サウナの研究というと、心臓の話ばかりが有名になりました。けれど、フィンランドには肺炎を四半世紀追いかけた報告があります。しかもその報告が面白いのは、サウナ単独の数字ではなく、体力とサウナを重ねた数字を出しているところ。どちらか一方ではなく、両方。岩手の冬の暮らしと並べながら、数字と、その限界を、ゆっくり読んでいきます。
雪かきの朝、息が上がる
盛岡の冬の朝です。玄関の戸を開けると、ひと晩でまた積もっている。スコップを持って外に出ます。
最初の十分は、ただ寒い。次の十分で背中に汗がにじみます。三十分もすれば、上着を一枚脱ぎたくなる。息は白く、確かに上がっています。
この「息が上がる」が、今日の話の入り口です。
サウナの研究というと、心臓や血圧の話ばかりが有名になりました。ですが、フィンランドには肺炎を26年追いかけた報告があります。しかもその研究は、サウナ単独の数字だけでなく、体力とサウナを組み合わせた数字を出している。
「サウナに入っているから大丈夫」でもなく、「運動しているから大丈夫」でもない。二つを重ねた群が、いちばん低かった、という報告です。
ここから先は、数字を丁寧に見ていきます。専門の言葉が出てきたら、その場で言い換えを添えます。急がずに読んでください。数字そのものより、数字の読み方のほうが、たぶん役に立ちます。

2,275人を、26年
Kunutsorらが2021年に European Journal of Clinical Investigation という医学誌に報告した研究です。
対象はフィンランドの男性2,275人。平均53歳。中央値で26.6年の追跡です。中央値とは、真ん中の人がこれくらい、という値のこと。平均とは少し違って、極端に長い人や短い人に引っぱられにくい数字です。
その期間に、肺炎が529例。
四半世紀。生まれた子が社会人になるほどの時間、同じ人たちを追いかけて記録し続けたことになります。簡単なことではありません。
ここで使われるのがハザード比という数字です。リスクの比、と読み替えてください。1.00なら差なし。0.75なら、比べた相手より25パーセント低かった、という意味になります。
もう一つ、95パーセント信頼区間。推定の幅です。その数字がどれくらいブレうるかを表します。この幅が1.00をまたいでいなければ、偶然では説明しにくい差――専門用語で有意――として扱われます。またいでいれば、偶然の範囲かもしれない、となる。
私たちは点の数字ばかり見てしまいますが、大事なのは幅のほうです。ここを見る癖がつくと、健康情報の見え方が変わります。
体力の群と、サウナの群
まず、それぞれ単独の数字から。
心肺体力が高い群は、ハザード比0.75。95パーセント信頼区間は0.61から0.91。心肺体力とは、息が上がる動きをどれだけ続けられるかという力のことです。
サウナに週2回から7回入る群は、0.81。信頼区間は0.68から0.97。
どちらも幅が1.00をまたいでいません。ただし、サウナ単独の0.81は、上の端が0.97です。1.00のすぐ手前。ぎりぎり、と言っていい数字です。ここは正直に書いておきます。都合のいいところだけ太字にしたくないので。
そして、もう一つ大事なこと。
「週2回から7回」という区切りは、研究者が調べる前から決めておいた分け方です。データを見てから「週2回に境目が見つかった」と発見したわけではありません。ここを取り違えると、「週2回が分かれ目」という話だけが独り歩きします。
区切り方を変えれば、数字も変わります。研究の数字は、そういう性格のものです。
なお、この2021年の報告がどこまでの要因を差し引いた値なのか、私が確認した資料には書かれていませんでした。書かれていないことは、書けません。
いちばん低かったのは、両方の群
この研究の面白いところは、ここからです。
心肺体力が高く、かつサウナに週2回から7回入る群。この人たちを、体力が低くサウナが週1回以下の群と比べると、ハザード比0.62。信頼区間は0.48から0.80でした。
0.75でもなく、0.81でもなく、0.62。
ただし、注意が要ります。この0.62は、比べる相手が先ほどの二つとは違います。「体力が低く、サウナも少ない人たち」を基準に置いたときの数字です。ですから、0.75と0.81を掛けたり足したりして出てくる数ではありません。基準が違えば、数字の意味も違う。
片方だけを満たす群がどうだったか、という細かい表まではここでは触れません。私が確認できた数字だけを並べています。
それでも、この研究の骨は伝わると思います。どちらか一方ではなく、両方。
運動の代わりにサウナ、という形ではなかった。少なくとも、この報告はそういう並びになっていました。

その4年前にも、肺炎の報告があった
同じ研究グループは2017年、Respiratory Medicine という医学誌にも肺炎の報告を出しています。
フィンランドの男性2,210人。中央値25.6年の追跡で、肺炎375例。週1回以下に対して、週2回から3回はハザード比0.67、週4回以上は0.53。こちらは年齢を調整した値として報告されています。調整とは、年齢の偏りが結果に混ざらないよう、計算で差し引いておくこと。
この二つの報告は、フィンランド東部の同じ研究基盤から出ています。
ですから、2021年の529例と2017年の375例を足して「合わせて900例あまり」と読むことはできません。対象者が重なっている可能性がある。入れ子になった数え方だと思ってください。
研究を並べるときに、いちばんやりがちな誤りがこれです。数が多いほうが強そうに見えるので、つい足したくなる。足せません。
もう一つ。2017年の0.67と0.53については、信頼区間――先ほどの推定の幅――が私の手元の資料にありませんでした。幅が分からない数字は、点だけで強く語れません。これも書き添えておきます。
この研究が言っていないこと
今日いちばん大事な節かもしれません。
一つ。これは観察研究です。後から見比べた研究、という意味です。サウナによく入る人と、そうでない人。体力の高い人と、低い人。もともとの暮らしぶりが違います。よく歩く、たばこを吸わない、仕事や住まいの条件も違うかもしれない。そうした違いが結果に混ざっている可能性を、この形の研究では消しきれません。
ですから、サウナが肺炎を減らした、とは言えない。関連が報告された、まで。ここは何度でも書きます。
二つ。対象はフィンランドの中年男性だけです。女性は入っていません。日本人でもありません。体格も、冬の過ごし方も、住まいの造りも違います。数字をそのまま自分の上に貼り付けることはできない。
三つ。フィンランドの家庭でのサウナは、日本の一般的な入浴習慣とは前提が違います。頻度という言葉の意味も、暮らしの中での位置づけも同じではありません。
きれいな数字を見ると、人はそこで読むのをやめてしまいます。むしろ、ここから先が読みどころだと思っています。
岩手の心肺体力は、ジムの外で作られている
ここからは、私たちが見てきた範囲の話です。研究に書かれていることではありません。
岩手で心肺体力を持っている方は、たいていジムに通っていません。雪かきと、薪割りです。
盛岡の冬。玄関から道路までの十数メートル、屋根から落ちた雪の山、車のまわり。一回三十分として、それが一冬に何十回。降った翌朝は、頼まなくても体が動きます。
薪はもっと長い仕事です。原木を運び、玉切りにし、割って、積む。積んだものを冬にまた家へ運ぶ。春から秋まで、断続的に体を使い続けます。一日で終わる作業ではありません。
当社のお客様には、薪ストーブの薪づくりとサウナが一続きになっている方が実際にいらっしゃいます。午前に薪を割って、午後にサウナへ火を入れる。同じ薪棚から、両方の火が出ていく。
研究が言う「両方」の群が、岩手の暮らしではもともと成立しやすい。そう感じることがあります。
もちろん、これは私たちの実感であって、データではありません。そこは区別して読んでください。

けれど、動かない冬も増えている
逆の話も書いておきます。
車社会です。冬は特に。玄関からガレージ、ガレージから職場の駐車場。歩く距離は、夏よりむしろ短くなります。除雪機を入れたお宅では、スコップを持つ回数も減りました。楽になった分だけ、体を動かす機会は確かに減っている。
それに、雪かきは誰にでも勧められる運動ではありません。
寒い朝に、いきなり力を出す作業です。心臓に負担がかかることは以前から言われてきました。血圧の薬を飲んでいる方、心臓に持病のある方は、無理をなさらないでください。この点は、研究の話とは切り離して、はっきり書いておきます。
体力の話を「もっと動きましょう」で締めたくないのです。年齢も持病も人それぞれ。どこまでなら安全かは、数字ではなく、その人を診ている先生が知っています。まずは主治医にご相談ください。
サウナも同じです。体調の悪い日には入らない。熱い段でいきなり我慢しない。当たり前のことですが、当たり前が守れる日ばかりではありません。

週2回を、どうやって作るか
最後に、頻度の話をします。効き目の話ではなく、回数の話です。
盛岡から公共のサウナ施設まで、冬道を車で往復する。着替えと移動と待ち時間を足すと、半日仕事になります。週1回でも、続けるのは簡単ではありません。ましてや二月の吹雪の朝に。
自宅にサウナがあると、この計算が変わります。火を入れて温まるまでの時間はかかります。薪サウナならなおさら。それでも、移動がゼロになる。その差は、思っているより大きいものです。
当社は岩手・盛岡で、屋内のサウナ室から、庭に置くバレルサウナまで設置しています。ハルビアの薪サウナストーブ――レジェンド150やレジェンド300、小さめのエム3など――を据えることもあれば、ペレットのVENEREを選ぶこともあります。石をたっぷり載せた薪のヒーターは蓄熱が効いて、熱の当たりがやわらかい。電気のヒーターは温度が一定で、扱いが楽です。どちらがおすすめかは、暮らし方と敷地と、火との付き合い方次第。
そして、繰り返します。今日紹介した研究が報告したのは関連であって、効き目ではありません。持病のある方、薬を飲んでいる方は、主治医に相談してから。
雪かきのあとの、あの息。あれを一冬に何度くり返すか。研究の数字より、そちらのほうが、たぶん暮らしに近い話です。
四半世紀という時間を、フィンランドの研究者は淡々と数え続けました。そこから出てきたのは、どちらか一方ではなく両方、という地味な形でした。派手な話ではありません。雪かきの朝の息と、夕方に入れる火。その二つが同じ冬の中にあること。岩手の暮らしは、案外そういう風にできています。/本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。ご紹介した研究はいずれも観察研究などであり、因果関係を示したものではありません。持病のある方、お薬を飲んでいる方、体調のすぐれない日は、必ず主治医にご相談ください。
参照した研究
- Kunutsor SK, Jae SY, Laukkanen JA. European Journal of Clinical Investigation, 2021(フィンランド男性2,275人・平均53歳・中央値26.6年追跡・肺炎529例。心肺体力高値 HR 0.75[95%CI 0.61〜0.91]、サウナ週2〜7回 HR 0.81[95%CI 0.68〜0.97]、両方を満たす群 HR 0.62[95%CI 0.48〜0.80])
- Kunutsor SK ほか. Respiratory Medicine, 2017(フィンランド男性2,210人・中央値25.6年追跡・肺炎375例。週2〜3回 HR 0.67、週4回以上 HR 0.53/年齢調整)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



