六月の第二土曜、盛岡近郊の路を、色鮮やかに着飾った馬たちが行進します。チャグチャグ馬コ。滝沢の蒼前神社から盛岡八幡宮まで、百頭近い馬が鈴を鳴らして歩く、国の無形民俗文化財の祭りです。チャグチャグという祭りの名は、あの鈴の音から。今日は、この祭りの背景にある、馬と暮らした家の話です。

祭りの正体は、馬への感謝
チャグチャグ馬コは、見世物ではなく、感謝の祭りです。農耕馬に一年の労をねぎらい、馬の守り神である蒼前様に無病息災を祈る。着飾らせるのは、わが子の晴れ着と同じ心です。南部地方は古くから馬産地で、馬は農耕に、運搬に、軍馬に、暮らしの根幹を支える存在でした。だからこの土地の人は、馬を家畜と呼ぶより、家族として遇したのです。
鈴の音は、日本の音風景に
祭りの日は、滝沢の鬼越蒼前神社を朝に発ち、盛岡八幡宮までおよそ十四キロを、四時間ほどかけて練り歩きます。馬の数は百頭近く、一頭にいくつもの鈴と、赤や金の華やかな装束をまとわせて。この行列が鳴らすチャグチャグという鈴の音は、一九九六年、環境庁(当時)の「残したい日本の音風景百選」に選ばれました。日本中の音の名所の一つに、岩手の馬の鈴が数えられているのです。梅雨のあいまの晴れた土曜、鈴の音が近づいてくると、沿道の人の顔が自然とほころびます。
南部は、名馬を育てた土地
そもそも南部の地は、古くから知られた名馬の産地でした。南部馬は体が丈夫で粘り強く、朝廷や武家に献上され、戦国の世には軍馬として重んじられました。馬を育てる文化は、遠野の民話にも深く根を張っています。遠野物語で知られるオシラサマは、娘と馬の悲しい恋の物語から生まれた神とされ、馬がいかに人の暮らしと心に近い存在だったかを、今に伝えています。人と馬の縁の深さが、この土地の伝承の底に、静かに流れているのです。馬を大切にする心は、言葉の端々にも残っています。この地方では、幼い子を親しみを込めて呼ぶように、かわいいものに「コ」をつける。チャグチャグ馬コの「コ」も、その愛情の呼び名です。祭りで着飾らせる装束や鈴は、家々で母や祖母が手作りしてきたもので、代々受け継がれる家宝でもありました。馬を家族と呼んだ土地の情は、こうして道具にも、言葉にも、しっかり編み込まれてきたのです。
曲り家は、馬と住むための建築
その象徴が、南部曲り家です。L字に曲がった茅葺きの家。曲がった部分は馬屋(まや)で、人の住まいと馬の住まいが、一つ屋根の下で直結しています。理由は、岩手の冬。馬を寒さから守るため、そして囲炉裏の暖気が馬屋にも届くように、人と馬は同じ家に住みました。囲炉裏の火は、人と馬を一緒に暖めていたのです(囲炉裏の話)。土間越しに馬の気配を感じながら眠る暮らし。遠野ふるさと村や県内の保存曲り家で、今もその空間に立てます。馬の顔がのぞく窓の高さに、家族としての距離感が残っています。
火のそばに動物がいる家の、系譜
気づいた方もいるでしょう。ストーブの前の特等席を犬猫が占領する現代の光景(こちら)は、曲り家の直系の子孫です。火のそばに、人と動物が一緒にいる。この家の形を、岩手は何百年もやってきました。ペットと薪ストーブの家は、実はこの土地の伝統的な間取りの、現代版なのです。六月、鈴の音の行進を見かけたら、思い出してください。あの祭りは、火のそばで動物と暮らしてきた土地の、感謝の音です。
家族全員の、火を
岩手・盛岡のD'STYLEは、二本足にも四本足にもやさしい火の家をお手伝いしています。曲り家の知恵の続きを、あなたの家で。ご相談、いつでもどうぞ。



