、熱い部屋と冷たい脱衣所の温度差も気にかかります。私たちが施工でいちばん時間をかけるのは、実はサウナ室そのものより、そこから出た先の温度です。断熱と暖房、脱衣所の位置。図面の上で、いちばん手を入れるのはそこ。
サウナは、健診の数字を直しにいく道具ではありません。11年かけて集められたあの血液が教えてくれるのは、そういう暮らしをしていた人たちがいた、というところまでです。そこから先は、雪を掻いて、火を焚いて、自分の冬を過ごすほかありません。
最後に、私たちの仕事の話を数行だけ。有限会社D'STYLEは盛岡・国道4号沿いで、薪サウナストーブ、ペレットサウナ、電気ヒーターの屋内サウナ室の設計と施工をしています。ハルビアのレジェンド150のような鋳物と鋼板の薪ヒーターから、浴室の隣に納める屋内サウナまで、家の間取りと岩手の冬の寒さに合わせて図面から相談に応じます。石は熱をためて長くやわらかく放し、鋳物は火の当たりが柔らかい。設置をお考えの方は、ショールームで実際の熱を体感してからお決めください。研究の数字ではなく、ご自分の体の感じ方で選ぶのがいちばんです。
持病のある方、薬を飲んでいる方は、導入の前に主治医にご相談ください。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kunutsor SK, Laukkanen T, Laukkanen JA. Annals of Medicine, 2018(フィンランド東部のKIHDコホート。42〜61歳の男性2,269人で、ベースラインと11年後に採血。週1回に対し週4〜7回では多変量調整後にhsCRPがマイナス0.84 mg/L、95%CI マイナス1.55〜マイナス0.14、p=0.019。白血球数がマイナス0.28×10⁹/L、95%CI マイナス0.51〜マイナス0.06、p=0.015。フィブリノゲンはマイナス0.07 g/Lで有意差なし、p=0.112)
- 上記は観察研究であり、サウナと各指標の因果関係を示したものではありません。対象はフィンランドの中年男性のみで、女性および日本人は含まれていません。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



