薪ストーブを設置したお宅に、後日おじゃますると、面白いことに気づきます。よく使われている家のストーブの前には、必ずと言っていいほど、「定位置」ができているのです。使い込まれた椅子、たたんだ毛布、手の届くところに小さな台。今日は、この「ストーブ前の特等席」のつくり方の話です。道具はささやかですが、ここが家でいちばん愛される一角になります。

椅子は、炎に向ける
基本にして最大のコツは、椅子の向きです。テレビにではなく、炎に向ける。たったこれだけで、部屋の主役が入れ替わります。椅子は、深く沈むソファより、少しだけ背を起こせる一人掛けが向いています。火の世話に立ちやすく、本も読みやすい姿勢だからです。ロッキングチェアは、火の前の王様。あのゆらゆらのリズムと炎のゆらぎの相性は、昔の人がよく知っていたとおりです。距離は、輻射熱が「あたたかい」と「熱い」の間になるあたりを、実際に座って探してください。冬の深まりとともに、椅子が少しずつストーブに近づいていくのは、薪ストーブの家の風物詩です。
手の届くところに、小さな台
特等席には、小さなサイドテーブルか、スツールをひとつ。湯のみ、本、眼鏡、ときどき燗酒。火の前の時間は長くなるので、立たずに済む半径一メートルをつくっておくと、居心地が段違いです。薪ストーブの天板が使える機種なら、そこがそのまま、湯を沸かす台にも、お茶をあたため直す台にもなってくれます。籠をひとつ置いて、毛布と読みかけの本の住所にするのもいい。片付けが要らない場所は、使われる場所になります。(火のそばの読書の話は、こちら。)
火のそばは、家の重心だった
火の前に特等席ができるのは、実は、とても古い人間の習性です。かまど、囲炉裏、暖炉。どんな時代のどんな家でも、火のあるところが、家族の集まる重心でした。英語で家庭のぬくもりを表すハースという言葉は、もともと炉床を指します。北欧やデンマークで大切にされる「ヒュッゲ」というくつろぎも、火のそばの時間と切り離せません。人はなぜ、炎を見ると落ち着くのか。ゆらめく火のリズムが、心拍をゆるめ、気持ちを鎮めてくれるからだと言われています。特等席をつくるとは、この何万年もの安心を、現代の暮らしにもう一度呼び戻すことなのです。
灯りは、低く、小さく
夜の特等席の灯りは、天井の照明を消して、手元だけを照らす小さなスタンドが正解です。部屋が暗いほど、炎は美しくなる。読書灯は本のページだけを照らし、あとの明かりは火に任せる。電球の色も、昼白色より、炎に近いあたたかな電球色を選ぶと、火とけんかしません。この照明の引き算が、ストーブの部屋を、いちばんいい顔にします。(暗さと火の話は、こちら。)
足元と、膝の上
仕上げは、布ものです。膝掛けの毛布、足元の小さなラグ、それにクッション。輻射熱は正面からやってきますから、背中側には一枚あると完璧です。冷えは足元から来るので、厚手の靴下やムートンのスリッパがあると、つま先までぽかぽかに満たされます。そして最後の仕上げは、猫か犬が勝手にやってくれます。膝の上か、足元のラグの上か。特等席の最終権利者は、たいてい四本足です。(ペットと薪ストーブの話は、こちら。)
あなたの特等席から、始まる
岩手・盛岡のD'STYLEは、ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブの設置をお手伝いしています。ご相談のときは、ストーブの機種だけでなく、「どこに座って、何をして過ごしたいか」を、ぜひ聞かせてください。特等席から逆算するご提案が、私たちのおすすめです。
写真: Arto J (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)




