フィンランドの森を歩くと、足の下がふかふかとやわらかいことに驚きます。地面をおおっているのは、厚く積もった苔です。針葉樹の木立のあいだ、岩の上、倒れた木の上まで、みずみずしい緑の苔がびっしりと広がっている。この苔の森は、フィンランドの自然を象徴する風景のひとつです。今日は、北欧の森を静かに支える、苔の話をします。
森の床を、苔がおおう
フィンランドの森の地面は、日本の森とは少し様子が違います。落ち葉が積もるというより、分厚い苔の層がやわらかい絨毯のように大地をおおっている。この苔は、しっとりと水をたくわえ、雨のあとには手ですくえるほどたっぷりとふくらみます。踏むとふわりと沈み、足音を吸い込んでしまう。森全体がしんと静まりかえっているのは、この苔が音までやわらかく受けとめているからです。北欧の森の深い静けさは、苔がつくっているのです。
トナカイを養う、白い苔
苔の中でも、ラップランドの乾いた森に広がる白っぽい地衣類は、トナカイの大切な食べものです。雪の下に埋もれたこの苔を、トナカイは鼻や前足で雪を掘り起こして食べ、長い冬を生きのびます。人の目には地味な苔が、北の大きな生きものの命を支えている。森のすべてが、目に見えない糸でつながっている。苔むす森を歩くと、その静かなつながりの深さが、じんわりと伝わってきます。
湿原スオと、泥炭の大地
苔のやわらかな森とならんで、フィンランドの自然を語るうえで欠かせないのが、湿原スオです。水を多くふくんだ低地に水苔がぶあつく積もり、長い年月をかけて泥炭へと姿を変えていく。フィンランドは国土の三分の一ほどが、こうした湿原や泥炭地だといわれます。夏には綿のような白い穂をつけた草が風にゆれ、こけももやクラウドベリーが実る。水苔がためこんだ水と、ゆっくり積もる泥炭は、森の水をたくわえ、大地の呼吸をととのえてきました。目立たない苔の営みが、北の国の風景そのものを、静かにかたちづくっているのです。
森の恵みを、少しだけ分けてもらう
フィンランドには、だれもが森に入り、きのこやベリーを摘んでよいという自然享受権という考え方があります。人々は苔の森に分け入り、季節の恵みを少しだけいただく。森は所有するものではなく、みなで分かち合い、大切に使うもの。苔をふみしめ、木々の香りを吸い込み、鳥の声を聞きながら歩く時間は、それだけで心の疲れをほどいてくれます。森に身を置くことそのものが、北欧では暮らしの一部なのです。
岩手の森の、苔と木々
岩手にも、苔の美しい森があります。奥羽山脈のふもとや渓流のそば、湿り気の多い木立には、しっとりとした苔が広がっています。北欧の森と岩手の森は、緯度も木の種類も違いますが、森に入ったときの深い安らぎはよく似ています。苔の緑を目で追い、木の幹に手をふれ、澄んだ空気を胸いっぱいに吸う。苔の緑は、季節や天気によってしっとりと色を変え、同じ森でも訪れるたびに違う表情を見せてくれます。足もとの小さな緑に目をとめて歩けば、見なれた森が、まるで初めて訪れた場所のように新鮮に映ります。そんな森の時間のあとに火のそばへ戻ると、体の芯からゆるんでいくのが分かります。
森の安らぎを、火のそばへ
森を歩いて心をほどき、火のそばで体をあたためる。この組み合わせは、北欧でも岩手でも、変わらない幸福のかたちです。岩手・盛岡のD'STYLEは、薪ストーブやハルビアのサウナヒーターで、森の安らぎを家の中まで連れて帰る暮らしをご提案しています。森と火の話も、店でどうぞ。
写真: Jacek Rużyczka (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



