同じ部屋に、同じ時間、同じ回数。それでも、ご夫婦のどちらかが先に出ていきます。サウナの打ち合わせで必ず出るこの話に、2021年の一つの報告が別の角度から光を当てました。女性は汗腺、男性は血流。順応の道筋そのものが分かれていた、という報告です。人数の少なさも、温度条件の高さも含めて正直に読みます。そして最後は、盛岡でサウナ室を作る側の話に下ろします。

同じ部屋で、片方だけが我慢している
十二月の盛岡は、夕方の五時にはもう外が暗くなります。玄関先の灯りに、細かい雪が斜めに流れる。二軒先で除雪機の音が鳴っている。そんな夜に、ご夫婦でサウナに入る。岩手では、そう珍しくもない光景になりました。
ところが、十分ほど経つとたいてい同じことが起きます。奥さまが「もう出るね」と腰を上げ、ご主人が「まだ早いよ」と座り直す。扉が一度開いて、室温がすとんと落ちる。残された側が、ほんの少しだけ不機嫌になる。
打ち合わせの席でこの話をすると、多くのご夫婦が笑います。うちもそうです、と。そして決まって、どちらが我慢するかという話になります。もう少し我慢できないのか、そんなに熱くしなくてもいいだろう、と。
ただ、その差は根性の問題ではないのかもしれません。そう思わせる報告が、2021年に出ています。同じ部屋に、同じ時間、同じ回数入った若いランナーたちの体を、男女に分けて測った研究です。結果は、はっきり分かれました。女性と男性とで、体が選んだ順応の道筋そのものが違っていた。
順応というのは、繰り返すうちに体が慣れていくことです。この記事では、その分かれ方を丁寧に読みます。読んだあとで、では自宅のサウナ室をどう作るか、というところまで下ろすつもりです。数字の話で終わらせても、雪の夜には役に立ちませんから。

まず条件から——26名、101〜108℃、3週間
研究を紹介するときは、結果より先に条件を書くようにしています。条件を飛ばした数字は、たいてい一人歩きするからです。「サウナで持久力が上がる」という一行だけが残って、何度の部屋に何分入った話なのかは誰も覚えていない。そういうことが本当に起きます。
出典は、Kirby NV ほかによる Sports Medicine - Open 誌の2021年の報告です(PMID 34297227)。対象は中距離ランナー26名。内訳は、サウナ群が女性16名・男性10名、対照群が女性7名・男性8名と報告されています。平均年齢は19±1歳。対照群というのは、比べるために、同じ期間サウナに入らずに過ごした人たちのことです。
お気づきの方もいると思いますが、内訳を足すと、報告されている26名という総数とは合いません。ここでは報告された数字をそのまま並べておきます。無理に辻褄を合わせて書き直すより、そのほうが誠実だと考えました。いずれにせよ数十名規模の研究であること、それ自体がこの記事のいちばん大事な但し書きです。
サウナの条件は、101〜108℃。1回29±1分。週3±1回。それを3週間続けて、累計およそ275分。すべて運動のあとに入っています。
温度で目が留まった方が多いはずです。101〜108℃は、日本の施設や自宅サウナで一般的な設定より高い。この記事の結果を読むときは、その前提を頭の隅に置いてください。私たちも、お客さまのサウナ室をこの温度帯で設計することはまずありません。
なお、この研究の条件に水風呂や外気浴が含まれていたかどうかは、報告からは分かりません。含まれていなかった、とも書けません。分からないことは、分からないままにしておきます。
女性は、汗の出口が57%増えた
女性で動いたのは、汗でした。
前腕——ひじから手首までの部分です——の活動汗腺数が、3週間で57%増えたと報告されています(p<0.001)。活動汗腺数とは、汗の穴のうち、実際に汗を出している穴の数のこと。皮膚にある汗腺の全部が、いつも働いているわけではありません。休んでいた穴が、熱を繰り返し受けるうちに動き出す。そういう変化です。
p<0.001というのは、この差が偶然だけで起きたとは説明しにくい、という意味の目安です。小さいほど偶然では説明しにくくなります。有意、という言い方をすることもあります。偶然では説明しにくい差、と読み替えていただければ十分です。
一方で、女性の前腕の血流は変わりませんでした(p=0.61)。こちらは、偶然の範囲を出なかった、と読みます。都合の良いほうだけ書くわけにはいきませんので、並べて置いておきます。
汗が増えると、何が起きるのか。汗そのものが体を冷やすのではありません。汗が蒸発するときに、熱を持っていきます。打ち水と同じ理屈です。夏の夕方、玄関先に水をまくと、水が乾いていく過程で足元がすっと涼しくなる。あれが皮膚の上で起きています。
つまり女性の体は、蒸発で熱を逃がす側の能力を伸ばした。そう読める結果でした。
ひとつ線を引いておきます。57%というのは、前腕という一か所で数えた汗腺の数の話です。全身の汗の量が57%増えた、という意味ではありません。研究は測った場所のことしか言っていない。ここを広げて読むと、たちまち事実から離れます。
男性は、腕を流れる血が123%増えた
男性で動いたのは、血でした。
前腕の血流が123%増えたと報告されています(p<0.001)。倍以上です。前腕血流とは、その部分を流れる血の量のこと。体の中心で温まった血を、皮膚の近くまでたくさん運べば、そこから外へ熱が逃げていきます。
冬の朝、薪ストーブに火を入れると、まず本体が温まり、それから部屋の空気が動きはじめます。ストーブの前だけ暑くて、廊下はまだ冷たい。熱は、運ばれてはじめて行き渡り、逃げていく。血流はその運び役です。
そして男性では、汗腺数は変わりませんでした(p=0.47)。こちらも、偶然の範囲を出なかった、という読み方になります。
同じ部屋、同じ29分、同じ週3回。それでも、女性は蒸発で逃がす道を、男性は運んで逃がす道を選んだ。少なくともこの26名では、そう分かれたと報告されています。
ここは慎重に書きます。なぜ分かれたのかまでは、この研究は答えていません。ホルモンの違いだ、体格の違いだ、皮膚面積の違いだ、といった説明を私たちが足すことはできます。もっともらしく読めるでしょう。ただ、それは出典に書かれていないことです。ここでは、分かれたという事実だけを持ち帰ってください。
私たちが見てきた範囲では、ご夫婦でサウナに入られた方から「汗の出方がまるで違う」というお話をよく伺います。ただしそれは現場で聞く話であって、この研究の裏づけではありません。感想と結果は、混ぜないでおきます。
道筋は分かれ、着地点はそろった
では、持久力の面ではどうだったのか。
心拍数の低下は、両性とも−9拍/分。VO2maxの改善は、両性とも+5%(p=0.02)。ここは同等だったと報告されています。
VO2maxは最大酸素摂取量のことです。1分間に体へ取り込める酸素の最大量で、持久力の目安として使われます。走る力そのものではなく、走る力を支える土台の広さ、くらいに思ってください。
道筋は分かれたのに、着地点はそろった。ここがこの研究のいちばん面白いところだと思います。汗で逃がしても、血で逃がしても、3週間後に測った持久力の指標は同じくらい動いていた。体には、目的地へ行くための道が一本ではないらしい。
同時に、都合の悪い数字も並べておきます。女性の前腕血流は動かず(p=0.61)、男性の汗腺数も動かなかった(p=0.47)。つまり「熱を繰り返し受ければ、あらゆる能力が伸びる」という話ではありません。伸びた場所と伸びなかった場所が、性別によって入れ替わっていた。それだけです。
+5%という数字も、そのまま「タイムが5%縮む」という意味ではありません。VO2maxはものさしの一つであって、競技成績そのものではない。そして、3週間で+5%が大きいか小さいかも、対象が19歳前後の中距離ランナーだという前提とセットでしか語れません。すでに走り込んでいる若い体で起きた変化です。
数字を持ち帰るなら、この形がいいと思います。同じ熱でも、体の応じ方は一つではない。ただし持久力の指標の動き方は、男女で似ていた。
この研究が言っていないこと
どこまで持ち出せるか。線を引いておきます。ここを書かない紹介記事は、読み物としては軽くなりますが、あとで誰かを困らせます。
第一に、人数です。数十名規模の、一つの報告。同じ条件でもう一度やって同じ結果が出るかどうかは、この研究だけでは分かりません。
第二に、対象です。平均19±1歳の中距離ランナー。日常的に走り込んでいる若い競技者たちです。健康を気にして自宅サウナを検討されている60代・70代の方とは、体の前提がまるで違います。日本人を対象にした研究だとも報告されていません。ここを飛ばして「男性は血流が倍になる」と書いてしまうと、事実からずいぶん遠いところに着きます。
第三に、温度です。101〜108℃。日本の一般的な設定より高い温度帯です。数字が出たからといって、ご自宅のサウナ室を100℃超に上げる理由にはなりません。むしろ私たちは、その温度を追わないことをおすすめしています。年配の方が長く使う部屋なら、なおさらです。
第四に、これは3週間の体の変化を測った研究であって、病気の予防や治療について何かを示したものではありません。サウナに入れば持久力が上がります、とも書けません。こういう条件で、こういう変化が報告されました。そこまでです。
そして、いちばん大事なこと。心臓や血圧に持病のある方、お薬を飲んでいる方は、サウナの入り方をご自身だけで決めないでください。何度の部屋に何分、水風呂は使っていいのか。具体的に主治医へ相談してから始める。それだけで、ずいぶん安心して長く使えるようになります。
私たちが見てきた範囲では、最初に主治医へ相談されたお客さまほど、その後の使い方が続いています。無理をしないので、億劫にならないのだと思います。

同じ部屋の中に、いくつもの温度がある
ここから先は、研究の話ではありません。施工する側から見た、部屋の話です。
私たちはサウナ室をお引き渡しする前に、温度計を一つではなく複数置きます。ストーブの直上、上段ベンチの座面の高さ、下段ベンチ、そして足元。同じ部屋の、同じ時刻の数字です。
そして毎回、驚かれます。数字がそろわないからです。
熱い空気は軽いので、上へ行きます。天井近くにたまり、床の付近には冷たい空気が残る。当たり前の物理ですが、部屋の中に立ってみるまで実感がわきません。私たちが見てきた範囲では、上段の座面の高さと足元とで、二桁の開きが出ることは珍しくありません。壁のパネルが92℃を示していても、それは一点の数字にすぎない。
岩手の家は、冬の底冷えを前提に作ります。断熱と気密を丁寧にとっているお宅ほど、この上下差は素直に出ます。床がしっかり冷えたままで、天井付近だけが熱い。悪いことではありません。むしろ、その差を使えるということです。
これは、記事の前半で紹介した研究とも重なります。あの研究では101〜108℃という条件が明記されていました。逆に言えば、条件を書けない温度の話は、比べようがないということです。表示温度と、体が実際に受ける温度は、同じではない。
ですから私たちは、サウナ室の話をするときに必ず「どこで測った何度ですか」と伺います。意地悪をしているのではありません。条件をそろえないと、良し悪しの話にすらならないからです。

二段ベンチは、我慢比べの代わりになる
ここまで来ると、冒頭のご夫婦の話に戻れます。
「もう出る」と「まだ早い」は、我慢比べで解く問題ではありません。座る高さで解く問題です。
上段と下段で、体が受ける熱がこれだけ違う。ということは、二人が同じ部屋にいながら、違う熱さの中にいられるということです。奥さまが下段、ご主人が上段。あるいはその逆。途中で入れ替わってもいい。少なくとも、扉を開けて室温を落とす回数は減ります。
そのために必要なのは、まず室内の高さです。上段を作るには、座面の上に頭と肩が余裕をもって収まる寸法が要ります。ここを削ると、上段が「座れるけれど頭がつかえる棚」になってしまう。KUUTAの設計でも、ベンチの高さと天井までの寸法は、間取りの段階でいちばん先に決める項目です。あとから足せない寸法だからです。
下段も、単なる踏み台にしないほうがいい。座って足がぶらつかない高さ、背中を壁につけられる奥行き。長く座る側の居場所として作っておくと、その一段が本当に使われるようになります。
もう一つ、ロウリュのこと。熱した石に水をかけて蒸気を出すことをロウリュと呼びます。蒸気も上へのぼりますから、同じ柄杓一杯でも、上段と下段では体感の跳ね方がまるで違う。声が出るほど熱いと感じる人と、ちょうどいいと感じる人が、同じ部屋に同時にいられます。
石の量が多いストーブほど、蒸気は柔らかく、温度の落ち方もゆるやかになります。石は熱をためる素材だからです。逆に石が少なければ、立ち上がりは速いかわりに、ロウリュのあとに温度が落ちやすい。どちらが良いという話ではありません。二人でゆっくり座る使い方なら、蓄熱の効く側へ寄せておくと楽になる、というだけのことです。
これは効能の話ではありません。座る場所の話です。
岩手の冬に、一台を二人で使う
岩手の冬は長い。11月から3月まで、外に出るのが億劫な日が続きます。夕方に降り出して、翌朝は雪かきから始まる。そういう季節に、家の中に熱い部屋が一つあることの意味は、正直なところ数字では書けません。
研究が示したのは、同じ熱を受けても体の応じ方は一様ではない、ということでした。女性と男性で違い、おそらく同じ性別の中でも違う。だとすれば、サウナ室に必要なのは「正しい一つの温度」ではなく、「選べる複数の居場所」だということになります。ベンチを二段にする理由は、そこにあります。
D'STYLEでは、薪サウナヒーターのHARVIA Legend 240やM3といった機種から、屋外に置けるペレットサウナまで扱っています。石をたっぷり積める薪のストーブは、蓄熱が効いて温度の落ち方がゆるやか。電気ヒーターは立ち上がりと管理のしやすさ。どれをおすすめするかは、間取り、電気の容量、煙突の抜き方、そしてご夫婦の使い方で変わります。
盛岡・国道4号沿いのショールームでは、実際に火の入った状態をご覧いただけます。設置をご検討でしたら、まず「二人で入りますか、お一人ですか」から伺わせてください。ベンチの段数と室内の高さは、その一言でおおよそ決まります。
雪の夜に、扉を開けずに済むサウナ室を。私たちが作りたいのは、それくらいのものです。
今回ご紹介したのは、中距離ランナー26名を3週間追った一つの報告です。人数も年齢も限られていますし、101〜108℃という条件は、日本の一般的なサウナの設定とも違います。ここに並べた数字をご自身の体に当てはめる前に、持病のある方・お薬を飲んでいる方は、まず主治医にご相談ください。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Kirby NV ほか, Sports Medicine - Open, 2021(PMID 34297227)
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



