旅先では、その土地のサウナに入る。これが、暮らしにいちばん近づける瞬間だと思っています。言葉が通じなくても、同じ熱を分け合っていると、ふしぎと打ち解けてくる。裸で汗をかいて、気づけば笑い合っている。肩書きなんて、熱の前ではあってないようなものです。ただ、ひとつだけ心得がいる。国が変われば、作法も変わる。知らずに入ると、そっと眉をひそめられることもあります。
とはいえ、そう身構えることもありません。世界のサウナには、驚くほど共通した芯がある。そこさえ押さえておけば、あとは土地ごとの違いを面白がればいいんです。私が旅先で覚えてきた作法を、国ごとに少し紹介してみます。
まず、どこでも同じ「三つの基本」
どの国へ行っても変わらない礼儀が、三つあります。ひとつ、入る前に体を洗う。汗も汚れも落としてから、熱の部屋へ。衛生というより、次に入る人への思いやりです。ふたつ、座るときはタオルを敷く。木のベンチに、直接肌をつけない。汗を残さないための、世界共通の約束ごとです。みっつ、大声で話さない。サウナは、静けさを味わう場所ですから。声を落とすだけで、その場の居心地がぐっとよくなります。難しいことは何もなくて、この三つができていれば、たいていの国で「わかっている人」として迎えられます。

ドイツ|裸が、いちばん清潔。
最初はドイツ。この国で水着のまま入ると、かえって驚かれます。標準は完全な裸。水着は汗を吸って不衛生、というのがこちらの考え方です。男女混浴もめずらしくない。最初はやっぱり戸惑いますが、まわりもみんな同じ姿なので、そのうち気にならなくなります。時間になると、サウナマイスターが現れる。熱した石にロウリュを注ぎ、大きなタオルで熱波を送る「アウフグース」です。ショーでもあり、儀式でもある。始まったら、途中で抜けるのは無粋とされます。おしゃべりは控えて、最後まで熱と香りに身をゆだねてください。
エストニア|土曜の夜は、家族の時間。
さらに北へ。バルト海に面したこの国の南部には、いまも煙突のない「煙サウナ」が息づいています。ユネスコの無形文化遺産です。土曜の夜は、家族でサウナに入る神聖な時間。慌ただしく汗を流すための場所ではありません。白樺の若枝を束ねた「ヴィヒタ」で、肩や背中をやさしく叩く。血のめぐりがよくなって、森の香りが部屋いっぱいに立ちのぼります。急ぐでもなく、しゃべっては、ときどき黙る。そのゆっくりした時間ごと楽しむのが、ここの入り方です。
スカンジナビア|熱と冷の、往復。
北欧のサウナは、なんといっても熱と冷の往復です。フィンランド、スウェーデン、ノルウェー。熱い部屋で温まったら、外へ出て体を冷ます。デンマークの人などは、ためらいもなく冷たい海へ飛び込んでいきます。凍った湖に穴を開けて入ることも。夏なら、沈まない太陽の下で、夜どおし熱と水を行き来する。ここで飛ばしてほしくないのが、冷やしたあとの休息です。北の人たちは、この静かな余韻をいちばん大事にしている。急いで「ととのおう」とすると、その時間をまるごと逃してしまいます。

静けさの国、にぎわいの国。
作法には、その国の気質がよく出ます。フランスのサウナは、とにかく静か。おしゃべりは控えめに、勝手にロウリュを注ぐのもご法度です。石にかける水の量は、その部屋にいる全員に関わることですから。温泉大国のハンガリーだと、入浴後に仮眠室があって、携帯電話は持ち込み禁止。ひと眠りしてから帰るのが、こちらの流儀です。韓国のチムジルバンは、入り口で靴を脱いで館内着に着替え、家族や友人と一日をだらだら過ごす。トルコのハマムでは、あたたかい大理石に寝そべると、職人があかすりと泡で全身を清めてくれます。ならびを見ていくと、どこも暮らしぶりがそのまま作法になっているのがおもしろい。
そして、日本。
日本にも、胸を張れる熱の文化があります。温泉と、銭湯です。湯船の外できちんと体を洗ってから浸かる。この習わしは、世界に出しても恥ずかしくない清潔さだと思います。海外から来た連れに、ひとつだけ先に伝えておきたいのがタトゥーのこと。日本では、入れ墨があると入浴を断られる施設が、まだあります。向こうでは自由でも、ここでは事情が違う。知っておくだけで、気まずい場面をひとつ減らせます。小さなタオルの使い方も独特です。湯には浸けず、頭にのせるか、洗い場にそっと置いておく。よその国では、まず見ない光景かもしれません。
作法の違いは、旅の面倒ごと……じゃなくて、たぶん楽しみのほうです。
正しさより、その土地の呼吸に、そっと合わせてみる。
迷ったら、まわりを見て、まねをすればいい。それでも分からなければ、近くにいる人に聞いてしまえばいいんです。たいていの人は、自分の国のサウナを誇りに思っています。作法をたずねられて嫌な顔をする人は、まずいません。それどころか、いちばんいい席を笑って教えてくれたりします。
世界のあちこちで入ってきて、いつも思うことがあります。熱を囲むうれしさは、どこの国もたいして変わらない。作法は違っても、その奥にある気持ちは同じなんだな、と。フィンランドで教わったその感覚を、私たちは岩手のサウナづくりに持ち帰りました。サウナの設計・施工のこと、それに世界中のサウナの話も、盛岡・国道4号線沿いのショールームでお話しできます。ご相談は無料です。



