ここ数年、確実に増えているご相談があります。古民家への薪ストーブ設置です。祖父母の家を継いだ方、移住して曲り家を買った方、蔵をリノベーションする方。今日は、古い家と火の話。結論を先に言えば、古民家に薪ストーブを入れると、家が、いちばん喜びます。

あの家は、火とともに設計されていた
そもそも、古民家は、火のある前提で建てられた家です。囲炉裏や竈の火が、暖房と煮炊きと乾燥を受け持ち、立ちのぼる煙が、梁と茅を燻して、虫と腐れから守っていました。あの黒光りする太い梁は、何十年分もの火の煙が、じっくり仕上げた色です。この「煙で家を守る」知恵は、囲炉裏の火を絶やさなかった昔の暮らし、そのもの。火を失った古民家は、いわば心臓を抜かれた状態です。湿気がこもり、冬は底なしに寒く、家の傷みも進みやすくなります。薪ストーブの設置は、その家に、心臓を戻す作業なのです。太い梁と鋳物のストーブの相性は、写真で見るのと、実物を前にするのとでは、まるで違います。(囲炉裏の話は、こちら。)
岩手の曲り家と、火の記憶
岩手には、火と暮らしが濃く結びついた、独特の民家があります。南部曲り家です。母屋とうまやが、かぎの手の形につながり、人と馬が、同じ屋根の下で冬を越した、この土地ならではの造り。その中心には、やはり囲炉裏がありました。遠野の千葉家住宅のような立派な曲り家を訪ねると、囲炉裏を囲んで人と馬の気配が満ちていた、かつての冬が、目に浮かびます。火は、暖房であると同時に、家族と家畜と家そのものを、まとめて生かす装置でした。厩の馬は、囲炉裏の熱の余りで暖まり、人は、馬のいななきと体温を、頼もしく感じながら眠る。ひとつの火を、家じゅうの命で分け合う暮らしが、ここにはありました。古民家に薪ストーブを迎えることは、この土地が長く続けてきた「家の真ん中に火を置く」暮らしを、今の形で受け継ぐことでもあります。
古民家の寒さに、輻射熱は強い
古民家の冬の寒さは、体験した人にしか分からない、本気の寒さです。天井は高く、隙間は多く、断熱材はほとんど無い。エアコンの温風は、あの空間では、天井に逃げていくだけです。ところが薪ストーブの輻射熱は、空気ではなく、土壁と柱と床と、そこにいる人を、直接温める。遠赤外線が体の芯に届くので、広い土間や吹き抜けのある家ほど、輻射式の強みが活きます。もちろん、限界もあります。家全体を新築同様にとまでは行きませんから、「火のまわりに暮らしの中心をつくる」発想が現実的です。昔の人が、囲炉裏の間に集まって暮らしたのと、同じ知恵です。(輻射熱の話は、こちら。)
現実的な注意も、正直に
正直な注意も、書いておきます。古民家では、煙突の経路と屋根まわり、茅葺きや古材との安全な距離の確保が、新築より丁寧な段取りを必要とします。床の補強がいる場合もあります。そのぶん、下見が大事です。図面の残っていない家も多いので、実際に伺って、梁と屋根裏を見て、その家に合う答えを、一緒に組み立てる。手間はかかりますが、この仕事は、私たちにとっても腕の見せどころであり、何より、楽しみでもあります。その家が歩んできた長い時間を想像しながら進める仕事に、退屈な瞬間は、ひとつもありません。
受け継いだ家に、火の記憶を再び
おじいちゃんの家の梁の下で、孫が薪ストーブの火を眺めている。古い家に火が戻ったあとの、私たちがいちばん好きな景色です。受け継いだ家は、火が入ると、暮らしの現役に戻ります。岩手・盛岡のD'STYLEは、古民家や築年数の古い家への設置経験も豊富です。まずは下見から、どうぞお気軽に。
写真: Thenehra (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



